黒眼のカードマスター ~無頼漢の成り上がり~
迷井豆腐
第1話 デスゲーム
唐突だが、現在俺は謎の組織に拉致監禁されている。いや、正確には
「しかし、俺らがこっち側に回る事になるとはなぁ。いよいよ焼きが回ったっつうか、歳かねぇ?」
「三十手前の男が言う台詞じゃないな。組のもんじゃ、俺らはまだ若手だろうが」
「おい、知ってるか? 世間様じゃ、三十手前は立派なおっさんらしいぜ?」
「……だとしても、
と、こんな危機的状況でもくだらない冗談に付き合ってくれるこいつは、俺の職場の同僚であり相棒、そして幼馴染とも呼べる男だ。名前はシチサン、髪型はオールバックなのにシチサンという、何とも酔狂な奴だ。ガキの頃に見事な七三分けだったから、多分それが由来になってんだろう。ああ、よりにもよってそれが由来なんだ。笑ったら殺されちまいそうだ。
……予め言っておくが、別に冗談を言っている訳じゃないんだよ。俺は大真面目も大真面目、なんだが、これには訳がある。当然の事ながらシチサンは本当の名前ではないし、昔から付き合いのある俺はこいつの本名を知っている。知ってはいるんだが、ここに閉じ込められてからというもの、なぜかそっちの名前を口にする事ができないんだ。実際に話す事も、こうして心の中で呟く事も。魔法か何かを使っているんじゃないかってくらい、摩訶不思議な現象だよ。ちなみに、それは俺の名前についても当て嵌まっているようで――
「グラサン、また変な事を考えていなかったか?」
「ちょっとしか考えてねぇよ」
「そのちょっとで俺の髪を凝視するんじゃねぇ」
――そう、グラサンである。確かにサングラスをかけてはいるが、いくら何でもそのまんま過ぎじゃあねぇかと。まあ、見た目を反した名前になったシチサンよりかはマシ……? うん、マシだと思っておこう。
「なあ、あそこの二人が犯人なんじゃないか? だって、明らかに輩の人――」
「――馬鹿、目を合わせるなって……! 何をされるか分かったもんじゃないぞ……!」
遠くでチラチラと俺らの方を見ている連中が、また無実の罪を押し付けようとしていやがる。まったく、酷いもんだ。ちょいとドスの効いたスーツを着て、ほんの少し強面なだけだってのに。
「おい、言われてるぞ。そのパステルカラーの青スーツ、一体どこで買ったんだ? 眼鏡と相まって、逆にインテリヤクザ感が増してんぞ」
「目に優しいだろ。お前こそ、その馬鹿みてぇに真っ赤なスーツはなんだ? どこに居ても目立つじゃねぇか。これからパーティーにでも行くつもりか?」
……まあ、多少は目立ってしまう原因が俺達にあるってのも、反省しておこうと思う。けど、ここに拉致られた男共も、決して俺らの奇抜さに負けてねぇと思うんだよな。例えば向こうで壁を背にしている男なんだが。
「……」
全身鎧である。ああ、中世の騎士が着ているような、重苦しい全身鎧を着ているんだ。腰には剣らしきものを下げているし、明らかにあいつの方が俺らよりも危険人物だろ。何だ、ファンタジーなら許されるのか? ファンタジー無罪なのか? ああ?
