第2話

 婚約破棄パーティー後、アリステラとヤザンは領地に帰り、俺はランドグリフの書類作業を手伝っていた。


 ヴァン「この手の作業はあまり得意じゃ……」

 ランド「黙って確認と印鑑を押すこと。ティアロス家を引き継ぐことになったらこの手の作業ができるに越したことはない。」

 ランドグリフは確認、サイン、印鑑を順々に行い書類の山を整理していく。


 ランド「ところで、貴殿は魔術を使えるか?」

 手の速度は変えずに質問をしてくる。


 ヴァン「使えますが、貴族ではないので魔力量は並以下ですよ。」

 俺も極力速度を落とさないように印鑑を押していく。


 ランド「ティアロス家は代々魔法使いの家系だ。魔術ではなく魔法を行使できる特異的家系で、王家もその血を混ぜようという算段でティアロス家と婚約していた。」


 魔法と魔術の違い。

 世間一般で使われるものは魔術、特殊な種族が扱えるものは魔法とされている。

 原点は魔法、それを汎用的に落とし込んだものが魔術。

 魔法は精霊術とも呼ばれ、周囲の魔力を使用し、強大な力を発現させる。周囲の魔力を回収する都合上、回収率を上げた方が良く、素肌を晒しているほうが発現できる魔法の威力が高い。

 魔術は周囲ではなく自身の魔力を消費して発現する。これは魔法を解析し、効率性をもって汎用性を高めたもの。威力は低いが、人間にとってはそれが普通なのである。


 ランド「基礎魔力量が少ない貴殿がティアロス家の跡を継ぐということは、他の貴族からしたら家柄を劣化させるとしか思わないだろうね。」

 ランドグリフの言うことに間違いはない。

 自分が恵まれた肉体の持ち主である認識はあるが魔力については凡人にすら劣る。

 悲しい現実が…………


 ヴァン「もし、俺の肉体とステラお嬢様の魔力を持つ子供が出来たら世界最強の人間ができないか?」

 ふと閃いた。


 ランド「……貴殿の能力はそんなに高いのかい?」

 当然の疑問を投げてくる。


 ヴァン「スターラウンズ隊長に座ってるのは全員を制圧できるからなんですよ。特に筋肉と体術には自信があります。」

 俺は腕をまくり、力瘤を膨らませる。


 ランド「それならダイアン。」

 ランドグリフが指を鳴らすと、俺よりも身体が大きい騎士が入ってきた。


 ダイアン「お呼びでしょうか。」

 ランド「この方と腕相撲をしてくれ。」

 ダイアン「かしこまりました。」

 ダイアンと呼ばれた騎士は机を用意し、2人分のタオルを机の上に広げた。


 ダイアン「ダイアンだ。よろしく頼む。」

 彼は礼儀正しく、握手を求めてくる。

 俺も素直に受け取り、握手をする。

 その瞬間、ダイアンの顔が真っ青になる。

 身体のサイズは俺の方が小さく、純粋な筋肉の大きさだけなら圧倒的にダイアンの方が大きいだろう。

 しかし、試しに力比べをしたことを後悔したようだ。


 ダイアンは覚悟を決めたような顔をして机に右肘を置く。

 俺も机に右肘を置きダイアンの手を取る。


 ランド「それでは、レディ、ゴー。」

 なんの準備もなく告げられる開始の声。

 ダイアンは瞬発力で勝負を仕掛ける。

 しかし、俺の手を動かすことはできない。


 ヴァン「ダイアン、君は戦斧……いや、巨大なモーニングスターの使い手かな?筋肉の偏りから左にはタワーシールド。左足に力を入れる癖があるようだ。それに…」

 俺が一つ一つダイアンの特性を伝えていくと、踏ん張っている顔が緩んでいくのがわかる。


 ダイアン「お、俺はそんなに弱いのか?」

 ダイアンは絞り出すように質問をしてくる。


 ヴァン「強いと思うよ。でも弱点が多そうだ。明確に勝てない相手がいて、対処の仕方が分からないから単純な自己研鑽を行っている。そんなところじゃないかな。」

 ゆっくりとダイアンの手が甲側に傾いていく。


 ヴァン「腕相撲一つとってもそう。単純な力は多彩な技術に勝てない。技術もない純粋なの暴力という言葉があるが、そんなものは無い。無意識まで刷り込まれた技術に力を乗せて振るっているだけだ。技術のない力は全てがブレて見えるからな。」

