タバコイポイントマックスで彼女になってくれる後輩

宮坂大和

第1話 タバコと屋上と後輩

 私立バカタレ高校。日本1バカが集まる高校らしい。

 んで、俺はそこに通う2年生だ。吉澤悟よしざわ さとるって受験の時に名前書いたら入れた。嬉しい。


「ふぁ〜あわ……ねっみ……」


 母ちゃんが言ってた。どうやら、バカと煙は高いところが好きらしい。

 なんかよく分からないけど、まぁ母ちゃんがそう言うならそうなんだろう。


「眠そうだなぁ〜」

「あ、星宮ほしみやセンセーじゃないっすかぁ。おざーす」

「ん、おはよ。授業始まってるけど、サボりか?」

「ういっす。今日も元気に授業サボって、タバコ吸ってきます!」

「そうかそうか。ヤニクラに気をつけろよ」

「ヤニクラは、タバコの愛情表現なんでむしろドンと来いって感じっすね」

「そうか〜。んじゃ気が向いたら授業に出ろよ〜」

「はーい」


 さて。んじゃいつも通り屋上に行って、愛するタバコちゃんを吸おうかなっと。


 ――――

 ――


 バイクで廊下を爆走するヒャッハー軍団に轢かれないように気をつけながら、屋上へとやってきた。

 ん? 先客がいるな。赤色のリボンってことは後輩だな。まぁいいや。とりあえず、タバコが先だ。これだけは譲れん。

 俺は早速備え付けの灰皿へと直行。ズボンのポケットから、本日のお供である、メビウスオプションパープル8ミリを取り出し、口に咥えてフィルターのところにあるカプセルをカリッと噛む。これで準備完了。そして愛用のジッポで火をつけて、先端の部分が赤く、黒く、そして白くなったら軽く息を吸って、煙を肺に入れる。そして、ふーっと息を吹き出した。


「あぁ……かいっかん!」


 くぅ〜、これだからタバコは辞めらんねぇぜ! マジでタバコ愛してる。どうか、俺が死んだ時は線香の代わりにタバコを立ててくれ。


「美味しそうに吸いますね。センパイ」

「そりゃ美味しいからな。この世にタバコより美味いものなんて、存在しないって言い切れるぜ」


 どんな三つ星レストランの料理よりも、タバコの方が100倍美味いな。これマジ。


「センパイ。マジかっけぇっす!」

「ふっ。だろ?」


 この後輩中々話が分かるじゃないか。見どころあるぞ。いや、むしろ見どころしかないな。将来有望だな。


「あ、自己紹介がまだでしたね。私は美山椿芽みやま つばめっす。椿芽でいいっすよ」

「そうか。俺は吉澤悟だ。悟でいいぞ」

「了解っす! 悟センパイ!」


 黒と赤のツートンのウルフカットの髪。童顔で少し眠そうな感じのジトっとした目。小柄な体型にはちょっとばっかし似合わない、大きく育ったおっぱい。俺の目測では最低でもEカップはあるな。いい感じにエロ可愛い女である。制服の上には、少し大きめのダボッとした鼠色のパーカーを羽織っている。俺的にかなりタイプである。オー、イエー!


