第6話 諦めも肝心

 トントン。というドアをノックする音で目が覚めた。

「おはようございます。飛鳥さん。採血せていただきまーす」

「――あ、はい。おはようございます」

 ぼんやりした記憶の中。俺は白衣の天使様6?くらいの声を聞くと反射的に返事をしていた。

 そして病院にやはり居ることを理解した。

 なお、朝から白衣の天使様の声を聞くことが出来る生活は生活でなかなか良いかもしれない。

 ――寝ぼけているだけなので本気で聞かないでほしい。

 また返事をする際、やはり自分の声は記憶にあるものとは違った。

 すんなりと認めるのもだが。認めた方がいろいろ考えなくて済みそうだったので、俺は飛鳥玲奈という女になっている。と、頭の中で自分に言い聞かせる。

 言い聞かせたから何かあるわけではないが。

 昨日やらかして、中身が男ですとは誰にも言っていないので、とりあえず、退院までこのままいこうと、思ったからだ。

 下手なこと言って入院延長は勘弁だからだ。

 俺が返事して、ちょっと考え事をしている間に足音とペンライトの明かりが近付いてきて、寝ていた俺の横で白衣の天使様がカチャカチャと採血の準備をしている。

 ちなみにまだ薄暗い室内だが白衣の天使様の手元のみペンライトで明るくなっている。

 あのペンライトデザインも良く。ちょっと欲しくなった。

 とか思っていると、その後すぐにブチュっとされた。

 意識が遠のくのではなく。意識がはっきりとしてきた。目が覚めた。いや、白衣の天使様の声を聞いた時点で目覚めていたか。

 注射器をブチュっとされていると。新たな白衣の天使様7?もやって来て、テキパキと採血が進んでいった。

「はい。お疲れさまでした」

 そして気が付けば針を刺された腕のところには小さな絆創膏が貼られた。

 採血が終われば白衣の天使様たちは部屋からあっという間に出て行く。

 スピーディーだった。

 効率よくパパっと済ませて行ったのだった。

 少しすると隣の部屋。または正面の部屋からだろう。同じような白衣の天使様の挨拶からの会話が聞こえて来た。

 朝は時間との勝負なのかもしれない。


 軽く背伸びをした後俺は身体を起こす。

 そしてベッドから降りる。

 棚に置いておいたタブレット端末を操作すると手元が一気に眩しくなる。

 一瞬顔を背ける俺。

 少しして目が慣れたところでタブレットの画面を見ると、やはりまだ早朝の時間だった。

 どうやら採血は早朝にするようだ。

 朝食の時間はまだなので、二度寝もできる時間。

 普通なら寝たい。でも目が覚めた俺はそのまま窓の方へと向かった。

 日の出は見えない向きらしいが外が少しずつ明るくなってきている。

「この時間は静かでいいよな――」

 特にすることがない俺は少しの間ボーっと外を眺めた。

 人影もなく静まり返った町。

 まるで時間が止まっているような時間。

 ――自分1人だけのような時間。

 とても落ち着く時間だ。


 ぼーっとした後、ふとガラスにうっすら映る知らない顔に目がいく。

 やはり俺――女になっている。

 何回でも確認するが。ゾウさん今も家出中。朝のもっこりはなく。手をズボンに突っ込んで一応確認してみてもツルツルだ。

 ゾウさん。

 一体どこに行ってしまったのか。もちろん行先はなど俺にはわからない。

 特にゾウさんが家出したことに対して改めてショックを受けた。ということではないが。することもなかったので、俺は電気が付いて廊下の方も少しにぎやかになって来るまで窓のところでぼーっと過ごした。

