第17話 伏兵

風邪を引いてからいつ更新再開しようかと考えているうちにだいぶ時間が経ってしまいました。

 ストックは少なめですが、これからまた頑張ります

――――


 目の前で視認することも出来ない高速戦闘が起きている。

 片方は半年ほど前に俺と並んでA級探索者として仕事をしていた同僚の明人あきと

 もう片方は日本に、いや世界中に雷神の異名を知られている超越者と呼ばれる人外の人物だ。


 雷神は俺の姉を監禁しているという情報がある不俱戴天の敵。

 現在の同僚であり、元モデルをしていた月島つきしま沙羅さらまでもを狙っているという雷神が、居場所を吐かせようと俺らを攻撃している。


 なんとか耐えている明人あきとだが、今ではもう怪我がない場所が少ないほどの傷を受けている。


「……ゴボッ……」


 血を吐き出している音が聞こえる。


「そろそろ諦めたらどうだ。俺は治療系の能力は苦手でね。後遺症なしに直すのが苦手なんだ。」


 前から後ろから、移り変わりながら話しかけてくるその声は雷神の物。

 雷神の言う通り、既に明人あきとは動いているのが不思議なほどの怪我、いや欠損をし始めている。

 肺に血が入ったまま、手足の骨が曲がったまま戦闘を続ければ何かしらの後遺症が残るだろう。


 だけど、ここで明人あきとのために戦闘を止めれば結果的に月島つきしまさんが危険にさらされる。

 超越者に狙われているんだ。月島つきしまさんは確実に死ぬことになるだろう。

 せめてボスがいればもう少し何か方法があったかもしれない。なんでこんな時に……っ


 明人あきとは戦闘に全神経を注いでいる。初めからそうしなければ対抗することも出来なかった。

 判断するなら俺だ。月島つきしまさんか明人あきとを天秤にかけてどちらかを捨てなければならない。

 俺がそんな決断を……


「……八本くらいはもう骨を折ってると思うんだが、どうしてまだ俺の動きについてくるのか全く持って謎だな。」


 動きを止めた雷神の姿が見えた。

 ようやくまともに見えたその体に目に見える傷はない。


 対する明人あきとは左手があらぬ方向に曲がっていて、口の端からは血が流れている。

 息を吐くたびにその量が増えている。

 見るからに使い物にならそうな左手は、痛みを無視して盾にしたのか全身の中で特にひどいものだ。ところどころ見える白っぽいものは骨だろうか。

 神経が繋がっているのかも怪しいように見える。


「…ゴボッ……」 


 まともに息も出来ない様子の明人あきとだが、その目は雷神を見つめていて、何かの意志を感じさせた。


「……まるで獣だ。だが、獣の方が痛覚があって可愛げがある。」


 改めて明人あきとの様子をみる雷神はそんな感想をこぼした。


 止めるなら今だ。

 今止めなければ、明人あきとは気絶するその時まで戦闘を続ける。


 明人あきとがやられたら次は俺の番だ。そうなってしまえば俺の目的である姉の行方を知る機会もきっとなくなる。

 どうする……どうすればいい?


 必死に頭を回すものの出てくる答えはどこにも無かった。

 探索者としての経験なんてまるで役に立たなかった。

 自分よりも圧倒的に強い敵に対する対処法なんてのは”逃げる”しかない。

 それが出来ない相手を前に出来ることなんて命乞いくらいだ。


 でもそれをすれば姉ちゃんはどうなる?


 なにか情報が無いかと必死に目を凝らしていると、呆れたようにため息をこぼしている雷神のその後ろに、何かが見えた。


 ネズミがいた。

 宙に浮いているように見えたそのネズミの下には何か細長いものが続いている。


 音も立てずに静かに雷神の後ろへ忍び寄るその姿は、暗がりの中で一層黒く、暗く見える。

 目をそらしたら見失いそうなほどに希薄な存在感。

 見えているそれが本当にそこにあるのか確信が持てないほどに曖昧だった。


 雷神が手を伸ばせば触れるほどの距離に来た時、ようやくその姿が見えるようになった。


 乗っているなにかから飛びだして、雷神の前に出てくるネズミ。

 その姿は先ほどのような希薄な存在感はなくなっていた。

 だが、目に映った光景はそれより現実味がないものだった。


「……なッ……」


 後ろから飛び出てきたネズミに驚く雷神。

 反射的な行動か、俺では捉えることが出来ないほどの速度でパァンとネズミが弾けた。


 それと同時に先ほど見えたネズミが、雷神の左手に乗っていた。


「は……?」


 そこからは分からなかった。

 時折飛び散る何かは、きっとネズミの残骸だ。


 バチンと静電気がなるような音がするたびに打撃音が聞こえてくる。

 

 パラパラ漫画のようにネズミが現れてはそこを叩く雷神。

 頭の上に、肩の上に、足の間に、目の前に、潰すたびに現れるそのネズミに雷神は驚きながらも超人的な速度でそれを全て叩き潰す。


「監視に使っていたネズミを出してきたか。隠密に特化した別の個体が居るのか。」


 その雷神の呟きで思い出した。

 あのネズミが乗っていた細長いもの。暗闇の中だから見えなかっただけで最近はずっと見ていて見慣れている奴だ。

 異常なまでに黒い蛇。

 事務所でよく見る誰かの首に巻き付いているそいつのことを毎日見ていた。


 あれは、月島つきしまさんの召喚しているモンスター!


 唖然としている俺と明人あきとのすぐ隣に、何か重いものが落ちた音がドスンとなった。


 目を向けると「もー」と気の抜ける声で鳴く牛がいる。


「原田さん怪我が酷いですね。どうして平気そうに立てるんですか? 足も折れてるでしょう?治しますから座ってください。」

 

 月島つきしまさんが空から落ちてきた。

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