第34話 このままずっと
「わーっ、美味しそう……!」
運ばれてきたボリューム満点のストロベリーパフェを見て、有栖川は大はしゃぎした。食べるよりも先に、急いでパフェの撮影を始める。
その気持ちはよく分かる。せっかく可愛らしい盛り付けをしてくれているんだから、撮影もせずに食べるのはもったいない。
まあ、特に見せる相手はいないんだけど。
適当に数枚写真を撮ってから、パフェスプーンに手を伸ばす。こんなに大きいパフェを食べるのは、かなり久しぶりかもしれない。
「美味しいですね、これ!」
「うん。生クリームがしつこくないから、この量でも軽く食べられちゃいそう」
フルーツが美味しいのはもちろんだが、生クリームもアイスクリームも美味しい。
見た目が可愛いだけじゃなくて、味もかなりクオリティーが高いパフェだ。
「そういえばこの後、どうします? 夕飯とか食べて帰りますか?」
「食べて帰ってもいいけど……」
このあたりは飲食店も多いし、平日なら空いているだろう。とはいえ、パフェを食べた上に外食すれば、かなりの出費になる。
有栖川は気にするだろうし、私も、すごく余裕があるってわけじゃない。
「一緒にスーパー寄って帰るのはどう? その後、夕飯一緒に作るとか」
いつもは、私が夕飯を作って有栖川を待つ。別に不満があるわけじゃないけれど、たまには一緒に食事を作るのもいいかもしれない。
「翡翠さん!」
やけにきらきらとした瞳で私の名前を呼ぶと、有栖川は拳をぎゅっと握り締めた。
「それ、大賛成です!」
◆
パフェを食べた後、電車で最寄り駅まで戻ってきた私たちは、そのままいつものスーパーへ足を運んだ。
大きくも小さくもない、これといった特徴が全くないスーパーである。
「有栖川、なに食べたい?」
「えっ、私が決めていいんですか?」
「うん」
「そうですね……せっかく一緒に作るんだから、作るのも楽しそうな料理がいいですよね」
有栖川が楽しそう、って思う料理ってなんなんだろう。
うーん、としばらくの間唸っていた有栖川が、あっ! と両手を叩いた。
「ハンバーグとか、どうです?」
「……楽しいっていうか、面倒くさいかも」
「そうかもしれませんけど! 面倒くさいことなら、二人の時にやった方がいいじゃないですか」
ね? と有栖川が笑う。私としては、有栖川が選んだ料理ならなんでもいい。
それに、有栖川とハンバーグを作るのは楽しいかもしれない。
「確かにね。せっかくだし、チーズインハンバーグにしてみる?」
「えっ、そんなの家で作れるんですか!?」
「作れるよ。チーズ入れるだけだし」
「すごいです、翡翠さん!」
有栖川のリアクションはいちいち大袈裟だ。私とは全然違う。
改めて考えると、仲良くなったのが不思議なくらい、私たちは似ていない。
でも、だからこそいいのかも。
「ちなみに有栖川、料理の経験は?」
「ほぼゼロです!」
「オッケー」
スマホでレシピを検索し、材料を読み上げる。すると有栖川が歩き回って、必要なものを探してきてくれる。
ただの買い物だ。ここはスーパーだし、カゴに入れているのも、野菜とかひき肉とか、見慣れた物ばかり。
なのに、どうしてだろう。有栖川が隣にいるってだけで、すごく楽しい気がしてくる。
「翡翠さん」
「なに?」
「楽しいですね、一緒にお買い物」
「……私も、同じこと考えてた」
こんなことを口にするのは気恥ずかしい。でもそれ以上に、今の温かい気持ちを有栖川と共有したくなった。
目が合うと、有栖川も照れたように微笑む。
もしかしてこれが、幸せってことなのかな。
私はずっと、作家になれなきゃ意味がない、そう思って生きてきた。今だって、その気持ちが変わったわけじゃない。
だけど日常の中にだって、ちゃんと幸せはあるんだ。当たり前のことかもしれないけれど、私は有栖川と出会うまで気づけなかった。
◆
「じゃあ、さっそく作っていきましょうか、ハンバーグ!」
買ってきた材料をカウンターに広げ、有栖川が腕まくりをする。ちなみに、お出かけ用の服を汚さないように、私も有栖川も着替えは済ませてある。
「うん。まずはえっと……必要な分だけ、パン粉とか牛乳とか量っておいてくれる? 玉ねぎは私が切るから」
料理慣れしていない有栖川に微塵切りは任せられない。もし有栖川が手を切ってしまったら大変だ。
「了解です、料理長!」
「……なにそれ」
「雰囲気出るかなって」
「有栖川、何の雰囲気出そうとしてるの」
「……さあ?」
訳が分からないのに、楽しくてしょうがない。有栖川と過ごす毎日は、一人でいた頃とは大違いだ。
このまま有栖川が、ずっとここにいてくれたらいいのに。
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