第2話 崩壊の始まり
翌朝、物流センターに到着した山崎悠真を待っていたのは、積もった雪と無数のトラブルだった。
夜通し降り続いた大雪で道路状況は悪化し、予定されていたトラックの到着時間が大幅に遅れている。
電話が鳴り止まない事務所に足を踏み入れると、後輩の田中が疲れきった顔で駆け寄ってきた。
「山崎さん、大変です。遅延していたトラックが一斉に到着し始めました。バースが全然足りません!これでは荷下ろしの作業が詰まり、後続のトラックも動けなくなります。それに、ドライバーたちの待機時間がさらに長引いて、不満が爆発しそうです。」
その言葉に悠真は顔をしかめた。
倉庫には限られた数のトラックバースしかなく、一度に複数台が到着すると荷下ろしが滞るのは目に見えている。
現場の混乱を少しでも抑えるため、悠真はすぐに作業エリアへと向かった。
倉庫の入り口付近では、遅れて到着したトラックが列を作り、ドライバーたちが苛立った表情で順番を待っている。
フォークリフトのエンジン音が響く中、作業員たちは雪で滑りやすくなった床に注意を払いながら作業を進めていた。
「村上さん!」
悠真はベテラン作業員の村上大輔に声をかけた。
村上は荷下ろしの指揮をとりながら、汗を拭い、厳しい顔でトラックの列を見ていた。
「山崎さん、このままじゃ現場がパンクします。雪で荷物も濡れるし、トラックを捌く時間が全然足りません!」
村上の声には焦りが滲んでいた。
それもそのはず、通常なら1時間で捌ける荷物が、雪の影響で倍以上の時間を要している。
作業員たちは、雪で濡れた床をで滑らないよう注意深く動いていた。
一方で、次々と到着するトラックの列が見え、ドライバーたちが苛立ちの声を上げ始める。悠真は一瞬考え込むと、決断を下した。
「まずは到着順を無視して、緊急性の高い荷物から優先して降ろそう。残りのトラックには別の待機場所を案内する。田中に指示して、ドライバーたちに連絡を取らせてくれ。」
「わかりました!」
村上が頷き、すぐに作業員たちに指示を出し始めた。
悠真も一緒になって荷物の確認や段取りの調整に動いた。
**しかし、混乱はそれだけでは終わらなかった。**
昼過ぎ、あるトラックの荷下ろし作業中にアクシデントが起きた。
荷物を持ち上げたフォークリフトが雪で滑り、パレットが傾いて中身が崩れ落ちてしまったのだ。
段ボールの中に入っていた食品が地面に散乱し、一部は濡れた雪の上で使い物にならなくなった。
その場にいた作業員たちは驚き、フォークリフトのオペレーターが慌てて止めたが、周囲の空気は凍りついたままだった。
商品の一部が破損してしまい、現場の緊張感はさらに高まった。
「山崎さん、荷主から電話です。今回の遅延について、厳しいクレームが入っています。」
田中が事務所から駆けつけてきた。悠真は一瞬言葉を失ったが、深呼吸して冷静さを保った。
「わかった。まずは荷主に状況を説明し、誠意を持って対応する。現場の作業員には、この件で責任を感じないようフォローしてくれ。」
電話での説明は苦しいものだった。雪という不可抗力が原因であることを伝えても、荷主は納得せず、「計画性が足りない」「事前にリスクを回避する策を考えておくべきだ」と責め立てた。
さらに、一部の荷主は「納期が遅れると販売計画が崩れる」「他の取引先とのスケジュール調整が難しくなる」といった具体的な影響を訴え、強い不満を口にした。
**その日の終わり、悠真は事務所で一人考え込んでいた。**
雪という自然災害を前にして、自分たちがいかに無力かを痛感した。
しかし、無力さを嘆いている暇はない。
現場の作業員たちは疲弊し、荷主や運送会社との調整もまだまだ続く。
「物流とは、ただ物を運ぶだけじゃない。現場の声—例えば、作業員たちが直面する実際の課題や、現場での改善に向けた具体的な提案—をもっと全体に届けなければ、こうした問題は繰り返される…。」
悠真は決意を新たにした。
この混乱の中から何かを学び、次に生かす方法を見つける必要があると。
**そして、彼の視線の先にはまだ終わりの見えない雪が舞っていた。**
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます