第34話 このままずっと

「わーっ、美味しそう……!」


 運ばれてきたボリューム満点のストロベリーパフェを見て、有栖川は大はしゃぎした。食べるよりも先に、急いでパフェの撮影を始める。


 その気持ちはよく分かる。せっかく可愛らしい盛り付けをしてくれているんだから、撮影もせずに食べるのはもったいない。


 まあ、特に見せる相手はいないんだけど。


 適当に数枚写真を撮ってから、パフェスプーンに手を伸ばす。こんなに大きいパフェを食べるのは、かなり久しぶりかもしれない。


「美味しいですね、これ!」

「うん。生クリームがしつこくないから、この量でも軽く食べられちゃいそう」


 フルーツが美味しいのはもちろんだが、生クリームもアイスクリームも美味しい。

 見た目が可愛いだけじゃなくて、味もかなりクオリティーが高いパフェだ。


「そういえばこの後、どうします? 夕飯とか食べて帰りますか?」

「食べて帰ってもいいけど……」


 このあたりは飲食店も多いし、平日なら空いているだろう。とはいえ、パフェを食べた上に外食すれば、かなりの出費になる。


 有栖川は気にするだろうし、私も、すごく余裕があるってわけじゃない。


「一緒にスーパー寄って帰るのはどう? その後、夕飯一緒に作るとか」


 いつもは、私が夕飯を作って有栖川を待つ。別に不満があるわけじゃないけれど、たまには一緒に食事を作るのもいいかもしれない。


「翡翠さん!」


 やけにきらきらとした瞳で私の名前を呼ぶと、有栖川は拳をぎゅっと握り締めた。


「それ、大賛成です!」





 パフェを食べた後、電車で最寄り駅まで戻ってきた私たちは、そのままいつものスーパーへ足を運んだ。

 大きくも小さくもない、これといった特徴が全くないスーパーである。


「有栖川、なに食べたい?」

「えっ、私が決めていいんですか?」

「うん」

「そうですね……せっかく一緒に作るんだから、作るのも楽しそうな料理がいいですよね」


 有栖川が楽しそう、って思う料理ってなんなんだろう。


 うーん、としばらくの間唸っていた有栖川が、あっ! と両手を叩いた。


「ハンバーグとか、どうです?」

「……楽しいっていうか、面倒くさいかも」

「そうかもしれませんけど! 面倒くさいことなら、二人の時にやった方がいいじゃないですか」


 ね? と有栖川が笑う。私としては、有栖川が選んだ料理ならなんでもいい。

 それに、有栖川とハンバーグを作るのは楽しいかもしれない。


「確かにね。せっかくだし、チーズインハンバーグにしてみる?」

「えっ、そんなの家で作れるんですか!?」

「作れるよ。チーズ入れるだけだし」

「すごいです、翡翠さん!」


 有栖川のリアクションはいちいち大袈裟だ。私とは全然違う。

 改めて考えると、仲良くなったのが不思議なくらい、私たちは似ていない。


 でも、だからこそいいのかも。


「ちなみに有栖川、料理の経験は?」

「ほぼゼロです!」

「オッケー」


 スマホでレシピを検索し、材料を読み上げる。すると有栖川が歩き回って、必要なものを探してきてくれる。

 ただの買い物だ。ここはスーパーだし、カゴに入れているのも、野菜とかひき肉とか、見慣れた物ばかり。


 なのに、どうしてだろう。有栖川が隣にいるってだけで、すごく楽しい気がしてくる。


「翡翠さん」

「なに?」

「楽しいですね、一緒にお買い物」

「……私も、同じこと考えてた」


 こんなことを口にするのは気恥ずかしい。でもそれ以上に、今の温かい気持ちを有栖川と共有したくなった。

 目が合うと、有栖川も照れたように微笑む。


 もしかしてこれが、幸せってことなのかな。


 私はずっと、作家になれなきゃ意味がない、そう思って生きてきた。今だって、その気持ちが変わったわけじゃない。

 だけど日常の中にだって、ちゃんと幸せはあるんだ。当たり前のことかもしれないけれど、私は有栖川と出会うまで気づけなかった。





「じゃあ、さっそく作っていきましょうか、ハンバーグ!」


 買ってきた材料をカウンターに広げ、有栖川が腕まくりをする。ちなみに、お出かけ用の服を汚さないように、私も有栖川も着替えは済ませてある。


「うん。まずはえっと……必要な分だけ、パン粉とか牛乳とか量っておいてくれる? 玉ねぎは私が切るから」


 料理慣れしていない有栖川に微塵切りは任せられない。もし有栖川が手を切ってしまったら大変だ。


「了解です、料理長!」

「……なにそれ」

「雰囲気出るかなって」

「有栖川、何の雰囲気出そうとしてるの」

「……さあ?」


 訳が分からないのに、楽しくてしょうがない。有栖川と過ごす毎日は、一人でいた頃とは大違いだ。


 このまま有栖川が、ずっとここにいてくれたらいいのに。

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