撫惚のナデル 〜はずれスキル〈頭を撫でた相手を惚れさせる能力〉で無双する……いや流石にこんなスキルで無双なんてできるわけがなくないですか!?〜
朽尾明核
第1話 スキル鑑定の儀式
You play with the cards you're dealt. whatever that mean.
配られたカードで勝負するしかないのさ。それがどういう意味であれ。
(『PEANUTS』/Charles Monroe Schulz)
†
待ちに待った日がやって来た。
朝。
村の中央にある集会場、その前の広場に、村中の若者たちが集められていた。
年齢は、十五歳から十八歳まで。
小さな村だ。村中かき集めても十数人しかおらず、全員が顔見知りだった。俺たちは緊張と期待から、落ちつきなくそわそわと互いに視線を合わせている。
そんな俺たちの前に、ふたりの人が立っていた。
ひとりは、老人だ。
雪のように白い髪。それと同じくらい白い髭。髭は長く、膝の辺りまで伸びている。
灰色のローブ。片手には樫の木の杖を持っていた。杖を頼りにしている様子は無い。背筋はしゃんと伸び、足腰も確かだ。
側らには、同じローブを羽織った女の子を連れている。孫って訳では無いだろう。
ジイさんが、手にした杖を掲げた。それだけで、ひそひそと囁いていた俺たちはシンと静かになった。
ジイさんが口を開く。よく通る声だった。
「さて――。全員集まったようなので、これより、〈スキル鑑定の儀〉を執り行う。年長者より、ひとりずつ集会所の中へと入ってくるように」
それだけ言うと、ジイさんは集会所の中へ姿を消した。
残された女の子が、手にした紙へ目を落とす。
「それではナデルさん、どうぞ」
俺の名前が呼ばれた。その場にいた全員の視線が俺に集まる。俺は内心の緊張を押し隠すために、一度肩を竦めてみせながら、前に出た。
「行きましょう」
女の子に先導され、俺は集会所の入り口へと向かう。背中から「がんばれよー」という声が聞こえた。
振り向かずに手を上げ、ひらひらと振ってみせる。
背中に掛けられる声が「かっこつけんなー」に変わった。格好良いだろうが。
女の子と共に扉をくぐり、集会場へ入る。
村の中にありながら、普段はあまり縁の無い建物だ。大人たちが『重要な話』をするときに使われる場所であり、得てしてそういう場合子どもは遠ざけられる。一応十五の成人を過ぎているのだから、王国の法律上は立派に大人ではあるのだが、なんだかんだ理由をつけて子ども扱いをするのが大人という人種だ。
だだっぴろい集会場は、普段とはうってかわって綺麗に整頓されていた。その中央に椅子を置き、ジイさんが腰かけている。
ジイさんが手招きをする。
俺たちはそちらに近寄った。
「私は、アナライという」ジイさんが名乗った。「そちらはシディア」
シディア、と呼ばれた女の子が頭を下げる。
「知っていると思うが、我々は王都の〈異能機関〉の人間だ。これから君たちの持っている〈スキル〉を『鑑定』させてもらう」
アナライの言葉に、俺は背筋を正す。
〈スキル〉。
この国では、十五歳を超えると誰もが異能の力に目覚める。
女神の加護とも言われているその異能は、多種多様な種類があり、人により使える力が異なるのだ。
ある者は、手を使わずに大きなものを念じるだけで動かし。
ある者は、他人の心の声を聞き取り。
また、ある者は、未来に何が起こるのかすらを、知ることができるという。
何ができるのか。それは個人個人によって異なる。〈スキル〉の内容は千差万別だ。
そして、人によって様々な効果を持つ〈スキル〉が、今後の人生を大きく左右する重要な要素になることは言うまでもない。有用なスキルであればあるほど、将来の選択肢は広がっていく。
〈作物の成長を促す能力〉であれば農業をやる上で非常に役に立つ。〈物の価値を見極める能力〉であれば商人として大きなアドバンテージだ。
極端な例でいえば、〈手で触れたものを金に変える能力〉にでも目覚めれば、その後一生遊んで暮らせるだろう。
当然、俺が欲しいスキルは――。
「ところで、君はいくつになる?」アナライが尋ねる。
「つい先日、十八になりました」
「ふむ……、今までに何かスキルの兆候が見られたことは?」
「いえ、ありません」
