第3話 ダンジョン


 この国ではダンジョンに入るのは十五歳からという決まりがある。

 もちろん幼い子供が危険な場所に入らないようにする目的もあるが、それよりもスキルが優秀な自分の子供をダンジョンへと向かわせる親への対策のためだ。

 そして、父親から誕生日プレゼントでダンジョンへの入場許可証を貰った。


 わけが分からなかった。


 もちろんどうにか出来ないかと父親に相談しようと思っていたが、その内容は「ダンジョンに入るけど怪我は絶対にしないから見逃してくれ」という内容だ。

 どうしてダンジョンに入りたいのが分かったのかも謎だし、十歳の子供への許可証なんてものを発行できたのかも謎だ。

 それについて聞いてみるも、はぐらかされ誕生日プレゼントはまだ終わっていないと言われて連れてこられたのは、父が経営しているダンジョン武器のお店だった。


 剣や弓矢、鞭から鎌まで様々な武器が揃っているお店に連れられ、久しぶりの外に感動する間もなく、「とりあえずいっぱい持って行ってマジックバックの中に入れとけばいい」と言われて、普通のショルダーバッグに見えるカバンの中に、手あたり次第種類ごとに一つずつの武器を入れられて渡された。


 「そんな便利なカバンあったんだ」という感想やら「鞭はともかく鎌は使いづらいよなぁ」という感想を抱きながら家に帰ると、父親は仕事だと言い去ってしまった。


 目的を果たしたものの、なんとなくここまでは求めていなかったという感覚がある。

 今なら少し前に見た映像の、皿からこぼれても餌を入れ続けられた時の猫の気持ちが分かる気がする。


 なにはともあれ、万全すぎるスタートを切ったダンジョン生活。

 その後は毎日授業がなくなった代わりにダンジョンへと潜り続けていた。

 学校にも行かせない万全の軟禁生活は何だったのか(以前も別に外に出るのが禁止だったわけではないが)いつ外に出て帰って来ても何も言われなくなってしまった。

 ただそれは無関心というわけでもないようで、いつに帰って来ても温かいご飯が待っているし、時間があれば父親は顔を見に来る。


 状況の意味は分からないものの取り合えず都合がいいのでダンジョンへと潜り続けていた。


 どこのダンジョンも今ではダンジョン協会という組織が管理していて、出入り口には警備だったり受付が存在するが、十歳にしてはかなり高い身長に許可証もあり、止められることも無く入れてしまった。

 ただ、ダンジョン協会への探索者登録はしないままに許可証のみで出入りするため、時折気にされるが、その時のための言いわけとして教えられていた「うちの親がクランマスターなので、クラン所属でやってます」という言い訳でどうにかなった。


 クランとは何かというと、ダンジョンでのモンスターによるドロップアイテムの納品などのクエストと呼ばれる探索者たちのお仕事資金源はダンジョン協会にある。それもダンジョンの出入り口のすぐ近くで依頼の発行や受諾が出来るので個人だったり、十名程度の探索者同士の集まりであるパーティーならそちらで問題はない。

 ただ、パーティーが五つだったりもっと増えた集合体をクランと呼び、そのクラン単位で依頼が入り、手の空いているそのクランに所属しているパーティーが対応するという形になる。


 有名なクランであればだれが受けるのか分からない協会への依頼よりも確実に実行できるという信頼があったり、クランに所属していればパーティーの誰かが休みでも自分たちで他のパーティーから穴を埋めることが出来る補欠要員も用意することが出来る。


 そしてクランのリーダーはクランのメンバーに対して許可証の発行が出来るそうだが……僕はクランに入った覚えは無いのにどうやって父親はこの許可証を発行できたのだろうか。


 改めて謎が深まるばかりだ。




 今僕がいる場所はA級のダンジョン。

 ダンジョンの等級。つまり攻略の難易度の評価はGから始まりFEDCBAと続いて最高がSと八段階の難易度が設定されている。これは探索者やモンスターも同じようにアルファベットで強さ順に分かれているそうだ。

 つまり下から数えて七番目、上から数えて二番目とされているこのダンジョン。

 僕にとっては簡単だった。


「グギャああああああああ!!」

 

 目の前には巨大な図体をした鬼のような顔を憤怒に染めたS級下位とされているモンスター『ジェネラルオーガ』。

 その体の全長は百六十近くはある僕の身長の二倍はある。

 手には金棒。真っ黒の色を血で染めたその金棒は、致死の攻撃を放ったことが見て取れた。


 ダンジョンにはいくつかどのダンジョンにも共通する基本法則がある。

 まず一つは階段によって層の区分けがされていて、その階層ごとに出てくるモンスターが入れ替わったり増えたりする。

 もう一つはその最奥の場所には扉があり、入れば最後、ダンジョンの等級の一つ上のモンスターが出てきて倒すまでは出ることが出来ない。この部屋を通称ボス部屋という。


 そして、今僕が居るのがそのボス部屋だった。

 もう後ろの扉はしまりかけている。このジェネラルオーガを倒さなければダンジョンから出ることは出来ない。いや倒せなければそもそも目の前のモンスターに殺されておしまいだろう。


「それもこれも倒せなければ……ね」


 扉が完全にしまった。このとき、もう既にここから出る方法は倒すしかなくなった。

 同時にジェネラルオーガが向かってくる。その顔は先ほどより更に赤く染まり、自分の威圧に逃げない弱者に対してイラついていることが良く分かる。


「グギャああああああああ!!」


 威圧感もそのままに三十メートルはあった距離を一瞬で詰めてきたその脚力から、振り上げたその金棒の威力も推測できるというもの。

 魔力や魔法を知らず、ただひたすらにその筋力だけを高めたモンスターの威力はきっと僕と同じく十歳程度の頭など元々ないかのように吹き飛ばされることだろう。


「シールド」


 ただし、その攻撃は僕が魔力で作ったシールドで無効化された。


 その金棒を弾かれるでもなくシールドを割るでもなく、衝撃を吸収するようにピタッと止まったその攻撃に対して、ジェネラルオーガは怒りを忘れて動きを止めた。


「隙だらけだね」


 金棒を振り切ったその姿勢のまま固まるジェネラルオーガに対して、シールドと同じく魔力で出来た刃でその首を切り取った。

 何が起きたのか理解が追い付かないような表情のまま飛んでいくジェネラルオーガの頭は、すこし愛嬌があるようにも思えた。


 ドサッと音を立てて倒れる体は黒い霧に覆われ、一抱えある紅の魔石を残して消えてしまった。


「A級もクリアしちゃったね」


 魔石をマジックバックに入れながらそういった。

 その声になんとなく寂しさを滲ませていることに自分でも驚いた。


 このA級ダンジョンのみならず、これまで探索してきたダンジョンは全てマジックバックの中に入っている武器を使うまでも無かった。

 シールドで防御してそのすきに魔力で出来た透明の刃で攻撃。これで全ての方が付いた。


 歯ごたえが無いのだ。


 ダンジョンの死亡事故なんてしょっちゅうあって、そのために命を賭けた大冒険なんて言われることがある。

 それを期待していたわけではないが少なからず覚悟はしていた。

 それがどうだ。実際にやってみれば防御して攻撃して相手が死ぬという繰り返し。

 つまらなかった。


 レベルは確かに上がった。

 一万ぴったりだったのが、既にそれから二千ほどのレベルアップをしている。やはりこの世界のレベルはかなり上げやすいようだ。


 強くなっている気がしない。それが僕の今の思いだった。

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