第6話 証明
確かにハチ公前の協会の前で一時間以上前からロキを探していたグループが山ほどあった。
なにより忠孝本人が信頼している天地は一日中建物の中から索敵を続けていたことは確認している。索敵を抜けられたのか、それとも事前に夜中にダンジョンの中に居たのか。様々な可能性が頭をよぎるが、既に天地が出ていった以上これ以上の行動は意味がないと忠孝は諦めた。
「一応昨日からのダンジョンの出入り記録を確認するべきか。」
確認作業をしつつ忠孝はロキの配信から目が離せないでいた。
『いやー、打倒ロキだっけ? なんかご苦労様って感じだよね』
最新のダンジョン配信用のドローンカメラを使っているのか、人の手ではありえない速度でロキの手元を離れたカメラはロキの全身を映した。
『じゃあまずは、これが録画じゃない証明から始めようかな。コメントを読み上げるとか……でも仕込みだとか言ってきそうだね、どうしようか』
ピエロのような仮面をつけたロキは、仮面の通りピエロのように大げさに悩む様な仕草をしている。
そして思いついたとばかりに人差し指を上に指して言う。
『まあいいや、証明はどうせ後で出来るだろうし先に話をしてあげようか』
そう始めたロキは一人で返事を聞くことなく話を進める。
『まず、この世界に
『動画を全て見てれば薄々分かるだろうけど、人間―というかこの世界の全ての生き物はスキルを使わなくても同じことが出来る。』
そういうロキは周囲に火、水、風、土と言った主要な魔法を浮かべ遊ぶように動かす。
『詳しい説明は……あーすっごい面倒だから省くけど、それに今まで気が付かなかった理由としてはとても簡単でね。』
忠孝は配信を聞きながらようやくダンジョンの出入り記録の確認が終わった。
「中学生ほどの背丈の人物はいないか……まさか本当に天地の索敵を正面から抜けてきた? だとしたらまずい!」
調べていた資料をそのまま放り投げ、急いで連絡を始める忠孝。
(天地君! 天地君! ロキが本物だとしたら!……君の索敵を搔い潜るほどの
現役時代に得たスキル《念話》を使って急ぎ天地に連絡する忠孝だが、帰ってくる返答は想像していないものだった。
(いいですよ)
その端的な返答は戦争を肯定するものだった。
(な、なにを言っているんだ! 超越者同士の戦いが始まれば日本にどれだけの犠牲が出ると……(会長)
忠孝が話しているところを天地が遮った。
天地は指示を聞くことなく部屋を出て行ったことから始まり、ダンジョン協会の会長である
もしもこれが軍隊の中での出来事だったら懲罰の対象に当たるほどのことだろう。
探索者でもある程度の上下関係という物があり、武力を持った個人を統制するために上に対する態度というのはかなり厳しく指導されるものである。
本来であれば。
怒りを鎮めるように息を吸って吐いた忠孝はもう一度問いかけた。
(……天地君は今回の出来事に対してどういう立場を取るつもりだ。)
部下に対する態度として正しい行動としては忠孝の目的を伝えてその通りに行動するように天地に命令することだろう。
だがこの場合はそれに値しない。
(邪魔はしない、というよりむしろ応援しようかと。)
――ぎりっ
忠孝はその軽い口調に歯を強くかみしめた。
天地のその返答は忠孝の考える次のシナリオを限りなく不可能にさせた。
(……その理由はなんだ。どうしたら阻止に動いてくれる)
(そうですね……そろそろ飽きたんです。わがままなお子様の言うとおりに動くのが。それに阻止する必要が無いと思ってるからしないんです。あと、もう遅いですよ)
一瞬、自分のことをわがままなお子様だと言われたと勘違いした忠孝だが、それに該当する人物が他にいることを思い出す。
(それにですが、会長は気づいてますか?)
(……何についてだ)
(彼、私の警戒している場所に侵入していたんですよ。)
(それは以前からずっとダンジョンの中に居たんだろう)
(いえ、今日の朝、確かにダンジョン全域に彼の存在は確認できませんでした。守りに特化している
(だが、それは理由にはならない)
(いえ、なりますよ。言い方が悪かったですかね。あの気味の悪い科学者もどきの魔法を抜け出した。と言えばわかりますか?)
(……分かった。)
本当の意味でその言葉に納得したわけではない。
梃子でも動かない様子を見て、今度こそ既に自分の対応できる範囲内ではないことを理解した忠孝はなくなってしまった紅茶を継ぎ直し、静かにロキの配信を見守ることにした。
『……そんな理由で島を破壊した幼い暴君と呼ばれるゼイン君。全世界で有名な超越者と言っていいだろうね。え? ”そんなん誰でも知ってる”? ”はよ説明しろ”? それもそうだねゼイン君の紹介に時間を使いすぎたかな。』
おどけたように大げさに笑う仕草を見せるロキ。その配信の同時視聴者数は増え続ける一方だが、それに反してコメント数は少し勢いを落としている。
それもそのはず、先ほどから画面に映っている映像はひたすらにしゃべり続けるロキと、現れるモンスターを一瞥もせずに魔法で倒す様子だった。
その光景にただならぬ何かを感じ取った視聴者が多く、挑発的なコメントはどんどんと姿を消している。
『そしたら次の人物の紹介はちょっと少なめにしようか』
『現在世界にいるとされている全12人の超越者。その最後であり、最新の超越者であるゼイン君と同じくアメリカ所属のコルト君。』
そこまで聞いた忠孝はやはり
『現在はコルト君は科学者として色んな研究をしていてるけど、みんなはコルト君の超越者としての能力は何か知ってるのかな。』
その問いかけに配信開始時点よりかなり言葉が柔らかくなったコメント欄が素直に答える。
”科学者なんだからそれは研究とかに使える能力じゃないのか”
”本人は戦闘に使えるものじゃないって言ってたぞ”
”知らん。だけどそれを知ってどうなる”
”いいから早く結論話せよ”
そのコメント欄に満足した様子のロキは頷きながら続ける。
『君たちのその回答が答えだよ』
そこで止めたロキは一息ついてその答えを告げる。
『全ての超越者は能力を含めて世間に知られている。能力にあった二つ名がついていることもその理由だよ。それに比べて、コルト君はどうだろうね。能力は知られているかい? 二つ名は付いているかい?』
コルトの二つ名も、能力も、コメント欄では出てこなかった。
コメント欄は混乱するようにその先の答えは出ない。ただ大量のクエスチョンマークを増やすだけだ。
『コルト君の能力は《洗脳》それも出力を抑えれば世界を覆うほどの。超越者に相応しい能力だね。』
忠孝はその瞬間止まったコメント欄を確認し、この事態の収束……いや、次の騒動の対策をするために部屋を出た。
『もう流石に洗脳は解けたかな。「ステータスに書かれていることしか出来ないというのは思い込みである」こんな簡単なことに気付かなかった理由は、コルト君の使った《洗脳》のせいだよ』
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