異世界帰りの勇者は平穏を望む〜1人でチートだと思っていたのに、他にも帰還者がいるって嘘だろ?~

月城 夕実

第1話 異世界から帰ってきた

  俺は数日前、異世界から帰ってきた。ある日、突然女神に異世界に召喚された後、魔王を倒して無事に元の世界に帰ってきたのだ。


 俺は上原 勇15歳。(実は異世界で三年過ごしたので、18歳だけど表向きは15歳)浜百合高校の一年生だ。体型はひょろっとしていて、一見弱そうに見えるかもしれない。


 他のパーティーメンバーが強かったお陰で、思ったよりも早めに帰ってこれた。それでも三年経ってしまったが。

 

 今は学校の教室にいて、昼休憩の時間。


「上原くん、少し身長が伸びたんじゃない?」


 隣の席の黒田さんに話しかけられる。彼女はピーナッツバターのパンをかじって、牛乳をストローで飲んでいた。


「そうか?そう言われれば、少し目線が高くなった気がするな。でも成長期だから別におかしくはないだろう?」


 俺はお弁当の唐揚げを一つ口に入れた。じんわりと旨味が口の中に広がる。


「今日も旨いな」


 帰って来てから、普通のご飯に感動しっぱなしだったりする。異世界だと、米がそもそもなかったからな。


 実際には、三年が経過してしまっているので、身長が伸びていても不思議ではない。ただ、一日で急に伸びたから少し不自然だろうか。


 ふと俺は気になって訊いてみた。


「黒田さんが帰ってきた時はどうだったんだ?」


 なんと彼女も俺と同じで、半年前異世界から帰ってきたらしい。勇者ではなくて、聖女だそうだけど。

 彼女は、長い艶やかな黒髪を三つ編みに束ねて眼鏡をかけている。一見すると大人しめで真面目な印象だ。机の上にあるラノベを見れば文学少女とも見えるかもしれない。

 

 夜に空を飛ぶのが好きらしく、俺も誘われて一緒に飛んだりしている。「魔女の〇急便」が好きだったらしい。魔法って実際使う機会がないから、娯楽程度が丁度いいのだろう。平和が一番だな。


「え~?わたし?身長は伸びなかったし、そもそも…コホン。まあ、少し美容には気を付けるようになったかもしれないわね。王宮では毎日ドレスに着替えたり、お化粧とか大変だったのだから」


 彼女は残りのパンに口を付ける。

 聖女も大変だったらしい。


「でも、回復魔法を使えるようになったのは良い事よね」


「ブッ!」


 俺は彼女に小声で耳打ちする。


「魔法とか言っちゃ駄目だろ。もし周囲にバレたらどうするんだ?」


「どうするの?」


「えっと…」


 困るのだろうか?そもそも最初から、魔法を使えるとは思ってもいないだろうし。

 中二病をこじらせている変な奴と思われるかもしれない。


「それを言うなら上原くんの方が不味かったんじゃないかなあ?あの動画は世界中に拡散されちゃってるし…」


「もう忘れてくれよ。十分反省してるって」


 この前、妹のゆかりとショッピングセンターに行った時、絡まれていたゆかりを助けて二階から一階へ飛び降りてしまった。さながらアクション映画のワンシーンの様だっただろう。


 その時、誰かが動画を撮影していたらしく映り込んでいて。

 幸いにも顔などは、ぼけて認識できなかったのだけど。


麻木あさぎくんも貴方に全然絡んでこなくなったわね。まあ、虐められたところでやり返しちゃうのだろうけど」


「俺、そんなに虐められてた?」


 過去の事はきれいさっぱり忘れている。異世界での事が強烈過ぎたから。


「結構酷かったわよ?麻木くんを筆頭に他の男子に足で蹴られてたりしたし、恐喝されていたわよね?」


「そうだったっけ?すっかり忘れているよ」



      *



「君が、上原くんだね?」


 これから帰ろうとしていた時、教室に見知らぬ男子生徒が俺を訪ねてきた。


「動画に取られちゃったから、気が付かれたのかな?」


 黒田さんが素知らぬ顔で呟いた。


「急に驚かせてごめん。動画でキミを見たのだけど、ぼくのスキルは鑑定だから…」


 そこまで言いかけて、俺はその男子の口を手で押さえる。


「しっ!ここじゃ、耳目があるから…空き教室行かないか?」


「そういうことなら、ちょっと待って」


防音魔法サイレント


 透明な膜が俺たちの周りを取り囲む。

 魔法が使えない他の人には見えないだろう。


「これで、ぼくたちの会話は聞こえなくなったはずだよ?これで良いでしょ?」


「なら別にいいか」


「本当ね。ちゃんと防音されているみたいだわ」


 黒田さんが膜を手で叩く。

 コン、コンと固い音がした。


「では改めて初めまして。ぼくは一年四組の安良坂あらさかただし。お察しの通り、ぼくも異世界から帰ってきたんだ。もし良ければ、ぼくと友達になって欲しいのだけど」


「あ、安良坂くんって学年成績トップの安良坂くんよね?」


 黒田さんが驚いている。

 そういえば、全科目トップの人が居たような…。

 彼だったのか。


「もしかして、キミも異世界帰りだったりするの?」


「ん~まあ、そうだけど?」


「わーあ!一日で二人に会えるなんて凄いや!」



      *



 安良坂は戻って行った。

 真面目そうな外見とは違い、親しみやすい性格だったようだ。


「友達ねぇ」


 俺は安良坂と友達になった。自慢じゃないが俺は友達が少ない。

 最近、黒田さんと友達になったくらいだ。

 俺は鞄を取り出して、仕舞いこむ。


「そろそろ帰るか」


「今日もいつもの場所に行きましょ?」

 

 黒田さんがニコッと微笑む。

 俺はまた、夜のお誘いを受けた。



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 読んで頂き有難うございます。

 前作短編の続きの物語になっています。


「異世界帰りの勇者は平穏を望む」短編版

 https://kakuyomu.jp/works/16818093091168636088


 宜しかったら読んでみて下さい。

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