2-8 ティアラ奮闘記-北へ

現状を変えるために必要なものは何か。


「.......チカラ。いいや違うかな?」


素朴さゆえか、まず恐ろしい答えを最初に導き出すティアラ。

実際、それは正しい。この世の物事は武力を元に成り立っている。アメリカ大統領をぶん殴れる腕力があれば人間が規定可能な問題は全て解決できる。

そうすればあふれるほどの金が手に入る。

そうすれば女が手に入る。

そうすれば対戦ゲームの相手に屍体の上で煽られ、味方からも煽りエモートが飛んできたとき、そいつの居住地を特定して顔がタコみたいに膨れ上がりグレープフルーツみたいな腫瘍ができるまで殴ることができる。


しかし、果たしてそれはティアラに可能かという話である。


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name ティアラ

spices アクア・フェアリー・リーダー(E)

筋力 F

敏捷 F

耐久 F

魔力 D


とくせい 水神の加護 D

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ティアラの筋力はF。これはおおよそ成人女性や子供などに該当する値だ。これで殺せるのは話し相手欲しさに病院の待合室にやってくる老人くらいだろう。


プラン2だ。


ティアラたちアクアフェアリーの生活は驚くほど単調で、しかして脱出は許されないようになっている。


起きる。食べる。寝る。仕事。寝る。食べる。寝る。

全て看守に指示された通り、部屋の中で完結している。


......こうして並べてみると、全て『誰かの意図』によって成立していることがわかる。ティアラはこのうちの『仕事』については他のフェアリーを指揮する役割を持っている、いわば決裁権のない中間管理職にすぎない。


仕組みをハックするならここ。他の誰かの意図を曲げてやればいい。そうするにはちょうど『時間』がいい。運もいい。

部屋の鍵が外側から開く音がした。

入ってきたのは肥満体にバンダナ、裸オーバーオールの巨漢だ。最近はこの男がアクアフェアリーの世話係に選ばれている。いじめられているとしか思えない絶望的ファッションが特徴的だが、もしかして自分でアレを選んだのだろうか。


ともかく、他の看守より頭が抜けていると考えられる。


「お〜〜いアグアフェアリーども〜〜〜。餌をもってきたどぉ〜〜〜?」

「「「わ〜〜〜〜い!!!」」」

「待つんだどぉ、今出来高を図るどぉ。それに応じて」


裸オーバーオールは『仕事』である棒が回された回数を図ると、背負っていたタンクから部屋にある水瓶に注いでいく。モタモタした手付き、私ならもうちょっとうまくやれるのになぁ。

注がれるのはかすかにピンクがかかった、夢中になってしまう味の液体だ。他のフェアリーのように飛びつきたい気持ちを抑え、巨漢に話しかける。


「あの、看守さん……すこしお時間よろしいですか?」

「う〜〜〜?オラは看守じゃないど〜〜〜。話しかけるんじゃないど〜〜〜。それに、『キンタロウ』ってちゃんとした名前があるんだどぅ〜〜〜。」

「失礼しました、キンタロウさん。お願いがあるんです。私にあなたのお手伝いをさせてほしいんです。」


ティアラは幼児体型の割に大きく育ったマシュマロのように柔い胸(モース硬度9.0)を、太い腕にぎゅっと押し付けた。遺伝子に刻まれた記憶が「こうすれば人間の男は言うことを聞いてくれる」と囁いたのだ。

オーバーオールに染み付いた■の匂いに喉がヒクっとしたが、我慢して抱きつき続ける。その行為の意味を理解しないまま。


「や、やめるんだど〜。おでは汚いんだど〜〜〜。」


しかし、キンタロウは顔を真赤に、ぶんぶんと腕を振って投げ捨てる。口では嫌がっているが体は正直だ。めちゃくちゃ勃起している。……ので、効果は一目瞭然だった。


「で、でもお前たちはかわいそうなうんめいにあるんだど〜〜〜。それに、おでの名前を呼んでくれた女の子は久しぶりだし、話くらいは聞いてやるんだど〜〜〜。」


なんとも気の抜けた話し方をする人だ。アクアフェアリーと同じくらいの知能レベルしかないかもしれない……ティアラは内心、ますます侮った。


「はい、私にキンタロウさんのお仕事を手伝わせてほしいんですが。」

「う?仕事ならそこにある棒を回せばいいど。エサももらえるど。」


アクアフェアリーの部屋にあるのはよくファンタジーで奴隷が回してる謎の棒だ。これを回すことで得られる利益はおそらく何もなく、従って重要度は恐ろしいくらい低い。報酬が無ければもう拷問だ。この労働を頑張ったところで何も得られることはないだろう。


