第31話 殺人テレビ 最終話

一体、何がどうなっているのだ。どうして、テレビに僕やこの部屋が映っているというのだ。全く持って意味が分からない。テレビに映る僕もまた、ただただ困惑を表情に浮かべている。


テレビの電源が再び消え、部屋の様子が映し出されただけなのではないか。そんな考えが一瞬過りもした。


しかし、それは考えられない。何故なら、テレビの画面が明るいからだ。ということは、やはり僕の部屋が番組の中で放送されている訳である。しかし、何の為に──。


頭の中は混乱していく。それと同時に、発生源の分からぬ恐怖をも覚え出す。何だか背筋が寒くなり、身体がわなわなと震えだすのだ。


理由は分からないが、何だかとても嫌な予感がする。良からぬことが起こる前に、この部屋から逃げ出さねば。


そう思い、立ち上がろうとする。しかし、それはできなかった。

「へ、へ?」


何故だか分からないが、立ち上がることができないのだ。力を込めても、身体は動こうとしないのである。


だが、諦める訳にはいかない。困惑しつつ、両足に強い力を込め再び立ち上がろうとする。


しかし、またしても立ち上がることはできなかった。まるで尻に瞬間接着剤でも付いているかのように、座ったままでいることしかできないのだ。


また、それと同時にあることに気づいた。というのも、僕と同じ動きをテレビの中の僕もしているのだ。つまり、リアルタイムでこの部屋の様子が映し出されているのである。


もしや、部屋に誰かが隠しカメラを設置したのだろうか。一体、誰が、何の目的があって──。様々な疑問が過ると同時に、頭は更に混乱していく。

「どうなってるんだ! おい、ふざけんなよ!」


こんなことをした相手の正体すら分からぬまま、怒りの声を上げる。しかし、そうしたところで何かが変わる訳もない。その声は、虚しく部屋の中で反響するだけである。


いや、本当に意味が無いのだろうか。僕は少し考えた後、先程とは異なる言葉を大声で発する。

「父さん、母さん、助けてくれ!」


家の中には両親がいるのだ。この時間帯は眠っているのだが、大声で叫べば起きてくれるはずだ。何せ、僕の部屋と両親の寝室は近い場所にあるのだから。


僕は再び大声を発する。

「助けてくれ! お願いだ!」

何度もその言葉を発する。最早、そうすることしかできないのだった。


けれど、部屋の外からは足音が一切聞こえない。両親には、この声が聞こえていないのだろうか。あらん限りの力を込め、声を発しているというのに。


それから、どれ程の時間が経過したのだろう。暫しの間叫び続けていた訳だが、結局両親がこちらに来ることはなかった。


気づけば、叫び過ぎて喉が痛くなっていた。声を発することは、もうできそうにない。おまけに、顔は涙でびしょ濡れになっている。


最早、何をしても無駄なのか。そんな絶望的な気分にすらなっていた折、ふと扉の開く音が部屋に響きだした。

「来てくれたの?」


絶望に包まれた世界に希望の光が差したかのように、その音は僕の鼓膜に響く。僕はそこに両親の姿があることを祈りつつ、扉の方へ首を傾けようとする。しかし、視界にテレビの画面が映ると首の動きを止めた。

「誰?」


僕の視線は、テレビの画面に注がれている。そして、そこには部屋に入ってきた見知らぬ人物が映し出されていた。


その人物は、仮面を被り赤いマントを羽織っていた。故に、性別や年齢は分からない。ただ、身長が高いので男の可能性が高いのだろうか。


その人物は、テレビに映る僕に徐々に近づいていく。そして、その足音が直ぐ側から聞こえてくる。


一体、この人物は何者なのだ。どのようにして、僕の家に入ってきたのだ。そんなことを考えてみたものの、それはどうでも良いことである。それよりも重要なのは、その人物が包丁を持っていることだ。


一体、その包丁で何をするのか──。そんなことは、考えるまでもなく分かることだった。


殺される。今から僕は、この名前も知らぬ人物に殺されるのだ。そんな直感が、脳裏に過った。


しかし、どうして。何故、正体も分からぬ人物に殺されねばならないのだ──。


そんなことを考えた後、ようやく全てに気づいた。


殺人テレビというのは、他者が殺害される様子を映し出す番組ではなかったのだ。殺人テレビを見ようとした当人が殺害される様子を、映し出すものだったのだ。


つまり、僕はこれから自分が殺害される様子を眺めることになるのである。それが分かると、恐怖すら越え可笑しな気分になってきた。

「ハッ……ハハハハハッ!」


口元からは、乾いた笑い声が出てくる。生きることにすら諦念を抱くと、こんな気分になるらしい。最早、全てが馬鹿馬鹿しくなっていた。


その内に、仮面の人物は僕の直ぐ側まで近づいていた。画面一杯に、笑顔を浮かべた仮面が映し出されている。


僕はというと、その仮面以上に愉快な笑みを顔に浮かべていた。ああ、そうだ。僕は愉快で仕方ないのだ。


これから、僕は殺されるのだ。それも、僕があんなことをしたばっかりに。何という可笑しな事態なのだろう。これ程、面白いことはあるだろうか。ゲームなんかよりも、余程面白いではないか。


今の僕には、テレビに映る光景がとても面白いもののように映っている。画面に映し出された僕もまた、狂いながら笑っていた。


そして、仮面の人物は包丁をこちらに差し出してくる。それは喉元に宛がわれ、やがてそこから温かい血が流れていく。そして、その刃先がより深く刺さると、僕は──。


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