 その際3回ほどゾウさんの所在確認をしたのは詳しく言わなくてもいいだろう。

 ――決して女の身体になったからあれやこれと朝っぱらからしてたわけではない。

 もしかしたら突然(多分ないだろうが)ゾウさんの復帰があるかもしれないと。0.01%の可能性を信じてモゾモゾしていただけである。

 ――いや、そりゃ気になるよ。

 でも病院だから我慢した方だ。


 特に自主規制画面を表示することはなく。

 ぼーっとしていると時間は過ぎて行った。

 電気が付き。少し廊下の方が騒がしくなってきた頃。俺は洗面所へと移動する。

 鏡の前に立つとやはり姿は俺ではなかった。誰か知らない女。いや、飛鳥玲奈っていうやつだな。

 さすがにもう知らない女は失礼か。

 飛鳥玲奈。彼女の姿になっていた。

「っか。オバケじゃん!」

 自分の身体じゃないことにもう驚くことはなかったが。長い今の自分の髪に驚いた。髪が本当に長い。腰あたりまであるのも驚きなのだが。その髪が爆発。爆発というと大げさだが。寝癖がすごいことになっていた。

 腰まである髪が総立ちしてました。とか言うことではないが。ボサボサですごいことになっている。昨日適当に寝たのも問題かもしれない。

 そういえば、白衣の天使様が薄暗い中よくこれ見ても平気だったな。と、思ったが。もしかすると、寝ていた時はそこまで爆発していなかったのだろうか?

 自分じゃ自分の姿はわからないので過去のことは頭の隅へと追いやった。

 というか、現状。この髪をどうすればいいかわからない俺だがこのままではだったので、鏡の前でベッドの横にあった棚のところに置いてあった櫛。病院で借りているセットの中にあったプラスチックの櫛を使いしばらく格闘した。

「――朝からめっちゃ疲れたぞ。こいつこんな作業日頃してるのか?」

 結果、朝ごはんが来る頃までにはそこそこマシにすることができた。

 それから俺は朝ごはんをペロッと平らげた。普段なら足りないと思いそうな量だったが。やはりこの身体の胃が小さいのだろう。

 少なく見えてもお腹は満腹に近くなった。

 昨日と同じくトレーをナースステーションの前に返却した後は特にすることがない。何も聞いていない俺はベッドの上でタブレットをいじっていた。 

 昨日は気が付かなかったが。このタブレット。スマートフォンに入っていることが多いメッセージアプリも入っていたが。この飛鳥玲奈はほとんど使っていなかったらしく。約1か月の入学式の頃だろう。学校から送られてきたメッセージのみ入っていた。

 本当は交友関係がわかるかと思ったが。の状況らしい。俺と似ている。

「――にしても。こいつ。家族いないのか?」

 タブレット端末を触りつつ。俺は家族であろう連絡先などを探したが何もなかった。

 そもそも学校しか連絡先も入っていない。

 もしかすると彼女は機械に弱い説もあったが。でも自分の名前などの設定はしてある様子なので、そこまで扱えなくはない気がしたが――ないものはないので仕方ない。

 そもそも俺も『家族の連絡先は?』と、聞かれると暗記しているわけではないので返事に困ると思うが。

 ちなみにこのタブレット端末。電話もできそうだったので、すでに俺は自宅へと連絡をしようとしたが――俺の実家。固定電話はなく。両親の携帯電話しか連絡方法がないため。両親の携帯電話の番号を覚えていなかった俺。連絡できずそっと電話のアプリを閉じたのは秘密だ。

 ――これじゃ飛鳥玲奈とかいうやつと俺。同レベルという。

 とまあ俺のことは置いておき。

「入院しているのに親が来る気配。連絡すらないか。まあ遠方に居てすでに向かってきている可能性もあるが」

 タブレット端末をいじりつつ。俺が独り言を言いつつ。こやつは1人暮らしか?すでに親元を離れている?と、考え出したころだった。

 白衣の天使様その1。一番初めに女医さんと一緒にやって来た看護師さんが部屋へとやって来た。

 この後何か検査でもあるのだろうか?と、一瞬思った俺だったが。そのあと白衣の天使様からのお話は今日中に予定通り退院とのことだった。

 記憶がぶっ飛んでいる以外。やはりこの身体は異常なしだったようだ。

 