王都のような都会ならともかく、俺がいま住んでいる辺鄙な村では、〈異能機関〉の人たちがやってくるのも数年に一度くらいの頻度になる。なので、俺も〈スキル〉に目覚めてから三年ほどは経過しているはずなのだが、特に何か身の回りで不思議な現象が起こったためしはない。
「そうか……。では、『鑑定』をはじめる」
アナライは、俺に足元に屈むよう言った。
その通りにする。
椅子に座るアナライの前に片膝をつき、頭を差し出す。まるで、王の前で跪く臣下のように。
「私のスキルは、〈その人間がどんなスキルを習得しているか判別する〉というものだ。これで、君たちがどういったスキルを覚えているのか――それを調べられる、というわけだ」
なるほど。
「強力なスキルを持っていると、王国の騎士団にスカウトされたりすると聞きましたが」
俺の言葉に、アナライは頷いた。
「そういう事もある。もっともかなりのレアケースだがね。……君は騎士団に入りたいのか?」
「いえ」俺は首を振る。「俺、冒険者になりたいんですよ」
「ふむ……。そうか。で、あれば、戦闘系統のスキルや、旅に役立つスキルであればよいな」
「はい」
「とはいえ、自身の望む系統のスキルが発現しているとは限らん。心得ておくように」
「わかりました」
アナライが手を伸ばし、俺の頭を鷲掴みにする。
大きな手だった。
五本の指でがっしりと固定される。見た目から想像するよりも、かなり力があった。
痛みを感じるほどではないが、頭を振ったりはできない。
少しすると、じんわりと、アナライの手のひらが熱を持ち始めた。
彼の手に掴まれている頭から、全身に熱が伝わっていく。あたたかい。
ぱっ、と。
不意にアナライが手を離した。
解析が終わったのか。
「立ちなさい」
彼の言葉に促され、立ち上がる。
「スキルの鑑定が終了した」
「はい」
――いよいよだった。
いよいよ、俺に宿る〈スキル〉が何なのかが判明する。
俺は、この日のために鍛錬を欠かさなかった。身体を鍛え、戦いに備えてきたのだ。すべては、冒険者になるために。
理想を言えば、火系統のスキルが欲しい。魔物は火を恐れる。戦闘においても火は有用だし、旅の中でも火を自由に起こせる能力は重宝するだろう。
もちろん、〈火を操る能力〉は、あくまで理想に過ぎない。さきほどアナライに釘を刺されたように、自分が望むスキルが手に貼る可能性は低い。
火系統でなくとも、戦闘に関連するスキルであればありがたい。俺の目的のためにも、攻撃や防御を強化・補助するスキルは喉から手が出るくらいに欲しいところだ。
実際、戦闘に役立つスキルを習得する確率はどれくらいなのだろうか。ときどき村を訪れる冒険者は、やはり戦闘関連のスキルであることが多い。村の中ではリュードおじさんなんかは〈自分の放つ飛翔物を操作する能力〉を使って弓矢で狩りを行ったりしている。ワンパさんは畑仕事を〈筋力を増加させる能力〉を使ってこなしているが、あれも戦闘に役立てられるだろう。俺の知っている村のみんなの能力でいえば、戦闘で使えそうなのは……三割から四割といったところだろう。そう考えると少し低いかもしれない。
しかし、戦いだけが冒険者の仕事ではない。険しい道や場所を旅をするために役立つスキルだってある。ウェルザおばさんは〈明日の天気がわかる能力〉を持っている。もちろん農作業で役立つスキルであることは言うまでもないが、旅先の天候を知ることができる異能は、冒険者の旅にだって活かすことができるはずだ。大工のビルさんの〈担いだ物の重さを無くす能力〉は、荷物を背負って旅する冒険者が習得していれば涙が出るほどありがたいに違いない。戦闘系のスキルではなくても、冒険者の仕事で活用できる能力は多い。
そういった観点からいうならば――『冒険者』という職業の特性から加味しても――程度の差こそあれ、大抵のスキルが活かせるのではないだろうか。
欲を言えば、戦闘系のスキルが欲しい。だが――。
すっと、アナライが目を細める。
俺はぐだぐだと考えていた思考を止め、彼の言葉に集中する。
俺のスキルは、なんだ。
「君のスキルは――〈頭を撫でた相手を惚れさせる能力〉だ」
………………
…………
……え?
……今なんつった?????
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