 ダイアンの手の甲が傾くにつれて、テーブルにヒビが入る。


 ヴァン「技術によって引き出された力を上手く使える。これが強さの基準だと俺は考える。」

 そして、手の甲が着く直前に、テーブルが真っ二つに壊れた。


 ヴァン「あらら、決着が着く前にテーブルが壊れた。ランドグリフ王子、これは引き分けでいいですか?」

 俺は微笑みかけながら質問をする。


 ランドグリフは顔をひきつらせながら、執事を呼び、テーブルを片付けさせた。



 ランド「貴殿がそこまでの力があるのは分かった。なら魔力量はどうなんだ?」

 ランドグリフな準備していたかのように球体の魔水晶を懐から取り出す。


 ヴァン「……」

 俺は無言でその魔水晶に手をかざす。

 魔水晶は触れたものの魔力を吸い、光源として発する事が出来るもので、魔力量で光源の強さが変わり、属性で光に色がつく。


 手をかざした魔水晶は何も変化がなく、光源も発生していない。


 ランド「故障か?」

 ヴァン「いえ、よく見てください。」

 ランドグリフが手の下から魔水晶を覗き込む。


 そこには手の影で隠れてしまうほど小さな白い光。


 ランド「じゅ、純白の魔力。」

 白い光は強化や治癒の属性を示す。

 しかし、あまりにも光が弱く、皆無と言っていいほどの魔力量だった。


 ランド「よく並以下と言ったな!?」

 ランドグリフあまりの衝撃に口調が崩れる。


 ヴァン「い、いやー、並以下ではあるでしょう?」

 ずかしく、頬を指で掻く。


 ランド「こ、コホン。貴殿の実力はだいたい分かった。」

 ランドグリフ口調を治すのに咳払いをする。


 ランド「たった少しの魔力で騎士を圧倒出来る貴殿は、スターラウンズになる前、いや、伯爵家に来る前は名の通った冒険者だったのでは?」

 当然の疑問。

 俺をここに連れてくる際に調査をしたようだが、スターラウンズになる前の経歴はない。

 この世界は転生者、転移者なるものが数百年に1度現れ、変革を引き起こしていった。

 俺はたまたま、転移者と出会い、その人の知識で身体を鍛えた平民。

 その転移者が天寿を全うしたあとも残された知識を元に今まで過ごしてきた。


 ヴァン「俺はただの平民でした。たまたま市場に来ていた少女に一目惚れをし、忠誠を誓った。その後伯爵家の警備兵の応募に参加し、気がついたらステラお嬢様の護衛になり、スターラウンズになった。これが俺の人生です。」