 また、今更だが俺が今入院していた病院は、学校と提携している病院らしく。支払いも俺が持っていたタブレット端末で出来るらしい。お金持ってません。未払い。ということにならないみたいだ。

 白衣の天使様1と話が終わった後バタバタとしている間に支払いの金額などが書かれた紙が届いた。

 タブレット端末の支払いアプリで紙に印刷されていたバーコードを読み込むと支払いが完了した。

 どうやら事前に設定されている口座?から引き落とされるらしい。

 そういえば残高とか全く知らないが。支払いできたので気にしなくていいのだろう。

「飛鳥さん。寮母さんが来ましたよ」

 支払いが終わり。少ない荷物をまとめていると、白衣の天使様その――8?9?かな。ここにきて、また新しい白衣の天使様が部屋に顔を出し。その白衣の天使様と一緒にふくよかな薄い茶髪のおばちゃん。ぱっと見の印象は大阪のおしゃべり好きなおばちゃん。飴ちゃんを持っていそうな人がやって来た。ちなみにヒョウ柄の羽織物着ている。

 なお、先ほど白衣の天使様との会話で、すでに寮母さんが来ることは聞いていたため俺は知らないおばちゃん登場には驚くことはなかった。ちょっと見た目は予想外だったが。

 そうそう、ちなみに寮母さんということは、この飛鳥玲奈は学校の寮生活だったらいし。

 寮生活か。俺出来るかな?という不安が一瞬よぎったが。とりあえず行ってみるまでは余計なことを考えに事にした。

 ということで、寮母さんにまず挨拶をする。

「えっと、こんにちは。あと、わざわざ病院までありがとうございます」

 ちなみに今の俺。この飛鳥玲奈の身元引受人?保護者はこの寮母さんらしい。詳しくはまだ聞いていないが。いろいろ訳アリの可能性が出てきた。

 まあ単に遠方から入学しており。そのため寮母さんが学校に居る間は世話をしてくれている可能性もあるが。

「いいのいいの。もう。連絡もらった時はびっくりしたわよ。でも何ともなかったみたいで安心したわー。記憶がなくたって問題ないわよ。おばちゃんがしっかりサポートしてあげるから。あっ、そうそう着替えがないのよね。とりあえず私の持ってきたから。ちゃんと下着は新品よ」

「あ――はい。ありがとうございます。うん?私の……?」

 第一印象。おばちゃん。めっちゃ元気。オーラがパワフルだった。

 若干後ろに居た白衣の天使様が引いていた気がするのは――気のせいと思っておこう。

 ――いや、気のせいではないかもしれない。実際元気満タンオーラ。みたいなのが見える気がする。

 ちなみに確かに着替えはなかった。退院となると汚れた体操服を着ることになるか。または院内で何か売っているだろうか?とか考えていたところだったりするのだが。その心配は不要だったらしい。

 らしいが。おばちゃんが持っていた紙袋から出てきたのは、今おばちゃんが着ているヒョウ柄――おぅ……。

 ちなみに下着はシンプルな白の上下(俺が見てもすごく子供っぽいものに見えたが――まあ急だったので仕方ないだろう)がちゃんと入っていた。

 またサイズは――ちょっと大きかったが。でもないよりはるかに良いだろう。


 そのあとの俺は寮母さんと一緒に病院を後にした。

 ちなみに寮母さんはみんなからは「おばちゃん」と、呼ばれているらしく。また以前のこの身体の持ち主。飛鳥さんも「おばちゃん」と、言っていたらしいので、俺もそのまま「おばちゃん」と、呼ぶことにした。

 病院を出た俺たちはまず病院前のバス停からバスに乗り松阪駅へと向かった。

 ちなみにバスの支払いもタブレット端末で可能だった。このタブレット便利すぎる。このタブレット端末を持っているとこのあたりは何でも支払いできるみたいだった。

 また迎えに来てくれたおばちゃんもタブレット端末が支給されているらしく。おばちゃんも同じタブレット端末を使っていた。

 バスでの移動中はおばちゃんによる寮生活の話が一方通行で行われた。

 なお。無駄話多めだったので、バスが駅に到着するまでには終わらなかった。というか、寮生活の話始まっていただろうか?おばちゃんの過去の話を聞いていた気がするが――まあいいか。

