第3話 大間のマグロと恐山と尻屋崎

 2日目。


 そもそもこのツーリング計画自体が、無理があって、1泊3日で青森県まで往復するのだ。


 さすがに十分寝たことで、その日の朝は元気だった。

 しかも、昨日と違い、晴れていて、風も穏やかないい天気だったので、一気に下北半島を走る。

 下北半島は斧のような形をしている半島だが、ここがなかなか面白い。


 というより、バイク乗りにとって、非常に走りやすい。

 信号機が少なく、真っ直ぐな道が多い。


 これはバイクを愛する人間にとって、一番重要な要素だ。


 途中「道の駅よこはま」というところに到着する。


(青森なのに横浜。のどかだなあ)

 神奈川県じゃないのに、横浜。

 そして、横浜市よりはるかにのどかな、青森県横浜町にある。


 さらに行くと、いよいよ下北半島の「斧」の部分になる。


 この下北半島には、国道338号がほぼ一周できるように走っているが、確か台風の影響だったかで、途中から通れなくなっており、内陸に迂回して、北側に抜けるルートをたどった。


 その後、通称「海峡ライン」と呼ばれる、クネクネと曲がりくねった道を走る。辺りは山、山、山の緑しかなく、たまに海が見える程度。もちろん、信号機などない。


 そして、たどり着いた仏ヶ浦ほとけがうら展望台。


 石灰岩が長年によって浸食され、まるで屏風のような巨石、奇岩が並ぶ不思議な光景をここで眺めることができる。


 そこで写真を撮っていると、声をかけられた。


「どっから来たんだべ?」

 的なことを言われたのを覚えている。


 その人は、地元、青森県のおじさんで、青森市から車で奥さんと来ていた。穏やかな人で、千葉県から来たと言ったら、さすがに驚いていたが、この後、大間崎や恐山に行くと言うと、色々と道を教えてくれるのだった。


 実際、あえてわかりやすく話してくれたのか、それとも元々そうなのか、訛っていても割と聞き取りやすい話し方だった。


 ちなみに、本物の青森県出身の御老人が話す、本物の津軽弁はさすがに私もわからない。

 北海道弁には、一部津軽弁と共通する言葉があるが、そこまで訛ってないし、方言の影響は受けていないからだ。


 おじさんにお礼を言って、またクネクネ道を走り、午後、ようやく大間崎に到着。

 本州最北端の碑などを写真に収める。晴れていたおかげで、対岸の北海道が海の向こうに見えたのが、感慨深かった。


 さすがに晴れた日曜日の昼。大間崎周辺は混んでいた。

 ただ、何とか、有名な「大間のマグロ」を食べたい! と思い、たまたま空いていて、一人でも入りやすそうな店を見つけ、大間のマグロに初チャレンジ!


 まあ、確かに美味かったけど、想像していたより美味くなかったような。


 と、思っていたら、後で某SNSのバイクグループで青森県出身の人が言うには、


「大間のマグロの旬は、9~12月だからその頃の方が断然美味い」


 とのこと。

 いつかリベンジしたい。


 その後、一度は行ってみたいと思っていた、あの地に足を運ぶ。


 恐山おそれざん


 そう。イタコで有名で「あの世に最も近い」と言われるところだ。


 何故、ここを選んだかというと、別にオカルトに興味があるわけではなく、私が昔から「死」という物を割と身近に感じていたからだ。


 何故か結婚式より葬式の方が多く足を運んでおり、友人、知人、祖父母、親(父)、親族を見送ってきた。


 だから、あの世に最も近い場所で、亡き父や親族のことを想い、最近、物忘れが激しい母のことを祈願しようと思ったのだ。


 ところが。

(何だこの道は!)


 大間崎から薬研やげん温泉という小さな温泉を経由して行くルートが一番近いのだが、獣道とまでは言わない物の、狭くて路上に落ち葉や小枝がゴロゴロと転がる、まあ、言ってみれば「酷道」とか「険道」に近かった。


 確か、県道284とか県道4だったと思う。


 大型バイクは一度転倒すると、起こすのに苦労するので、さすがにここは慎重に走り、何とか目的地にたどり着く。


 恐山は想像していた以上に、美しい場所で、宇曽利山うそりやま湖、あるいは宇曽利湖と呼ばれ、火山ガスや水蒸気が噴出している場所もある。


 だが、晴れていたその日、陽光に照らされてキラキラと輝く湖面は美しかったし、恐山に入ってみると、三途さんずの川があったり、「あの世」に模した極楽浜があったり、様々な「地獄」が表現されている場所があったりと、これはこれですごく貴重な場所だと思うのだった。


 一通り見て回り、お参りして賽銭も投じてから、出発。


 すでに夕方になりつつあったが、夏の日は長い。


 最後に、尻屋しりや崎へと向かった。

 ここには「寒立馬かんだちめ」と呼ばれる馬が放牧されていることで有名だ。


 そして、私は途中の風景に感動することになる。


 確か、県道6号「むつ尻屋崎線」だったと思う。


 ひたすら真っ直ぐに、定規で線を引いたような道がどこまでも続き、信号機がほとんどないし、交通量もほとんどない。


 ある意味、非常に「北海道的な」風景だった。

 そんな道が何キロにも渡って、森の中に続き、やがて海岸線沿いに出る。


 尻屋崎の入口には、ゲートがあり、そのゲート付近に可愛らしい馬、寒立馬が放牧されていたので、そこで撮影をして、灯台に向かう。


 灯台に行ったから何だ? という話ではあるが、バイク乗りは何故かこういう「端っこ」に行きたがる習性がある。


 後は帰り道だ。


 あまりお金をかけたくないのと、「行きと帰りは別の道にしたい」というライダー的習性が働いた私は、東北自動車道ではなく、途中まで無料の「三陸自動車道」を選ぶことにして、八戸を目指した。

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