「え、少女性愛主義者?」

 いい感じに話せたと思ったら使用人が急に難しい言葉を発する。

 冷や汗が出る。

 言われてみればそうだと認識した瞬間から汗は止まらない。


「し、失礼しました!」

 使用人が頭を下げる。

 俺は手を振り返し、謝罪を止めた。


 ヴァン「気づいてなかった……言われてみればそうだ……」

 ランド「き、貴殿の年齢は?」


 ヴァン「今年で……33になります……ステラお嬢様に出会ったのは9年と10ヶ月前。」

 アリステラの年齢は今年で20。


 ランド「つまり、13も下の娘に惚れ込み忠誠を誓ったのか。」

 笑えよ王子。

 ドン引きしていないで誰か笑ってくれよ。

 俺はそう願うしかなかった。


 後々知ったことだが、俺が初めて出会った少女に頭を下げ、平服していた話は有名だったらしい。



 そんなこともあり、ランドグリフ達との関係は良好となった。

 そのおかげか、監禁という名の王城生活はお嬢様成分枯渇以外順調に進んで行った。



 そして、監禁生活残り5日となった時、俺は青銅宮に呼ばれていた。


 青銅宮は王城と比べ、質素な場所だが、それでも地方領主の領館よりも豪華な場所だった。


 俺は私室に呼ばれたのだが、入ることを躊躇っていた。


 ヴァン「ここ、間違いなくザイン公爵令嬢の部屋……だよな。」

 躊躇っていた理由は、ナーサリー・ザインがいる部屋だから。

 婚約破棄があったあの日、ナーサリーは一言も話していないことが使用人達の話でわかっている。

 そして、ランドグリフの判決の時、手を挙げず、虚空を見ていたことが気になる。

 どうしたものかと思いながら待っていると勝手に扉が開いた。


 ナーサリー「入って。」

 弱々しい声の主が扉を開いていた。


 その部屋はベッドとカーテンのない風呂、小さい化粧台とテーブルが置かれていた。

 窓も高い位置にあり、女性がテーブルの上に乗ってもギリギリの高さ。

 こんな場所にいては狂うなと思ったが、ナーサリーは平気なようだった。


 ナーサリーはネグリジェのままで、何も気にせずベッドに座った。


 ナーサリー「ヴァンホルト・サンサーラよね?」

 俺を呼んだ張本人が名前を呼んでくる。

 返答の代わりに首を縦に振る。


 ナーサリー「貴方と、彼女に謝罪をしたいの。」

 弱々しい声が部屋に響いて聞こえる。


 ヴァン「なぜ?」

 警戒をしながら、質問する。


 ナーサリー「実はね、私がトリスタンの子を孕んだというのは嘘なの。貴方は女性の身体の仕組みはわかる?」

 俺はその質問に首を横に振る。


 ナーサリー「なら説明は省く。結果的に私はトリスタンに無理やりそばにいさせられた。アリステラ様から言われても、トリスタンとお父様が怖くて離れられなかった。これでも我慢の限界で色々吐き出したの。そしたらお父様が雇った『魔法使い』に魔法をかけられて、気がついたら私はここにいた。」

 ナーサリーの令嬢らしくない口調、ここにいる経緯に違和感を感じる。


 ヴァン「その事は誰かに言ったのか?」

 俺の質問にナーサリーは首を横に振る。


 ヴァン「何故それを俺に?謝罪のためだけに呼んだのか?」

 俺は質問するしかなかった。

 あのパーティー会場でのナーサリーの様子はおかしいと認識していたから。

 魔法をかけられていたことが事実なら大問題になる。


 ナーサリー「私ね、転生者なの。この世界は……私の世界のゲーム……本の物語と言った方がわかるかな?だからこの世界に来た時、私がナーサリーに転生したとわかった時は大喜びしたの。でも、現実は違った。ナーサリーは偶然トリスタンに助けられたわけじゃない。お父様の命令で、傷ついた令嬢として近づかせられていた。」

 俺はナーサリーの説明を聞いて困惑していた。


 ヴァン「君が、変革をもたらす転生者?転生者ならザイン公爵の命令なんて」

 ナーサリー「それがダメだった。元々のナーサリーは転移者。ザイン家の養子で、政治の道具にされていた。更にお父様に転生者であることを伝えたら、昔よりも酷い目にあった。昔からナーサリーは虐待を受けていたんだ。もちろん、トリスタンにも言った。物語だと転移者と知ったトリスタンやその配下たちが助けてくれるはずだった。助けてくれるはずだったの。」

 ナーサリーは過去を思い出し、瞳から涙を零す。


 俺はその光景に耐えられず、胸ポケットにあるハンカチをナーサリーに渡した。

 ありがとうと小さく伝えられ、俺は次の言葉を待った。


 ナーサリー「彼らは私を道具として扱った。初めはトリスタン。次からは2人、3人、6人。1番多かったのはトリスタンね。毎日ように使われた。使われた結果、私は今ここにいる。ただ精神不安定で数ヶ月生理が来なかっただけ、先週に生理が来て心から安心した。安心したら、なんで私がこんな扱いをされてるのか分からなくなった。」