 とにかく松阪駅前のバス停に到着。もともと住んでいたところの隣町なので、見覚えもあるし。周りの建物も知っているものばかりだ。

 本来なら自分の家の確認――と、なるのだが。今の俺飛鳥玲奈。なので、「おばちゃんの話は全く進んでいなかったけど、そういえばここから電車で孤島にある学園行くんだっけか?」と、昨日調べていたことを思い出しつつ俺はおばちゃんに付いていった。

 なおおばちゃんは俺がちゃんと聞いている?と、思っているのか。今は過去に付き合った男。に付いて話している。

 なお俺はおばちゃんの話より周りの様子を見ていた。

 おばちゃん。ごめん。だが。俺おばちゃんの元彼さんの話は今いらん。

 それから俺とおばちゃんは駅構内へ。

 すると昨日は学園へと行く路線。海の上を走る路線なんてないだろ。思っていた俺だが。駅の中に入ると本当に路線図が増えていた。

 ガチで増えていた。

 もともとあった路線図の看板はもちろん見覚えがあるものだが――書き足した。とは思えない。ちゃんと他の路線と一緒に印刷されたであろう形で海の上へと続いている路線が書かれていた。

 そもそも松阪駅から乗ることが出来る鉄道会社は2つ。JRと近鉄。その2つに変わりはなく。今まで見たことがある。共に普段から使っていた鉄道だった。

 けれど今の松阪駅の中。駅の案内も増えていた。

 JRと近鉄の真ん中というべきか。松阪駅2番線に知らない行先が増えている。そもそも2番線ってあったか?だったが――そこはちょっと記憶が定かではないので置いておく。

 また、ちょうど今俺とおばちゃんは改札の前に来たところなのだが。JRのホームの方に見知ら青色を基調としたディーゼル機関車とその後ろに5両。客車もディーゼル機関車に合わせてあるのだろう青色を基調とした客車が止まっていた。

 まるで昔走っていたトワイライトエクスプレスの客車――いや、色が青色なので北斗星の方が正しいか。 

 とにかくこのあたりでは見たことのないディーゼル機関車と客車が止まっていた。

「あら、ちょうど電車あるじゃない。あれに乗って学園行くのよ」

 ちょうどおばちゃんがその俺が見ていた列車を指さしているので、間違いなくあの見知らぬ車両がこの後のる列車らしい。

「な、なるほど……」

 俺の知っている駅なのに、まるで一夜にして生まれた魔法のような路線に驚く俺は気の抜けた返事しかできなかった。

 

