第14話 鮫島賢司の悲鳴

 なんだ? 何が起こったんだ?


 どうしてあの動画がネットに出回っている?


 あればLINEグループだけで共有していたはずの仲間内のコンテンツだったのに。


 俺だってイジメの動画を上げたら炎上することぐらい分かっている。だからこそ明智にはLINEグループでだけ共有するように言ったし、バカな真田樹里亜が動画を拡散しないように釘を刺しておいたのだ。


 それなのに、なぜ……?


 動画拡散され、すさまじい勢いで怒りのクソリプがあちこちから飛んでくる。


 だりい。そんのいちいち相手にしていられるかよ!


 それでも炎上の勢いは止まらない。


 何も知らない奴が憶測で俺の悪口を書き、亀頭野郎がどれだけキモいかについては触れもしない。あのなあ、あいつの動向を見ていたら、お前らだって同じことをすると思うぞ?


 柔らかく説明したつもりが、発言の切り抜きで「ひどい正当化」と拡散される。


 まるで魔女裁判だ、有罪ありきで、話し合いが通じない。これがネットニュースでしか知り得なかった炎上という奴なのか。


 なに? 今度は音声の証拠があるだと?


 呟きに添付された音声データ。嫌な予感しかしないが、無視するのも憚られた。


 再生ボタンを押す。


『しかしよお、あの亀頭野郎のキモっさたらないな』


『あいつマジでキモいんだけど、ケンジ、今度あいつシメてよ』


 再生されたのは俺と真田樹里亜の会話のようだった。嫌な予感がする。


『そうだな。あの野郎、莉奈にちょっかいを出しているみたいだからな』


『え? マジ? ウケる。あんなキモい奴がりなりなと対等に付き合えるわけないじゃん』


『ところがな、それを分かっていないのが非モテの童貞なんだよ』


『厄介だねえ』


『笑いごとじゃねえよ。あんなのに関わったら莉奈の格が下がる』


『ケンジはりなりな推しだからねえ。ねえ、望みの薄い美少女よりもあたしと付き合ったら?』


『あの野郎、絶対にシメる。自分の立場を理解させてやる』


『あ、今あたしのこと無視した』


『あの野郎を教室に呼び出せ。理由は何でもいいからボコボコにして、二度と莉奈に手を出せないようにしてやるよ』


『ケンジこわーい』


 ケラケラと笑う真田の声で音声は終わる。


 俺の名前だけがはっきりと出た録音。おそらく多くの者は話し相手があの「じゅりぴ」であることを知らない。


 盗聴か? いや、そんなはずがない。


 ――俺は、こんな会話はしていないぞ。


 まさか、これが噂のAIで作った音声というやつか?


 だとすれば悪質過ぎる。俺ですら自分の声かと思うほど精巧に作られたものだった。他の人間が聴けば実在する会話だと思うだろう。


 ふざけるなよ。これをハメやがって。


 誰だ? 誰なんだ? この俺に逆らう愚か者は?


 自分がどれだけ危険なことをやっているのか理解しているのか?


 見つけたら許さない。徹底的に痛めつけて後悔させてやる。


 バカがさっそくAI音声に喰いついてきている。クソバカ、それは偽物の音声だ!


 この俺をコケにしやがって。それは偽物だと3万人のフォロワーを通じて言い続けてやる。


 なに? それなら偽物であることを証明しろだと?


 そんなの出来るわけないだろう? 魔女裁判か、これは?


 クソリプを引用してバカとして晒し上げる。こういうカスには恥をかかせてやらないといけない。


 クソが! なんでさっきよりも炎上している。おい、お前は俺のフォロワーだろ?


 味方をするどころか俺を攻撃するとはどういうことだ? お前も引用で晒してやる。


 クソが。誹謗中傷もクソリプも鳴りやまねえ。まとめサイトまで立っている。後で全員殺してやる。


 クソが、クソが、クソが……!


 俺の築き上げてきたものが崩れ落ちていく。


 なんでだ? 俺が何をしたっていうんだ?


 壊れていく。何もかもが壊れていく。あっけなく。


 俺の未来が、俺の夢が、金色に輝く栄光の日々が。


 全部、全部粉々に破壊されていく……。


 クソが。クソが……!


 クソ、クソ、クソぉぉおおおおおおおおおお!!!

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