第7話 実験
契約を終えたその日。
夕食を食べ終えた頃には呼び出しがあった。
場所は契約をした時と同じく応接間で、今回は運動用のジャージに着替えさせられた。
そこに居る人も前回と変わらずセバスチャンとあの少年だった。
「それじゃあ実験を始めようか。」
契約をする時とは異なり表情豊かに笑いながら言う少年に、そういえば名前を聞いていないことを思い出した。
「はい、ええとあなたはなんて呼べば……」
「ああ、名前言ってなかったね、
「じゃあ、連君って呼ばせてもらいますね」
思わず名前を聞いてしまったけれど、そういえば連君の情報を少しでも漏らしたら死ぬ、という契約内容だったことを思い出した。
私は自分がうっかりで喋ってしまうことが想像できたので、これ以上連君の話は聞かないことにした。
「あまり細かいことは説明しずらいけど、とりあえず概要だけでも説明しようかな。」
連君はそう始めた。
「実証は出来てないけど強くなるために効果的な訓練方法があってね。その方法でちゃんと強くなれるのか、どこまで強くなれるのかが実験の目的かな。最終目的をそのまま言ってしまえば、超越者を作り出すってところだよ。」
それを聞いて出てきた感想は納得と諦めで、本当は実験する内容なんてものは無かったんだと安心もした。
話す内容は荒唐無稽で、この場に実験を行うような研究者は居ないし、話す内容は全て子供が話している。
あまり頭が良くない私でも分かってきた。
あの契約書はお坊ちゃんの妄想に本気で付き合うためのもので、死ぬかもしれないならどんな馬鹿げた内容でも本気でやるようになるだろうってことだと思う。
それくらいに連君が話している「超越者を作る」という話は馬鹿げていた。
きっとこの家は名の知れた名家なんだろう。そして、この連君は本気で超越者を作れると考えているし、それを親は恥に思ってるはずだ。だから連君が考えたことに本気で付き合ってあげて、その上絶対に外に情報を漏らさない人が欲しかったんだろう。
ダンジョン以外で死ぬこともなさそうで少し安心した。
ダンジョンの外だと死んでも意味が無い。
「――をして、最後はこの実験が成功したかどうかで沙羅さんの今後が決まる予定だよ。まぁ、どちらにせよ最後まで付き合ってくれれば契約からは解放するから安心して欲しい。」
「はぁ、はいわかりました。」
細かい内容まで話してくれたみたいだけど、内容はあまり頭に入ってこなかった。
「ああ、そういえば沙羅さんは自分のステータスを見たかな、気絶する前に『ダークネススケルトン』と戦って居たらしいからある程度レベルは増えてるはずだけど。」
そう言われてステータスを見てみると確かに百レベルほど上がっていた。
レベル:152
種族:人間
名前:
所持スキル:《召喚術》《魔力増大》《視覚共有》《聴覚共有》《召喚獣強化1》……
ダンジョンに入らずに上げていたのが大体50レベル。あの真っ黒な骸骨の攻撃に何とか盾を合わせたら、百レベル上がるというのが多いのかそれとも少ないのか。
あと見覚えのない《召喚術》というスキルがある。今まではモデルをやっていたせいか《美肌》なんていう戦闘とは関係のないスキルばかりだったのに、スキル欄を眺めると見覚えのない戦闘用のスキルの方が数が多かった。
私が口を開こうとするとそれを止めて連君が、こう言った。
「忘れてるかもしれないけど契約書にはステータスに関する虚偽の内容は許されていないからね。正確には『ステータスに関する情報は正確に申告すること』とかだったかな。曖昧に誤魔化すこともダメだからしっかり何が起こったのか報告してね」
「そんな厳しいんですか?」
「どこまでが基準、なんてのは契約書に書いてある定義のままだからね。あとは沙羅さんがどこまでが『正確な申告』に当たるのか当人の認識次第だよ。」
適当にレベルが上がっていたことだけを伝えて、A級のダンジョンにも入れる探索者だという向こうの勘違いをそのままにしようと考えていた私は、それを聞いてちゃんと報告しようと考え直した。
契約がちゃんと発動しているのなら、私が毎日A級ダンジョンに行けることは間違いない。勘違いだったことに向こうが気付いても、もうどうにも出来ないところまで来ているんだ。
私はステータスに付いて覚えてる限り正確に報告した。
それを聞いた連君は勘違いだったことには特に反応を示さなかった。
「じゃあ、手を出してね」
「はい、どうぞ」
両手を前に出してそう言われたので、私もそれに合わせて両手を出した。
「これから始めるのが実験の一番の内容だから、どんな事があっても10分は続けるよ」
「はい」
何をするのか説明されてたかもしれないけど覚えていないので、とりあえず頷いておいた。
「まぁ、悪いことじゃないのは確かだよ。とりあえず始めるね。」
そう言って始めた実験は私の想像を超える拷問だった。
右手から強い電流のような『何か』が流れる感覚。
それが胴体を流れる度に内蔵が動いたような気がする。無理やり胃を掴まれて、振られているようなとてつもない異物感。
胴体以外の顔や手足では自分の意思とは関係なく体が動いていた。異物感のせいで、ギュッと閉じた瞼は勝手に開き、手足はバタつきそれでも体を流れる『何か』は止まることはなかった。
「ふッ!……ぐぅ……!」
強烈な異物感と勝手に体が動く恐怖に息が漏れる。
こうなるならちゃんと何をするのか聞けばよかったと思って耐えていると、フッと流れる『何か』が収まる感覚があった。
「もう10分たったよ。なんか逃げようとしてたように見えたんだけど、どういう感じだったのかな。」
正直にあの気持ち悪い体験を話した。今まで生きてきた中で一番の苦しみだった。
「内蔵を動かされてる感覚。それに勝手に動く体ね。」
なにやら考え込んでいるその顔は、本気でそれを信じているような気がした。本当に超越者を作ることが出来ると信じているように。
「そういえばものすごい不快感だった割に、沙羅さんは汗をかいたり顔色が悪くなったりしてないね。」
そう言われて、私の体はあの体験が幻だったかのように不調がないことに気が付いた。
確かに昨日見た悪夢のように汗をかいたり、喉が渇くことは無かった。実験をしている最中にだけとてつもない嫌な感覚がするだけだった。
「一応これ、毎日してもらうから慣れてもらうしかないね。あとステータスも確認してね。」
そう言われてこれが毎日なのかと絶望した。あんなに気持ち悪いのが毎日……。
言われるがままにステータスを見てみると驚きの内容がそこにあった。
レベル:211
種族:人間
名前:
所持スキル:《召喚術》《魔力増大》《視覚共有》《聴覚共有》《召喚獣強化1》……
確かに上がったレベルは、この実験が確かなものだということを示していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます