第8話 オアシスの異変 前編
目覚めると、少し早い時間だった。
寒いので毛布に包まりごろごろしていたら、気配を感じてかサリーさんが部屋にやって来た。姐さんもシーフギルド職員ですもんね。さすがっす。
でも、何の用だろう。
サリーさんが部屋に訪れた理由だが、例の毒についての謝罪で毒野郎の奥さんと娘さんがすでに訪れているっていう連絡だった。ちょっと時間が早すぎない? あいつのせいで普段から苦労してるのかもなぁ。
あまり待たせるのも可哀そうというか、申し訳ない感じがするので、さっさと会って終わらせることにした。
サリーさんに指示された場所は、ギルド入り口の個室。来客である奥さんと娘さんの他に、見張りモブの兄貴もいる。ここ兄貴の個室みたいなものだもんな。そりゃいるか。おざーっす。
椅子が用意されていてたのでそこにお互い腰を下ろし、改めて昨日の件で謝罪を受けた。やらかした本人がいないけれど、あいつ自分が悪いことしたって意識がないみたいなので、連れてきても碌なことにならないって判断かららしい。うん、正解。正しい判断だと思う。こっちとしても別に会いたいわけでもないのでね。
ただモブの兄貴が、経緯の再確認をしている時にちょっとニヤついていた。くそうくそう。みんな経験するみたいだから、情けない姿を想像できちゃうんだろう。
今回お詫びということで、乳鉢や試験管など初歩的な毒や毒消しを作る際に必要な器具をいくつか頂くことになった。習った毒以外に使う道具もあったので、基本のセットって感じ。
なーるほど。ここまでで、一つのイベントってことなのかな。知ってる内容と少し違うけれど、現実に近づけるとこんな感じになるんだな。
目の前の二人には特に恨みとかがあるわけでもないので、道具の受け渡し後さっくりとこれでこの件はお終いってことで話がまとまった。
どうでもいいけど、娘さんは奥さんに似てたんですね。要するに美人さんてことだ。なんであんな奴と一緒になったのかねぇ。どんなに美人でも、フリーじゃないなら俺には関係ないんだけどさ……。
謝罪に訪れた二人と別れた後、丁度良い時間になったので朝食へ。いつものように食べ終えると、一度受付へと戻る。一応、無事に話が終わったことを伝えておかないといけないしな。
サリーさんに報告すると、ついでとばかりに俺に丁度いい依頼があるってことで、受けさせられた。強制イベント反対!
肝心の内容だけど、こことは別のオアシスの調査。砂漠を移動する人々の中継地というか休憩する場所として使われているらしいのだが、定期的にモンスターが占拠しているんだとか。
じゃあ村みたいなのを作ればいいのにって思うけど、サンドウォームが時々やってくるので無理らしい。なるほど。あの中ボスが出てくるエリアね。はいはい、把握しました。
てことで、状況を確認して報告するまでが依頼内容。戦って追い払ったりするのは、この都市の兵士やギルドの先輩方の仕事らしい。緊急時以外は、シーフギルドが戦うことはないみたいだけどね。
でもさ、強制イベントとか嫌な予感しかしませんわ。まあ、やりますけども。
最近まともに水浴びも出来ていなかったし、オアシスが無事なら入っちゃおうかなーって感じで、水浴びセットを用意して目的地へと向かう。飲み水にもするらしいけど、結構大きな水場なので入っても大丈夫だよね? うーん。見てから決めるかな。
中ボスのサンドウォームは怖いけど、今回は戦う必要ないみたいだし見るだけならなんとかなるっしょ。いけるいける。
道中目に入ったモンスターは、ちょこちょこ狩りながら進む。経験値も、ドロップアイテムも欲しいし。
トレントの仲間みたいな乾いた木に顔がついたモンスターや、サソリなんかも出てきたけどそれほど強い相手でもないので、まともなダメージを受けることなく倒すことが出来ている。ゲームなら何度か被弾しているだろうけど、現実だと痛い思いをしたくないし頑張って回避しますとも。
