女子大生禁煙をする
ドン・ブレイザー
第1話
ファミレスに入店した私を1人の店員が出迎える。
「いらっしゃいませ。1名様でしょうか?」
「はい。喫煙席で……いや、禁煙席でお願いします」
危ない危ない。いつもの癖で喫煙席にするところだった。私は今禁煙中。だから、タバコを吸っている人に囲まれて座るのというのも辛いので、禁煙席に座ることにしていたのだ。しかし、そんな私の思惑とは裏腹に、店員は無情に返答する。
「申し訳ありませんが、ただいま禁煙席は満席で……」
「あ、なら喫煙席でいいです」
満席なら仕方ない。私は喫煙席に案内された。
手持ちに余裕がないのでドリンクバーだけを注文した。ブレンドコーヒーをコップに注いで席に戻る。砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを飲んで一息つく。しかし、今の私にはコーヒーの香りよりも周りのタバコのにおいが気になるのだった。
「吸いたい……」
無意識にそう呟いていた。なんか今日に限ってタバコ吸っている人が多い様な気がするし。まあ、喫煙席でタバコを吸っている人がいるのは当たり前なんだけど。思わずいつもタバコの箱を常備していた胸ポケットに手がいくけど、手応えは無い。そうだ、禁煙を始めてからタバコもライターも持ち歩いていないんだった。ああ、でもやっぱり吸いたい……でも禁煙中だから、約束は守らないと。
「あ、志賀さんじゃん」
葛藤中、突然私を呼ぶ声が聞こえた。志賀とは私の苗字だ。声がした方を振り向くと髪を金色に染めた派手目の女性が通路に立っている。
「えーっと、あなたは……」
「え!? わかんない? アタシだよアタシ! 黒出(くろで)だよ、黒出! 黒出チヨコ! 同じゼミの!」
「あ、そうだった。ごめん名前がすぐに出てこなくて」
「え、名前覚えてないの!? うわ、ショックなんだけど! アタシは覚えてるのに! 志賀栄子ちゃんでしょあなた」
栄子というのは私の名前だ。うん、私の名前は完璧に覚えてもらっている。しかし、私ときたら同じ大学のゼミの同級生の名前を覚えていないとは、なんて薄情なんだろう。
「まあ、同じゼミでもアタシらつるんでるグループが違うからね。ま、これから仲良くしよーよ」
「あの、なんかごめん」
なんかいい人だな、黒出さん。派手で見た目ギャルっぽいからなんか話しかけづらかったけど、人は見かけによらないな。
「あのさ、今一人なの? それとも誰か待ってるとか?」
「ううん、一人で暇つぶししてたところ。授業が休講になって時間が余ったから」
「じゃあここ座ってもいい? アタシも一人だからさ」
「いいよ」
正直あまり話したことない人と二人になるのも気まずくはあった。けど、同じゼミの同級生の名前と顔を覚えていないという失礼をかましていた手前、黒出さんの申し出を断るのもどうかと思い、承諾したのだった。
「あ、タバコ吸うけどいい?」
黒出さんは私の向かいに座ると同時に、ポケットからタバコの箱を取り出した。
「あ、うん。いいよ」
黒出さんはタバコを吸うんだ。初めて知った。しかも偶然にも私がいつも吸っている銘柄。意外と気が合うのかも。
「ふー生き返る。一仕事終えた後の一服はサイコーだね」
黒出さんはそう言いながらおいしそうにタバコを吸っている。そんな姿を見て、私はますますタバコを吸いたくなる。弱ったな、一緒のテーブルに座るのは失敗だったかな。
そんなことを考えてると黒田さんはタバコの箱を私に差し出した。
「栄子ちゃんも一本どう?」
「え?」
「確か栄子ちゃんもタバコ吸うよね」
「うん、そうだけど何で私が喫煙者だって知ってるの?」
「だって大学の喫煙所でよく吸ってるじゃん」
「よ、よく見てるね」
「別に大したことじゃないよ。何回か喫煙所で見かけたから、覚えてただけ」
そうなのか。でも逆に私は喫煙所で、今まで黒出さんを見た覚えはない。黒出さんみたいなハデな子がいたら目につきそうなものなのに。
「で、これ吸う?」
「いや、いい。今吸えないから」
「え、なんで? なんで吸えないの」
「実は友達と賭けをしてるんだ」
「賭け?」
「うん、1ヶ月禁煙できるかどうかの賭けをね」
一応私は、なぜそんなことになったのかを黒出さんに話すことにした。
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