 駅へと入る際はここでもタブレットで支払い可能なのでスムーズに改札を通過した。

 改札を抜け階段を使い。ホームを移動し2番線へと行くとまず2番線へと入る手前でもう一度改札があった。

 そこではお金の支払いではなく。学生証を提示する必要があるらしく。タブレットで学生証を提示すると通過できるようになっていた。

 どうやらこの路線は完全に学園関係者しか使えないらしい。

 ちなみに俺の前ではおばちゃんもおばちゃん専用?学生証ではないと思うが職員証?多分学生証に似たものをかざしていた。

 2番線の改札を抜けると、先ほど見えていた青色を基調としたディーゼル機関車と客車が目の前に停車している。

 客車はすべて同じ作り。クロスシートだった。昔のSLに使われているような客車だった。

 ちなみに車内はほとんど空だ。

「この時間はもうみんな学校に行っている時間だからね。空いてていいわね。朝は満員になることもあって、座れないこともあるんだから。さあさあ乗って乗って」

 おばちゃん曰く。時間によってはこの5両もの客車がいっぱいになるらしい。

 おばちゃんが先に車内へと入ると俺も続く形で車内へと入った。

 各車両の前後に入り口があり。入り口を入るとデッキがあり。トイレもあった。

 車内を見つつおばちゃんに付いていく。

 デッキから車内へのドアは自動ではなく手動だった。

 また車内は昔の車両をリニュアルしたようで、車内は先ほど外から見た様子と同じ。クロスシートが続いている。

 ちなみに先ほどの車内のドアもだが車内は基本木目調。車内の電気は洋風のデザインであたたかみのある雰囲気の車内。

 また昔の車両のようだが。冷暖房はちゃんと付いていた。

 列車に乗っての感想は、急に海外の列車に乗ったような雰囲気だった。


 特に車内で席に決まりはないらしく。おばちゃんは入り口に一番近い席に座ったので、おばちゃんの斜め前に俺は座った。

 ちなみに座席のシートはふかふかだった。

 そのあとは説明しなくてもわかるかもしれないが。バスの続きだった。

 おばちゃん話す話す。

 話の脱線が多いのと、一方通行の会話の為。俺は終始聞くことになった。

 今度はおばちゃんのモテ期の話がメインだった。


 おばちゃんの話が始まって少しした頃。俺の乗った列車は動き出した。

 はじめはディーゼル機関車だったからか。そこそこ大きなエンジン音と唸りが響いてきていた。

 あと、窓が開いていたからか少し燃料の香りもした気がする。

 でもなんか旅の始まり見たいで雰囲気は良かった。

 俺の乗った列車は、はじめは普通に町中を走っていた。

 多分だがJRの線路を鳥羽方面に走っていた。

 このまま行くと俺の家に近付く。と、思った時。ガッタン。とポイントを渡った感じがし少しずつ列車の走る位置が高くなった。

 おばちゃんの話を聞きつつも外の様子を見ると、どうやら高架の線路になったようで、さらに進行方向も一気に海側に向かって走り出していた。

 この場所にこんな線路があった記憶はない。

 しかし、列車は走っている。

 その光景に驚いていると、警笛が聞こえたと思ったと同時くらいに、列車は本当に海の上を走りだした。

 窓の外は海。

 陸がどんどん離れて行く。

 まるで俺の初登校?初入寮?を祝うかのように快晴の空。海がキラキラ光っている。この雰囲気ならこの後の生活も何とかなるかもしれないと、明るい気持ちになった。

 なったのだが。

 快調に海の上を走ること15分ほど。

 おばちゃんの話はまだモテ期についてから抜け出せていなかったが。そんな中、本当に島が見えてきた。そして立派な5階建てくらいの建物も見えてきたのだが。何故かどんより曇っていた。

 雨……降らないといいな――という天気だ。

 さっきまでの快晴が嘘の様で、この先の俺何か起こるかもしれない。と、思わせる雰囲気だった。 

 すると、俺が外を見ていたからだろう。おばちゃんがモテ期の話を中断し。俺と同じく窓の外を見つつ話し出した。

「ああ、あれが学園だよ。まあ私は基本寮の方にしかいないから。学園に行くことはほとんどないんだけどね。まああの坂道は毎日は上りたくないからね。って、こっちは天気悪いわねー。洗濯物が乾かないじゃないの――まあ大丈夫でしょう。でね。その時は私を取り合う男たち……」

 島が近付こうと。天気が崩れようと。おばちゃんの話は止まらない。

 そういえば、今ちらっと何やら寮から学園までは坂道あるらしい。ことを聞いたが。今見えている建物もそこそこ高いところにある。通学ちょっと大変かもしれないな。

 おばちゃんはそのあとも列車が島の駅に到着するギリギリまで話を続けた。

 結局おばちゃんのほぼモテ期の話で終わってしまった。

 でも聞き流しかけていたが。一応私立碧鸞鳳学園しりつへきらんほう碧鸞鳳へきらんほうの意味は青い鳥の事らしく。ここで学んだ生徒が巣立っていくことを願い――などなどと話していた気がする。

 あと、この学園テーマカラーは青らしい。なのでディーゼル機関車と客車も青なのだろう。

 なお、現在俺がこの学園に関して思っていることは、この学園の名前を漢字で書ける自信がない。

 