 彼女は俯き、言葉を止める。

 俺はその話が真実かどうかの判断はせず、歯を食いしばり、拳を握りしめた。


 ヴァン「転生者の少女よ。俺に何を求める?」

 どんな話を聞こうとこの言葉に辿りつくと思っていた。


 ナーサリー「貴方に、アリステラ様の婚約者になった貴方に、助けてほしいの。」

 涙と共に吐き出された言葉に、どうすればいいか悩んだ。


 ヴァン「その、物語とやらに俺は居るのか?」

 ランドグリフに言うのではなく、俺に言ったのはその物語に関係があるからだろう。


 ナーサリー「貴方はどんなルートでもアリステラ様を庇う騎士。データ上は存在してるとされている隠し攻略キャラ。」

 ルート?攻略キャラ?

 世間では彼女が言うような形で使われない言葉に困惑してしまう。


 ヴァン「その、攻略キャラ?だから特別な力があるから俺に頼ったと?」

 俺の言葉に彼女は首を縦に振る。


 ナーサリー「でも、貴方はゲームとも違うみたい。トリスタンを殴るなんて話は聞いたことないし、貴方が攻略できるのはもっと後の話らしいしね。」

 ゲームとは遊びのことかと考えたが、話的に物語の事だと思った。


 悩んでいると、彼女は立ち上がり、俺の前にくる。


 ナーサリー「ごめんなさい。こんなこと貴方に頼ることじゃなかった。この話は忘れて。」

 涙跡が残る顔で空笑いをする彼女に対し、庇護欲が湧いてくる。

 物語で俺と彼女が恋仲になる話があるならば、これは一種の強制力なのではないかと思う。

 だが、ここで泣いている女性を無下にした俺をアリステラは許さないだろう。

 そう思い、俺は上着を脱ぎ、彼女の肩にかけた。


 ヴァン「伝えるのが遅れたが、レディがそのような格好で男の前に出てはいけない。」

 俺はすぐ、後ろを振り向き、扉に向かう。


 ナーサリー「え、あ、あの」

 ヴァン「ヴァンホルト・サンサーラは今の話を信じ、解決しよう。しかし、もしアリステラ・ティアロスに害を与えることがあれば、即刻首を断つ。」

 扉を開き、部屋を出る。

 部屋を出たあと、扉に耳をつけ、中の様子を聞く。

 中からは啜り泣く音。

 何度も繰り返されるありがとうの言葉。

 俺は信じていいと自分に言い聞かせ、王城に戻った。


 禁室に戻り、あった事をランドグリフに報告する。


 ランド「なるほど。つまり、ザイン公爵は未報告の魔法使いを駐在させ、王国が禁止にしている魔法をザイン嬢に使用していたと。」


 ヴァン「更にトリスタン王子含む側近6人で彼女をたらい回しにしていたようです。」

 俺は直接的ではない言葉で彼女がどのように扱われていたかを説明する。


 ランド「妊娠が誤報というのは僥倖だが、なら反逆罪が適用できてしまう。これなら確実にザイン公爵を引き摺り下ろすことが出来るが。」

 顎を指で挟み、こちらに何か言いたいような顔をするランドクリフ。

 俺は少しため息をつき、言いたいことを言う。


 ヴァン「彼女はアロン・ザインの正式な娘ではない。養子縁組の話は王家に届いておらず、婚外子として登録されている。つまり虚偽罪が適用でき、家宅捜査ができる。しかし、奴には魔法使いが傍に居て、精神操作の魔法を使用される恐れがある。」