「神よ、愚かな私達を赦したまえ……」
あっちでずっと祈りを捧げている奴もやばい。どっかの部族みてぇな恰好はまだいい、実際にあり得るからな。けど、何か耳の先が尖ってる。つか、耳が長い。所謂エルフ耳っつうの? これはファンタジー無罪なのか? ワンチャンコスプレの可能性もあるが、耳が絶えずピクピク動いているし、とてもそうとは思えない。
「俺、肉、ぐいたい……!」
極めつけはアレだ。言ってる台詞からして既にやべぇが、こいつの見た目は完全に狼男のそれ。人間の体に、狼の頭がくっ付いていやがる。おい、そこのお前ら。俺らを怪しんでいる暇があるなら、まずは自分の身の安全を何とかしろ。お前らの隣に居るんだぞ、そいつ。
「ったく、改めて眺めてみても、おかしな光景だ。シチサンはどう思う?」
「……大体は同じ感想だ。容姿から推察するに、集められたのは十代前半から四、五十代の男。明らかに日本人じゃねぇって風袋の奴も、日本語を喋っている――ように聞こえる。ただ会話の内容によっては、明らかに文化が異なるもんが多いな。一方で俺らみてぇなスーツ姿の会社員、ランドセルを背負ったガキも居るときた。全員が男って事以外、何の統一性も感じられねぇ」
「そもそも、世界観が違うのも交じっていやがるからなぁ……」
百歩譲って俺らみたいなはみ出し者は仕方ないとしても、あんなガキまで
「状況だけを見れば、これからデスゲームでも始まりそうな雰囲気じゃねぇか?」
「なら、お前は真っ先に死にそうだな。そんな
「人の事を言えた面かよ、てめぇ? だが結局、今分かってんのは敵が外道、かつ人外って事だけか――よぉッ!」
そう言って、近くの鉄板の壁を殴りつける。壁をぶっ壊すつもりで放った、俺渾身の一撃だ。……だが壁に衝突した筈の俺の拳は、次の瞬間に柔らかな感触に包まれた。まるで巨大なスポンジを殴ったかのような、そんな感覚だ。結果から言うと、壁には全くダメージを与える事ができなかった。同時に、俺の拳も全くの無傷のままだ。
「……ああ、やっぱおかしいわ。この壁が無傷なのは兎も角として、俺の拳まで無事ってのはな」
「何らかの力が働いて、お前の攻撃を無力化した、か……名前の件含めて、俺らの知る常識からは外れた現象だな。まあ、
とまあ、見ての通り壁を壊しての脱出は不可能。この空間を囲う鉄板に継ぎ目のようなものはなく、同時に扉らしきものもない。一体どうやってここに放り込まれたのやらも不明、まあ魔法的な何かなんだろうが、これは考えるだけ無駄だな。ともあれ、犯人側から何かしらのアクションがない限り、俺らは特にやる事もないって感じだ。
「う、うう……ここ、は……?」
もう何度目かになる現状の確認をしていると、気絶していた最後の1人が漸くお目覚めになったようだ。何とも奇抜な学生服を纏った少年だ。その学生服、腹の部分が丸見えになっているけど、自分で魔改造した訳じゃねぇよな? そんなもの着てたら、ぜってぇ腹冷やすぞ。もっと暖かくしろや。
「まあ、学生服くらいは今更か……ここで一番最初に目を覚ましたのは俺だったからな。あん時は流石にビビったぜ? 周りで寝ている奴ら、全員死んでるもんかと思ったからな」
「勝手に俺まで殺すんじゃ――グラサン、上から何か来るぞ」
「ああ、もう見てる」
あの学生が目覚めたのと同じタイミングで、天井の鉄板部分から何者かがすり抜けてきた。バグったゲームの映像かってくらいの光景だが、そうとしか言いようがない。本当に壁を通り抜けているんだ。人数にして――3人。全員女、しかも幼ささえ感じさせる見た目だ。天井をすり抜けた後、そいつらは徐々に俺らの居る場所へと降りて来る。この辺りで、他の奴らも気付き始めたみたいだ。
「て、天使……!?」
誰かが叫んだ。ああ、確かにアレはどう見ても天使だよな。純白の翼があるし、頭上には天使の輪っかもある。けど、何だかなぁ……同じ穴の狢っつうか、俺らと同じ匂いがするんだよなぁ。
「皆様、お目覚めになられたようですね。おはようございます。そして、始めましょうか。皆大好き、デスゲームをッ!」
ほら、あんな事を言っていやがる。
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