青森県弾丸ツーリングの行方

秋山如雪

第1話 突然、思い立ち旅立つ

 私は普通のIT企業に勤めるサラリーマンだが、たまにシステムの再起動を行うため、夜勤の仕事をしている。


 そして、通常、夜勤は月曜日に入ることが多い。


 つまり、月曜日の夜から火曜日の朝までが夜勤であり、火曜日は夜勤明け休みだ。


 2023年6月のある日。その日程を利用して、土・日・月と3日間(実質2日半)でとある場所に、自分のバイクで行くことを計画した。


 青森県だ。


 北海道札幌市に生まれ、かつて上京するまで札幌市に住んでいて、対岸の函館市にも親の転勤の都合で住んでいたので、実は何回か行ったことがある青森県。

 しかし、実際にバイクで訪れて観光というのはやったことがなかった。


 目標は、「津軽海峡・冬景色」の歌で有名な竜飛崎、そして本州最北端の地、大間崎だった。


 急に思い立ち、そして一気に旅立つ。バイク乗りは基本、フットワークが軽いのだ。とりあえず、土曜日の夜だけネットから宿を予約。


 金曜日の夜。

 帰宅後にすぐ寝たが。


 いつもと違い、中途半端な時間に寝たことで、あまり眠れずに深夜0時頃に目が醒める。実質2、3時間くらいしか寝れなかったはずだ。


 そのまま、思い立って、バイクにまたがった。愛車はスズキ Vストローム650XT。


 何しろ、青森県は遠いのだ。

 家がある、千葉県某市から青森市まで、およそ710キロあまり。


 高速道路を使っても、8時間半以上はかかる。


 深夜に出発したのは、渋滞を避けるためでもある。私は基本的に田舎者(札幌市でも郊外の田舎に実家があったため)なので、渋滞が大嫌いなのだ。


 そして、走って走って走りまくっているうちに、いつの間にか朝になっていた。

 もちろん、途中で眠くなり、どこか適当なPAのベンチで30分くらい寝ていた。


 もはやホームレスのような有り様と言えるが、バイクは車と違って、車内で仮眠が取れない。


 朝、宮城県あたりで朝食を食べ、さらに走りだす。

(まだ半分かよ)

 という気持ちだった。


 つまり、大体、ざっくり計算すると、この宮城県仙台市あたりで全行程の半分くらい。


 しかし、実はここから先が長い、と感じる区間だ。


 何しろ、言い方は悪いが、仙台市を過ぎると、東北自動車道は単調になる。ひたすら真っ直ぐで、ひたすら変わり映えのしない森のような風景が道の両側に並び、同じような風景が延々と続く。猛烈に眠くなってくる。


 そして、途中何度か休憩を挟み、その都度、モンスターを飲み、ようやく午前10時くらいに何とかたどり着いた。


 東北自動車道の北の終点、青森インターチェンジだった。


(やっと着いた!)

 ここまで一気に走るのは、いくら大型バイクで、高速道路の走行が楽なバイクとはいえ、疲れるのだ。


 そして、私は青森県の風景を見て、意外な事実に改めて気づく。


(北海道に似ている)

 そう。人は生まれ故郷の風景に似た風景を見ると、親近感が沸くらしい。


 トタン屋根に、二重窓に、玄関フード、外に置かれている灯油タンク。これらは、主に豪雪地帯、そして冬季の備えとして、北海道の家では当たり前のように備わっている。


 逆に、本州の多くの地域で見られるような、古い瓦屋根の家はあまり見られない。


 実は以前、北海道にバイクで帰る時に、青森県まで行ったら、アスパム(青森県観光物産館)に駐車中に強風でバイクが倒れ、地元のおじさんに起こすのを手伝ってもらい、さらにその強風でヘルメットまで壊れるというアクシデントに遭っている。


 今回は果たして。


 ということで、まず向かったのは竜飛崎だ。


 青森県の地図の左側、津軽半島の先端部。石川さゆりの名曲「津軽海峡・冬景色」で有名な岬。

 そして、行ってみると。


(うわっ。風、強い!)

 その日の竜飛崎のコンディションは、ある意味、「最悪」だった。


 信じられないくらいの強風と、少し雨混じりの天気。


 6月なのに、少し肌寒いくらいの気候。


 結局、竜飛崎は悪天候により、天気がいいと見える北海道は見えず。「津軽海峡・冬景色」の歌碑の前で写真を撮るも、あまりの強風で、215キロもあるバイクが倒れそうで、心配になり、早々に退散。


 その後、楽しみにしていた、竜泊ラインは、強風に霧でほとんど何も見えず。本来は絶景ルートのはずのこの道は、強風に煽られ、疲労困憊こんぱいに。


 バイクというのは、悪天候に弱いのだ。


 後で知ったことだが、竜飛崎の別名を「風の岬」と言うらしい。それくらい年中、強風が吹くのかもしれない。


 さすがに睡眠不足がこの辺りから効いてきて、適当な道の駅に入り、そこの売店で昼食を買って、食べてまたもベンチで仮眠。


 それでも足りず、近くの山の中にあった、無人駐車場のベンチでまた寝る。


 一体、青森県まで来て、自分は何をやっているのか、と自問自答するような旅。


 ホテルはその日だけは予約していたのだが、もちろんチェックインは通常早くても15時。時間があったのだが、さすがに眠い。


 昨夜の睡眠時間は2、3時間だったためだ。


 夕方16時頃。

 早いけど、青森市街に向かった。


 ある目的を果たすために。

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