 俺は長ったらしく遠回しに説明する。


 ランド「つまり?」

 引き出したい言葉があるのか、ランドグリフはニタニタと笑う。


 ヴァン「俺が奴の元に出向き、捕縛してきます。その後、彼女を俺の預りとします。」

 言わされたような提案をランドグリフにする。

 ランドは先の話を紙に書き、端っこに自分のサインと印鑑を押した。


 ランド「ランドグリフ・ヴィネ・ゴライアスがヴァンホルト・サンサーラに命ず。アロン・ザイン及び保有する魔法使いを捕らえよ。戦力はティアロス家から借りても良い。」

 ヴァン「はっ、その命、承りました。」

 手渡された『命令書』を受け取り、禁室を出る。



 俺は即日ティアロス領に戻り、ヤザンのもとへ行く。


 ヤザン「4日早い戻りだな。お前が許されてもまだステラには会えんぞ。」

 ヤザンは少し眉をヒクヒク動かしながら笑う。


 ヴァン「御心配おかけしました。この度は当主にお願いしたく存じ上げます。」


 ヤザン「娘をよこせとでも?」

 ヴァン「スターラウンズ各隊長12名。全員の招集をお願いします。」

 ヤザン「なに?」

 ヤザンはキレ顔から真顔に変わる。


 ヤザン「スターラウンズはどういう部隊か分かっているな?」


 ヴァン「スターラウンズの隊長ですから。」

 俺は真剣に、真っ直ぐヤザンを見る。


 ヤザン「それはステラのためか?」

 ヴァン「脅威度で考えれば。厄災の芽を摘んでおくという話ですが。」

 ヤザンは引き出しから鍵を取り出す。


 ヤザン「相手は誰だ。」

 ヴァン「ザイン公爵家です。」

 ヤザン「ランドグリフ王子の命令か。」

 ヴァン「その通りです。」

 ヤザン「それはステラのためだけか。」

 ヴァン「いえ、他にも理由があります。」

 ヤザン「ステラ、ランドグリフ王子、他には。」

 ヴァン「俺です。」

 ヤザンは頭を搔く。

 家の警備だけならスターラウンズの部下だけで問題は無いだろう。

 しかし、ここで出撃させなければアリステラは解放当日に俺と会うことが出来なくなる可能性が高い。

 それも、スターラウンズの隊長全員がいない状態の案件だ。

 不機嫌になること間違いない。


 ヤザン「2日以内に完了できるか。」

 ヴァン「今日中に隊長全員で出撃できるなら。」

 ヤザン「わかった。」

 ヤザンは鍵を俺に投げつける。


 ヤザン「明後日の昼には王城にいろ。それで問題はないだろう。」

 ヤザンは諦めたような顔で俺を追い払う。


 俺はそのまま執務室にある本棚の隠し穴に鍵を刺し、回す。


 その瞬間、執務室内に大量のワープゲートが開く。


 フォドス「隊長がブチギレてる珍しーい。」

 1番目は純白のドレスに巨大なランスを背負った少女『フォドス』。

 ヨカゼ「隊長招集は2度目か。」

 2番目は黒緑の暗殺装束の男『夜風』。

 ヤンロン「燃え盛る炎。」

 3番目は赤いシルクの服に大量の銃火器を括りつけている男『李楊龍』。

 オルク「強い気配……隊長ね。」

 4番目は紫に金の装飾が入った上着で全身を隠す女『オルク・ガルク』。

 バイデント「久方の集結か」

 5番目は最低限の鎧に2本の戦斧を背負った大男『バイデント・ローランド』。

 シュガー「随分と大掛かりな任務だな。」

 6番目は咥えタバコをしながら白衣に黒と藍色の服とズボンを着ている男『シュガー』。

 アシュレイ「ご命令を。我が主。」

 7番目は騎士甲冑にレイピアを携えた女『サノス・アシュレイ』。

 ヘイカン「おおー、こりゃ血の嵐かの。」

 8番目は東方民族衣装に薙刀を持つ老爺『ヘイカン』。

 ヨシマサ「龍の逆鱗に触れた馬鹿の粛清するか!」

 9番目は東方甲冑に二本の刀を携えた男『島津義正』。

 アーサー「全員呼ぶとは相当危険なようだ。」

 10番目は西洋甲冑に大剣を背負う男『アーサー』。

 ディノ「眠い。無理やり起こしたな隊長。」

 11番目は天使のような羽織にくるまった女『ディノ・ポーラ』。