「ちょ、センパイ〜。じろじろ見てどうしたんっすか?」

「いやな。男ウケのいい、エロ可愛いやつだなって思ってよ」

「ストレート過ぎるセクハラ発言っすね!? センパイ〜、通報しちゃうっすよぉ〜」

「ごめんって。ほら、お詫びに俺のタバコ1本やるから許してくれよ」

「にひひっ、もぅ〜そう言われちゃ仕方ないっすねぇ。ご馳走様っす!」


 ふっ。危ない危ない。通報されて捕まったら、タバコが吸えなくなるからな。それだけは避けなくては。


「ほれ、火を着けてやろう」

「あざっす!」


 椿芽にあげたタバコに火を着けてやった後に、俺も2本目に火を着ける。


「ふぅ〜」

「はぁ〜」

「「美味い!」」


 この連チャンで吸った時特有のガツンとした感じが堪らんなぁ。同じ物なのに、ほんの少しだけ強く感じてしまうのがいいんだよな。


「あ、そうだ」

「ん?」

「お返しにこれどうぞ」


 椿芽は、横に置いていたカバンから、何かを取り出して、俺に手渡してきた。


「お、ブラックコーヒー」

「タバコのお供っすよ」

「分かってるじゃん」

「何言ってるんすか、センパイ。タバコとブラックコーヒーは切っても切り離せない関係じゃないっすか。まさにベストマッチっすよ」

「だよなぁ。分かる」


 そんな訳で、ありがたく椿芽からブラックコーヒーを貰って、カシュとプルタブを開けて呷る。

 うん。最高だ。

 この苦みが、タバコの良さをさらに際立たせるってもんだぜ。


「センパイは、メンソール系が好みなんすか?」

「そうだな。好きか嫌いかで言えば好きだな。でも、メンソール系じゃなくても全然好きだぞ。なんだったら、どんなタバコでも愛してるな」

「おぉ〜、センパイマジかっけぇっす!」

「もっと褒めていいぞ。そういう椿芽は?」

「私も同じっすね。どんなタバコでも、ドンと来いって感じっす」


 ほほう。やはりこの後輩、出来るな。


「あ、ちなみにさっき私が吸ってたのは――」

「ラーク・マイルドの9ミリボックスだろ」

「よく分かったっすね」

「当然だろ。匂いで分かる」


 匂いだけで、タバコの銘柄を当てる。それが俺の特技の1つだ。的中率は100%だ。


「おぉ〜! センパイ、私センパイのこと尊敬するっすよ!」

「やめいやめい。照れるだろ」

「いやいや。もうセンパイは、私のタバコの師匠っすよ! ずっとついて行くっす!」

「師匠は恥ずいなぁ。せめて友達にしてくれ」

「むぅ……そう言うなら、仕方ないっすねぇ。なら、今日から私とセンパイは、ヤニ友ってことでいいっすか?」

「おうよ。それならオッケーだ」


 むしろ、こっちからお願いしたいくらいだったからな。タバコの話でここまで盛り上がれる人は、今までいなかったもんなぁ。それに誰かと一緒吸うタバコは、1人で吸うのとは違ってまたいいんだよね。


「センパイセンパイ。もう少し私と話さないっすか? 私、センパイとタバコ談議したいっす!」

「おう。いいぞ」

「にひひっ、やった!」


 へぇ、そのタバコを咥えながら、ちょっといたずらっぽく笑う感じ、結構可愛いじゃん。

 そんなことを思いながら、俺は3本目に火を着けて、椿芽とタバコについて熱く語った。


 ――――

 ――


「おっと。もうこんか時間になったんすね」

「そうだな。あっという間だったな」


 どうりで、新品のタバコが空になっているわけだ。椿芽との話が楽しくて、ついつい話し込んじゃったな。ついでにタバコも進んだ。


「にひひっ」

「何だよ?」

「いや、センパイと話してるの楽しいなって、思っただけっすよ」

「奇遇だな。俺もだ」

「本当っすか?」

「本当本当。マジで楽しかったよ」


 じゃなかったら、こんなに無計画に吸ったりしない。俺はもっと計画的にタバコを吸うタイプの人間だからな。


「ふむ。なるほど……」


 椿芽は、顎に手を当てて何か考え出す。

 急にどうしたんだろうな?


「センパイ。センパイって、彼女とかいるっすか?」

「いや、いないぞ」


 彼女かぁ。今までいたことないんだよなぁ。どうにも、最近の女ってやつは、タバコを嫌っているからなぁ。

 本当によ、タバコが何をしたっていうんだ。タバコの良さも知らないくせに、タバコは悪だとか言ってよ。マジで許せん。


「ちなみに、彼女って欲しかったりします?」

「そりゃあ、いたらいいよな」

「なら、センパイ。タバコイポイントをマックスにしてくれたら、私が彼女になってあげますよ!」

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