悪役令息だったらしい俺の行く末
ひよっと丸
第1話 なんでそうなった?
「侯爵家の男子をご所望だ」
重々しい空気の中、誰かが発した言葉はさらにその空気を重くした。
現王が高齢のため、次代にその玉座を譲ることになった。だが、それが問題の発端だった。第一王子が王位継承を辞退したのだ。理由は伏せられたが、仕える貴族たちは暗に知っていた。
「そのような理由で辞退なされずとも」
「しかし、妃となっても子をなせなければ女のせいされるであろう」
「無駄な争いを産みたくないのでしょう。第一王子殿下はお優しいお心をお持ちだ」
「直系と決められている以上、余計な思惑を取り除かれたいという思いは理解できる」
「対外的に子を持たぬパフォーマンスのための同性婚、か」
「王族に嫁ぐのであれば、確かに身分は重要ではあるが」
「王位継承の際に我々も世代交代をして忠誠を示したりはするが……」
「世代交代を予定している侯爵家は12件中5件だろう?」
「第一王子殿下は今年30だ。年齢も考えなくてはならん」
「うちはまだ5歳だ」
「我が家は跡継ぎだ。世代交代を考えているんだ」
「原因を作った夫人の家は如何した」
「取り潰されたに決まっているだろう。そもそも、そんな家の者、拒否されるに決まっているだろう」
「二十代で社交的な侯爵家男子なんて、おおざっぱすぎる」
「伯爵家では格が足りないと言われてしまったのだから仕方がなかろう」
「うちの次男は親族の家に婿入りしたぞ」
「未婚の男子がいる家はないのか?」
「「「「「オルシーニ殿」」」」」
その瞬間、その場にいた11人の目線が一斉にオルシーニ侯爵に集中した。
ずっと息をひそめていたオルシーニであったが、実はずっとわかっていた。自分の息子を差し出すしかないことぐらい。だが、もろ手を挙げて名乗り出るにはいささか状況がよろしくない。これが次期国王の伴侶であったなら、違う意味で腹の探り合いをしていたところだけれど、そうではない。玉座を辞し辺境の地に赴く第一王子の同性の伴侶なのだ。
「我が家も世代交代を考えて、おりますので、その、まぁ」
しどろもどろになるオルシーニであったが、実はもう腹の内は決まっていた。後継は次男で長男を差し出すことに。
「息子たちに説明をしたいので、その、あ、明後日、明後日に」
明日では早すぎると判断したオルシーニは、返事を明後日に先延ばしした。答えは決まっているのに。まあ、これが駆け引きというものだ。
「ジュリアーノ、レオナルド、よく聞いて欲しい」
自宅執務室で、オルシーニ侯爵は二人の息子を前に神妙な面持ちで口を開いた。答えは当の昔にあっさりと決まっていたのに、考えに考え抜いて、周りからの圧で仕方がなくと言った体で話し始めた。
「……と、言うわけでな。我が家も王位継承に合わせて世代交代をしようと思う。後継はレオナルドだ」
「は、はいっ」
名前を呼ばれた瞬間、レオナルドは驚きのあまり直立してしまった。その隣に座っていた兄のジュリアーノは頬杖をついて心底面倒くさいという顔をしている。
「もったいぶるなよ親父。理由はわかってる。俺に子種がないからだろう?あれだけ女を抱いたのに、誰一人妊娠させられなかった。つまり俺には子種がないってことだ。そんな息子に侯爵家を譲ったらお家断絶しちまうもんな?おまけに、俺が抱いたご令嬢たちがたいそうご立腹らしいじゃん」
そんなことを言いながら、ジュリアーノは足を組みなおした。手足がすらりと長く、均整の取れた体は貴族らしく品格のある所作がよく似合っていた。だが、よく手入れされた金髪の下にある顔立ちは平凡そのものだった。いや、平凡よりも劣るかもしれない。なぜならジュリアーノの目はとても細いのだ。細いと言っても開いているのかわからないということではない。一応二重だし、まつげも長い。だがそれがよろしくなかった、長いまつげのせいで瞳に影がかかり色が分からないのだ。整った顔立ちをしているだけに大変もったいないのである。その逆に、弟のレオナルドは父親に似てがっしりとした体つきで暗い髪色に茶色の瞳でパッとした顔立ちはしていなかった。つまりこの兄弟、次期侯爵という肩書がなければ女が寄ってこないというわけだ。
「わかっているのだな。ジュリアーノ」
「そりゃあね。道端で刺されるぐらいなら第一王子殿下の伴侶になる方が安全な生活が送れるってもんだよ」
どれだけの女を抱いたんだ。という突っ込みはもはやオルシーニ侯爵の口から出ては来なかった。だがそのせいで弟のレオナルドに浮いた話の一つもなかったのもまた事実である。
「明日、報告をしてくる」
「わかった。これでようやく堂々と出歩けるぜ」
「ジュリアーノ!」
「へいへい」
今は亡き妻の面影しかない息子のジュリアーノを見てオルシーニ侯爵は内心複雑な心境なのであった。
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悪役令息だったらしい俺の行く末 ひよっと丸 @hiyottomaru
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