 少しすると列車は島の駅へと到着した。

 駅は1番線と2番線のみで1番線の方には四日市方面。2番線には松阪方面と書かれていた。

 駅の作り自体はシンプルで特に待合室とかはない。

 駅のホームと改札(小さな駅舎改札のところにある)のみの様子だ。

 本当に海外の田舎の駅。という感じだった。

 なお、おばちゃんのマシンガントークは島の駅に着いてから。列車を下りてからも続いた。

 本来は記憶がなく。初めてこの場所に来る俺への説明がほとんどとなりそうなのだが。気が付けばほとんどおばちゃんの話だった。

 でもさすがに島に着いたら。寮へと案内してくれるのかと思ったら――。

「そうそう、ここの駅員さんはね――」

 何故か駅員さんの話になった。

 まあ寮へはおばちゃんに付いていけばたどり着けるだろうが。これは自分で学園のことなどを後で確認しないといけないみたいだ。

 ちなみにだが。今おばちゃんに噂されている駅員さんは今は不在だ。

 おばちゃんからの説明は受けていないが。改札のところに平日の日中は無人駅と書かれていた。

 どうやら学園の為だけの駅なので、列車は日中も走っているみたいだが駅は日中無人の様だ。

 さらによく見ると、小さな文字で土日祝日。学校休校日は除く。と、書かれていたので、普通なら学校が休みならそれこそ無人になりそうだが。学校が休みだと有人になるらしい。もしかすると。休みは人の出入りが激しいのかもしれない。

「そうよそうよ。この島はね。買い物できるところが一切ないからね。何か必要なものがあったらまあ四日市の方までは30分くらいかかっちゃうから。みんな今来た松阪の方に買い物行くのよ」

 すると、特に俺が聞いたわけではなかったが。タイミングよくおばちゃんが教えてくれた。この島はどうやら学園と寮。駅のみらしい。確かに今見る限り駅以外は何もない。

 松阪駅では2つの改札を通過したが。こちらは1つの改札のみ通過すると駅の外となった。

 ちなみにその際ちらりと駅構内の路線図と時刻表を見ると、確かに今乗って来た松阪方面ともう1つ四日市方面の路線図と時刻表があった。

 もちろんこの四日市の方へと延びる路線も記憶にない。

 不思議な感覚がしつつも、ここに来ておばちゃんがやっと寮へと案内すると言い。歩き出したので俺も慌てて付いていく。

 駅を出るとすぐに坂道と平坦な道への分かれ道があった。

 ともに道路はちゃんと整備。舗装されている。

 坂道の方が学園へと続いており。平坦な方の先には2階建てのアパートがいくつか見えていた。

「あれがこの学園の寮よ。まあ使っている子は遠方に子だけだから。そこまで多くないけどね。ちなみに寮って言ってるけど、生活は個々の自由よ。門限もないし。まあアパートで一人暮らししているって感じね」

 おばちゃんの説明を聞きながら歩くとまず2階建ての一軒家があった。

 ぱっと見はまだ新築のような新しい一軒家だ。

「私はここに住んでいるの。あと今はいないけどおっちゃんってみんなに呼ばれている人も一緒よ」

 一軒家の前で一度止まりおばちゃんの説明を聞く。

 どうやらこの一軒家にはおばちゃんともう1人。寮で生活する生徒に対して、料理などを担当している「おっちゃん」と呼ばれている男性と2人で生活しているらしい。ちなみに夫婦ではないと。