 リック「詳細は把握している。いつでも行けるぞヴァン。」

 12番目はポンチョを羽織り、本を持った男『リック・デュラン』。


 ヴァン「全員揃ったな。」

 俺は全員の顔を1度見る。


 リック「大丈夫だヴァン。全員思念伝達で事情は把握してるし、それがアリステラ様に繋がる事も理解してる。後は遺恨が残らないようにするだけだ。」

 リックの言葉に頷き、俺は今一度息を吸う。


 ヴァン「スターラウンズ各位、直ちにザイン領に向かい、制圧せよ。ただし殺しは許さん。ザイン公爵と魔法使いを確保が絶対条件だ。わかったか!」

「ハッ!」

 全員が覇気のある返事をし、その場から消える。


 ヴァン「当主、それでは2日後にステラお嬢様とお会いしましょう。」

 ヤザン「うむ。ステラには多少なり説明しておく。」

 俺はその言葉を聞いた後ザイン領に向かった。



 ザイン領に『走って』移動していると、先回りしていたヤンロンが横に並ぶ。


 ヤンロン「隊長。対魔法使い専用の代物だ。」

 長銃を投げ渡され、俺はその感触を確かめる。


 ヤンロン「魔法使いの基礎射程距離の2倍離れた場所から狙撃できる。使う機会があれば使って欲しい。」

 俺は走りながらじっくり長銃を見ているとヤンロンが不思議そうにこっちを見る。


 ヴァン「どうした?」


 ヤンロン「隊長のそれ、やっぱり不思議だ。『常時発動型強化魔法』。」

 ヤンロンが言った常時発動型強化魔法。

 それはスターラウンズの隊長のみが知っている俺の秘密。

 魔法の原理、周囲の魔力を使用する。

 そこに着目して開発された。

 周囲の魔力を体内、細胞に留め循環させることで、神経や筋肉等の体組織の強度と伝達力を強化する魔法が常時発動型強化魔法だ。


 ヴァン「理論は教えたはずだが、未だに俺しか使えない魔法だな。」


 ヤンロン「そこなんだ。理論上は可能だけど、魔力を留めること自体我らには無理だ。」

 ヤンロンはガックリと肩を落とす。


 ヴァン「気にするな。むしろこれは俺だけの魔法であってほしい。俺は他に何もできないからな。」

 俺は更に加速し、ヤンロンを置いていった。



 ヨカゼによって開けられた関所を通り、ザイン領に侵入する。


 領館に向かってひたすらに走る。

 疲れなど知らず、ただ全力で走る。

 魔力がある限り、無尽蔵の体力で走りきる。


 ヴァン「まずは魔法使いの制圧。いや、公爵と同時制圧か?」

 そう考えているうちに領館に辿り着いた。

 領館というより、城。

 他領について興味がなかったため知らなかったが、公爵家というのは第二の王城でも作っているらしい。


「と、止まれ!ここはザイン公爵領であるぞ!」

 俺の前に兵士が2人、槍を構えていた。


 俺は懐から命令書を取り出す。


 ヴァン「俺はヴァンホルト・サンサーラ。ランドグリフ・ヴィネ・ゴライアス第1王子の命により、アロン・ザイン公爵及びその配下の魔法使いに緊急招集がかかっている。その間の護衛として、俺が任命された。ここを通したし。」

 命令書を見せつけながら兵士たちに言う。

 兵士たちは槍はそのままに歯をガタガタと震わせる。


「ざ、ザイン公爵様より、王家を騙る密使が来ると伝令がくだされている。引き返したまえ!」

 既に対策を取ろうとしていたことが分かり、俺はそれを黒だと捉えた。


 ヴァン「フォドス、オルク。」

 俺が2人の名前を呼ぶと、兵士達は白目を向きながら地面に倒れた。


 オルク「制圧完了。」

 俺は2人の横を通るついでに頭を撫でる。

 2人とも一瞬顔が崩れたが直ぐに真顔に戻った。


 ヴァン「バイデント、一直線に道を開け。人以外なら壊してかまわん。シュガー、ヨカゼと共に薬で城内の全員を眠らせろ。ヨシマサ、ヘイカン、アーサー。居ないとは思うが強敵に備えつつ、逃げ道を塞げ。ディノは全員に対精神攻撃防護壁を付与。フォドスとオルクは現状維持。警備部隊の無力化にかかれ。アシュレイとリックは俺についてこい。」