「いえ、わたしはキンタロウを手伝いたいのです。この部屋の外で………」

「そそそそそそそそ、それってオデが好きってことかど?駄目だと!オデには4歳の頃にこんやくした女の子がいるんだど!」

「えっ?」


それは何か違くないか、と妖精でも思った。


「あ、あ、あと、そうだと!!!!それに、モンスターを指定された部屋から出したらいけないんだと!!!」

「そ、そんなぁ……。お願いですぅ……。」


両手で口を隠し、潤む上目を強調しながらお願いする。同時に肘で胸を寄せて大きく見せる。童貞歴40年のキンタロウの頭はまっっっかに茹で上がる。


「だだだだめなんだど!!!とにもかくにもだめなんだどーーーーー!!!」


何度も滑って転げながら、巨体を飛び上がらせるようにして逃げ去っていく。勢いよく扉が閉められたが、カギをかける音は聞こえない。

しかし焦って部屋を出ることはせず、むしろ優雅に構える。

巨体と反対の幼気な様子を思い返し、ティアラはすこし可愛らしいと思った。豚さんのダルンダルンの腹を見た時、嫌悪感とセットで感じるタイプの。 ふふ、と笑みが溢れる。


(あーら残念。ま、ってとこかな。)


ティアラの胸の狭間には、キンタロウから擦りとった扉のカギがある。水流操作で懐から掠め、悩殺ポーズの時に隠しておいたのだ。


(世の中、チョレーーーーーー!やっぱり私って天才なのかな。人間さんも騙せちゃった!まあ、お姉ちゃん《サーシャ》の妹だからねーーー。)


「ティアラちゃん、なにしてたの?看守さんとおはなししてたよねーーー!!!こうやって!」


1人のフェアリーがティアラと同様の悩殺ポーズを取る。よく観察しているものだなぁ。

ティアラよりもさらにケツとタッパがデカイ娘だったので、少しだけ子宮がキュンキュンした。


「うーん?なーんにも。」


ティアラは手に入れた鍵のことを仲間には話さなかった。それがもし運命を変えることがあるとしても。

ここ数ヶ月の生活で、自分と仲間には驚くべきほどの能力の差があることが分かっていたからだ。


もちろん、みんな素直でカワイイし大好きだ。でも、どこかに同種としてより生き物としての線引があるのかも。

花を愛でることも咲かせることもできる。できれば綺麗に咲いて欲しいとも。けれど、花に自分をわかってほしい、ましてや仲間になってほしいと思わないでしょう?


「なーんにも、ないよ!それよりもみんな遊ぼーーーー!」

「「「おーーーー!」」」


その場を誤魔化すために掛け声をあげると、みんな一気に寄ってくる。

追いかけっこでティアラは皆の先頭を飛ぶ。差がつきすぎないように加減しながら。

その心はまた別のところにあった。


(まっててね、お姉ちゃん。孤独の寂しさは誰よりも共感できるつもり。やっぱり私を理解できるのはお姉ちゃんだけ、お姉ちゃんを理解できるのは私だけなんだ。


私みたいな妖精で悪いことで寄付腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは


今日のみんなの会話

ここで寝ると気持ちいい とか おっぱいほしい とか

ま、それが普通ですわな


かたや私は心の砂漠でヤっちまった後を見て、呟くんすわ

it’a true wolrd.狂ってる?それ、誉め言葉ね。


好きな歌手 お姉ちゃん

尊敬する人間 お姉ちゃん(変態行為はNO)


なんつってる間に4時っすよ(笑) あ~あ、私の腕を試す時が来たね、これ)


はっきり言って慢心である。

ティアラの頭脳はフェアリーとしてはアインシュタインレベルでも、人間としては並以下だ。


▷▷▷カメラ移動◁◁◁


「ぶ〜〜ふぇっふぇっふぇっ!キンタロウ、今日もお役目はキチンと果たしてきたんだろうねぇ!」

「も、もちろんだど……。」


無論、ウォーターフェアリーたちを監視しているのは頭と脇が弱いキンタロウだけではない。


「ンマー、今月も役員サド看守報酬が年間人件費の総額を上回ってるよ!ほんと死ねばいいのにね!」


太った女が流暢な外国語で書類仕事をしていた。

女は公認会計士資格と犯罪歴と漢検3級、そして一本一本が刀のように長い鉤爪を持っている。


魔物牧場Bブロックの長、キンタロウの上司。瀬戸内怪鳥である。

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