 そのため一軒家だが1階と2階で生活空間が分かれているとおばちゃんが話していた。

 それからまた歩き出し。歩きつつおばちゃんの話を聞いているとアパートのような建物がいくつか並んでいるところにやって来た。

「えっと、飛鳥さんはね。F棟の207号室よ」

 おばちゃんはそう言いながら一番奥にある建物を指さした。

 今俺の目の前にあるのがA棟。そして一番奥に見えるのがF棟なので、一番奥がこの飛鳥さんが使っていた部屋らしい。

 おばあちゃんと共にF棟へと移動する。アパートのような建物が立っているところは舗装はされておらず。少し凸凹した道が続いた。

 なお、この時間は多くの学生が学校に行っているたま寮のあたりは静かだった。

 おばちゃんと共にF棟の207号室へとやってきた。

「鍵はね端末なのよ。だから端末がないと絶対に開かないからね。一応予備は学園の方で管理しているみたいだけど。端末大事に使うのよ」

 おばちゃんに教えられながらタブレット端末で学生証を表示して、ドアのインターホンのところにかざすとガチャっと鍵の開く音がした。

 このタブレット端末。常に日常生活で何かに使うようだ。

 鍵の開く音がして少しすると。またガチャっと今度は鍵が閉まる音がした。どうやら開けてすぐしか鍵が開いていないらしい。

「そうそう、飛鳥さん。今日はね。15時30分に学園の方に来るようにって。あとね。朝の6時から夜の21時まではさっき私が居る言った一軒家あったでしょ?あの隣に『碧鸞鳳棟』っていう食堂があるから自由に食べに来てね。もちろん自分で料理することもできるわよ。その場合買い物は島の外に行かないとだけど。あと、部屋の設備で困ったことがあったら遠慮なく聞きに来てくれたらいいからね」

「あ、はい。わかりました。ありがとうございます。あと15時30分に学園ですね」

 部屋の前でおばちゃんと話した後。おばちゃんはこの後食堂の準備や洗濯などがあるらしく先ほど聞いた一軒家、碧鸞鳳棟の方へと向かって行った。

 おばちゃんと別れた俺は再度タブレット端末を使って鍵を開けて部屋へと入る。

「――おじゃまします」

 一応飛鳥さんの部屋。

 身体は彼女の物でも中身が違うので一応小声で挨拶をしつつ入る。

 室内は暗かったので、荷物を玄関のところに置くと、まず電気を探して付ける。

 すると、整理整頓のされた部屋が現れた。

 というより生活感のない部屋があそこにはあった。

 必要最低限の物しか置いていない。

 なお、入ってすぐにキッチンがあり。部屋はそこそこの広さがあった。

 また右側には洗面所。お風呂が見えている。

 またワンルームかと思ったが。よく見ると奥にドアがあるので奥に寝室?がある様子だった。

 飛鳥さんの部屋。彼女の部屋に勝手に入って見ているという罪悪感のようなものを少し感じつつも女性の部屋に入ったことがないため。変にキョロキョロしつつ奥へと向かいドアを開けると――やはり寝室があった。

 どうやらこのアパート1LDKらしい。

 さらによく見るとレースのカーテンの向こうにベランダもあるように見える。

 学校の寮にしてはかなり良い部屋だと思う。というか普通のアパートと比べても綺麗で良い部屋だ。

 なお、そんな良い部屋だが。この寝室も生活感があまりない。一応少し私物はあるが。本当に物が少ない。

 移動中にちらっとだけおばちゃんから聞いた話(モテ期の話になる前)だと、飛鳥さんは入学してからここで生活しているとのことだったので、1か月と少しは経過しているはずだが。まるで入ったばかりだ。

 そのあと一応冷蔵庫の中身なども確認したが。飲み物が入っていただけ。冷凍庫の方は氷しか入っていなかった。 

 基本食堂を使っていて自炊をしていなかったと考えればまあ冷蔵庫を使っていないのもわかる。

 しかし、洗面所の方には特にこれと言って物が置いてなかった。

 くるりと室内を見た感じは、まるで退の様子にも見えた。

「――まあいろいろ考えるのは後か」

 タブレット端末を開くと現在の時刻は13時を過ぎたところ。

 おばちゃんの会話が長かったからか。お昼前には病院を出て1時間以内には着くと聞いていたが倍以上時間がかかっていた。

 けれど先ほどおばちゃんから言われた学園へと行く時間はまだ先。

 そしてお腹も少し空いているため、まずは食堂を見に行くことにしたのだった。

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