 確認が取れる全員に指示を出し、バイデントが城に向かって切り開いた道を追うように駆ける。


 城に入る前に3人は錠剤を1つ飲み、特殊マスクで顔を覆い、薬を吸わないようにする。


 ヴァン「シュガー、首尾は。」

 シュガー「一室以外無力化完了。残った一室に2人感知している。それが公爵と魔法使いだよ。」

 迅速な行動に部下の優秀さがわかる。


 ヴァン「無毒化の薬を調合しておいてくれ。後に成分が分析されると厄介だ。」

 シュガー「了解。無毒化の薬の調整を開始する。」

 俺達は場内に入り、報告があった部屋に直行する。


 部屋の扉を蹴破ると、そこには小太りの男とグラマラスな女がいた。


 アロン「だ、誰だ!襲撃者に何故誰も気づかん!」

 小太りの男、アロン・ザインは無意味に騒ぎ立てる。

 俺はマスクを外し、命令書を再度取り出す。


 ヴァン「ランドグリフ・ヴィネ・ゴライアス第1王子の命により、貴様らを連行する。大人しくついてこい。」

 先程とはうってかわり言葉を強くして伝える。


 アロン「貴様はティアロス家の田舎者か!まさか王子を誑かし我々を陥れようとは!」

 聞く耳持たないと言わんばかりの口調に少し腹が立つ。


 イレーネ「お初にお目にかかります。私はイレーネと申します。もしよろしければ、『私の配下になりませんか』?」

 女が真っ直ぐ俺と目線を合わせ手を前に出してくる。


 俺はゆっくり足を前に出す。

 アシュレイ「ヴァンホルト様!」

 リック「ヴァン!」

 2人が俺の名前を叫ぶ。

 アロンはその様子を見て、二タっと笑う。

 俺はイレーネの前まで行くと、右膝を着く。


 イレーネ「いい子ね。忠誠のキスでもしてもらおうかしら。」

 イレーネは左足を上げ、俺の顔の前に差し出す。

 俺は右手で左足の裏を持ち


 左手でイレーネの膝上を掴み、右手で膝から下をねじ切った。


 イレーネ「いぎゃぁぁぁ!!!」

 醜い叫びが部屋に響き渡る。


 ヴァン「アシュレイ、こいつの傷を閉じろ。ついでに片腕を切り落とせ。だが殺すな。」

 アシュレイは残虐な命令に少し引いていたが、即座に実行に移る。


 ヴァン「邪魔が入った。ザイン公爵、大人しく捕縛されて頂けますか?」

 顔の半分が血塗れの状態で微笑む。しかしアロンは先の様子を見て失神していた。

 失禁した状態で。



 無事釈放1日前に王城に戻れた俺は2人の尋問に立ち会った。


 ランドグリフは魔法使い、イレーネの状態を見てドン引きしていたが順調に尋問を行った。

 結果、アロンは国家反逆罪として処罰されることとなり、一族幽閉、取り潰しが決定した。

 ナーサリーは実子ではないこと、出自が特殊だったということで幽閉されることはなく、青銅宮から出ることとなった。

 しかし、ナーサリー・ザインという名前を剥奪された。


 俺は釈放日の昼前には王城を出て、迎えを待った。


「私も……一緒に行っていいの?」

 彼女は結局ヴァンホルト・サンサーラの預りではなく、完全釈放ということで、行く宛てがなかった。


 ヴァン「住めるかどうかはステラお嬢様次第だけどな。俺はザイン元公爵の不正を解決しただけに過ぎない。」

 彼女は俺がかけた上着を羽織り、それを握りしめる。

 その様子に困っていると、迎えの馬車が来た。


 ステラ「ヴァン!」

 馬車が止まると同時に扉が開き、アリステラが飛び出してくる。

 中にいたオルクが慌てて馬車を降りる。


 ヴァン「ステラお嬢様!」

 俺は元気よく手を振り、アリステラのところに駆け寄ろうとする。

 が、アリステラの顔が珍しく不機嫌な様子になっていく。

 そして、俺が目の前に行った時、アリステラは通信石を口元に当てた。


 ステラ「お父様、ヴァンが女を囲いました。処罰をお願いします。」

 そう言った瞬間、怒号が通信石から発せられた。

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