サイダーの亡霊

片喰 一歌

第1話 ファーストキスはサイダーの味?


 高校時代。俺・爽汰ソウタは片想い相手の來夢ライムと一緒に下校していた。その日は特に暑い日だった。


「喉渇いたな。ごめん、コンビニ寄ってっていい?」


 家は目と鼻の先だが、少しでも長く一緒にいたくて切り出した。

 

「ん。何飲む?」


 相変わらず聞いてるんだか聞いてないんだかわからない即レスだ。

 

特に指定はないなべつになんでも。見て決めるよ」

 

「おけおけ。んじゃ、親切な來夢さんがもひとつ候補増やしてしんぜよう。嫌いじゃなかったら飲んでいいよ、これ」


 來夢は左手に持っていたサイダーのペットボトルを持ち替えることもせず、右隣にいる俺に差し出した。


「は?」


 ものぐさか。てか、こいつ会話の途中で謎のキャラ降ろしてくることあんだよな。こういうとこも憎めなくて好きだけどかわいくてこまる。←って素直に言やいいのに。何やってんだ、俺。

 

「サイダーはお嫌いか?」


 音の感じからしてまだ結構残ってそうだけど、とりあえず炭酸を振るな。本当に飲ませてくれる気があるんなら。


「好き嫌いの問題じゃないし、その口調は何。……あと、來夢は気になんねぇの?」

 

「なんないね。家にいくらでもストックあるし」


「喉乾いてても炭酸をイッキはちょっと。てか、今の文脈でそう採んのかよ」


「あ、飲みかけ気にする? わたしはいいけど」


 來夢の笑顔には10代半ばの眩しさと清々しさが迸っていた。

 

 CM出演も夢じゃないと思うのは、惚れた欲目ってやつかな。でも、俺だけしか見れないのもったいないって本気で思ったんだよ。独占しておきたい気持ちも嘘じゃないけど。


「いや、俺はいいんだけど來夢が――――。ん? わたしはいい?」


「平気平気。全然回し飲みおっけー。爽汰とならね」


「二人ならシェアだろ」


「細かいことは気にしなーい。飲むの飲まないの」


 ペットボトルを左手に持ち替えた來夢は、俺の腕を攻撃してくる。痛くはないけど少し鬱陶しい。飲むって答えるまで続けるんだろ。お前の考えなんてわかりきってんだよ。


「…………ひと口ちょうだい」


「ひと口と言わずに」


 腕にバシバシ当たっていたペットボトルを受け取り、キャップを捻る。


 開栓した瞬間、キャップを通して泡が上がってくるのがわかって、俺の心も跳ねて弾けた。泡のひとつになった気分だ。


 大人がビールの上にたっぷり乗っかった泡の層見て嬉しそうにすんのも、今の俺と似た感じかな。


 俺もいつかサンタのおっさんみたいな髭作って機嫌良く笑ったりして。まったく想像つかねぇけど。


「お味はいかがか?」


「だから、口調。いきなり謎の人物になんじゃねーよ。俺は來夢と話してんのに……」


「ごめんて。ここからは來夢さんがお送りするから拗ねないで。ほい、感想プリーズ」


 なにかを持つように軽く握った手がへの字を描いた口元に差し出される。マイクを向けたつもりか。


「味はまあまあ? ただ、後味がなー…………」


 仕方ないから顔を近付けて答えてやった。


「こうしたらもう気になんないかもよ?」


 自分で自分の優しさに酔っていたのも束の間。來夢の顔が近付いてきた――と認識した直後、飲み口の硬く冷たい感触は、柔らかくあたたかな唇に上塗りされた。

 

「…………は?」


 以上が俺のファーストキスの思い出である。

 

 サイダーの味はしたかって? いやいや、味なんてなかったよ。そんな大人なキスしてねぇし。

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