勇者様に憩いの場所を

寂しがり屋のライトガンナー

プロローグ

第1話 旅立ちの朝

 コポ…コポ…コポ…

 早朝、ゆっくりとコーヒーを落とす音だけが店内に響く。

 今日の一杯目は必ず試飲してその日のブレンドを決めるのだが、如何せんこの世界の似たようなモノを代用しているので、正直納得する出来になった事は一度も無い。未だ試行錯誤の日々だ。まあ、それでもお客さんは喜んでくれているので問題はないのだけれど…うむ、今日もなかなか難しい。


「おはよう…店長…今日の分…持ってきた…」

 勝手口から、か細くも可愛らしい声がする。

「おはようリーシャ、今日は早いね。すぐ作るから、少し待ってて」

「ん…」

 彼女は運んできた籠を俺のそばに置くといつもの席へ。持って来てくれたのは朝採れ野菜。まだ幼い彼女がこれを運んで来れるのだから、魔法とは実に便利で羨ましい。届いた野菜を早速切り分け、ベーコンと混ぜて手早くミニサラダに、夜型でこれから寝る彼女には安眠効果のある薬草茶と、デザートに小さな杏仁豆腐もどきも。これが彼女専用モーニング。

「お待たせ、今日もありがとうね」

「ん…これの為…だから…大丈夫…」

 彼女がゆっくりと食べ始めると、今度は軽快な足音が近づいてくる。


「はぁ…、はぁ…、おはようございます…、店長。ふぅ…、すみません、遅くなりました」

「おはようマイラ。大丈夫、今日はリーシャが早かっただけだから、いつも通りだよ」

「そうなんですか?あ、おはようございます、リーシャさん」

「ん…おはよう…マイラ…」

 慌てて入って来たからか、髪と頭巾が少し乱れている。俺が頭を軽く指差すと、すぐに気が付いて恥ずかしそうに死角に引っ込み整えだす。この愛くるしさと慎ましさ。彼女のお陰でこの店はむさ苦しさとは無縁だ。本当に助かる。

「それじゃあ改めて、開店準備始めますね」

「うん。よろしく」

 リーシャの食事の邪魔にならないように、マイラは椅子とテーブルのセッティングをして看板を出しに行く。俺はお冷の準備と仕込みの続きだ。


「あ!おっはよー、マイラ!今開店?丁度良かったぁ」

「あら?おはようございます、ミリアリア様。どうされたんですか、こんなに早く」

「うん、ちょっとね。おっはよー、テンチョー!あ、リーシャちゃんもまだ居る。おっはよ♡」

 朗らかな声が颯爽と店内へ。開店早々賑やかなことだ。

「何だよ、また来たのかミリー。お城の朝食はいいのか?」

「何よ、ご挨拶ね。だいじょーぶ、今日はここで食べるって言ってあるから。あ、私はいつものサンドイッチとカフェラテね♪」

「はいよ。それと、まだあの子は寝てるから、声は少し小さくしてくれよ」

「はーい。…もう、テンチョーはいっつも私にだけ冷たいんだから。ヒドイよ。ねぇ?」

「…」

「あ、あはは…」

 まったく、『女三人寄らば』とは聞くが、あいつは一人でもああだからな。出会った直後のあのしおらしさは何だったのか。


 …ミリーと…出会った…


(…貴方には…手助けを…)


 …あれが精霊の導きとは未だに信じ難いが、現にこうして不思議な世界にいるのだから受け入れざるを得ない。その手助けとやらが本当にこれで良いのかも分からないけれど、俺には他に出来る事がない。…不安は尽きない。それでも、俺は俺に出来る事をやるしかない。本当に不安で大変なのは、あの子なのだから。


 トン…トン…トン…


 おっと、階段から足音が聞こえてきた。出来ればもう少し寝かせてあげたかったけど、このやかましさじゃそうもいかないわな。それじゃあ出迎えますか、当店のV.I.P.を。


「おはようございます。昨夜はよくお休みになられましたか?勇者様」

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