とことこと歩いて二時間くらい進むと、目的のオアシスらしきものが見えてきた。緑が多くなるのでわかりやすい。
どれどれ。オアシスの状況はどうですかね。目を凝らしてみるけど、異常はなさそう。
これで報告することもできるけど、水浴びしたいからね。ちゃんと水場まで行きますとも。いやー俺ってまじめだはー。
水場に近づくと、田舎のため池くらいの大きさがあった。割と深そう。
対面あたりでは、他の生き物が水を飲んでたりする。砂漠狼もいるな。こっちに気付いているけど、離れているし今のところ襲ってくる様子はない。
さすがにこの状況で裸になるのは憚られるので、布を濡らして体を拭くぐらいにとどめておく。
屈んで水に手をつけると、程よい温度。いいんじゃないでしょうか。
「ウォッシュウォッシュ亀よ、亀さんよー。フフフンフフフン」
替え歌を口ずさみながら、体を拭いていくとずいぶんとさっぱりした。
やっぱり、現代人は清潔にしてないとだめだよね。
さてさて、最後に汚れてしまった布を洗ってお終いにしますか。
「ウォッシュウォッシュ亀よーって、うええぇぇ⁉」
なんか水場からでっかい亀が出てきちゃった⁉
軽自動車くらいあるんじゃなかろうか。
やべー。やべーっす。逃げなくちゃ。
あのトゲトゲのついた亀は、防御力が高いからシーフじゃキツイ。
急いで持ち物を袋へしまって、すたこらさっさと逃げ出す。
とんずらですよ。とんずら!
うひぃ、こっちに向かってきてる。こっわ……。
離れてる時は軽自動車くらいかと思ったけど、実際はトラックぐらいあるんじゃないか? 頭の中に「走れ走れ」って浮かんできたけど、走らないとだめなのは俺なんだよなぁ。しかも砂地で走りにくい。
幸いなことに、水中だと早いけど陸に上がるとそこまででもないみたいで、逃げ切ることに成功した。
はあ。怖かった。
頑張ってダッシュしたので喉が渇いたし、せっかく身綺麗にしたのにまた汚れてしまった。おのれ亀め!
一先ず水筒を口にくわえて、水分補給。
人心地ついたところで、帰って報告するために歩き始める。
また二時間ほどかけて帰って来ると、やや昼の時間を過ぎていた。
少々お腹が減っているけれど、まずは報告。
サリーさんのところへ行き、水中にでっかい亀がいたことを伝える。
「んー。オッケーが嘘ついてるとは思わないけど、初めて聞く話だ。それが事実なら、ちょっと不味い状況だね。もし子供を作られて数が増えたなら、安心して利用できなくなってしまう。それにサンドウォームと一緒にそいつまで出てきたら、対処するのが難しくなってくるね。すぐに調査の依頼者である、ここのお偉いさん達に相談してくるよ。一先ずお疲れさん」
そういってサリーさんは出かけて行った。
いやはや、強制イベントだと思ったからもっとヤバイ状況になるかとも思ったけど、なんとかなったな。あとは、偉い人や先輩方にお任せしよう。
まずは、食事に行きますかね。
食後に近場で狩りをして、手に入れたアイテムを売ることでちょっとした生活費を手に入れた。運の良いことに砂漠蛇のオーブも手に入ったし、よかったよかった。
今日はちょっと運がいいのかもしれないな。
少しばかりルンルン気分でギルドへ戻ると、サリーさんに捕まった。
なんでもお偉いさん達は、亀の出現した状況を俺に再現させたいらしい。しかも出来るだけ早い方がいいってことで、明日の予定だとか。
えぇ……人前であの歌を口ずさみながら体拭くんですか? それってお断りしたりできませんかね? あ、無理。……はい。デスヨネー。
兵士やギルドの先輩方も見に来るらしいし、マジ最悪だ。
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