魔術会社サークル〜依頼お待ちしております〜
ペンギンの回り道
第一章 魔術師が依頼受け付けます
探し物
探し物ep1
「社長〜、そろそろ仕事しましょうよ〜」
「今選んでるから待っててね」
子供たちの声が外から聞こえる。そろそろ日も傾きそうな時間に静寂を破るかのように声が響く。依然として続く紙をめくる音、書類に何かを書いているかのようなペンを走らせる音。
「なんでもいいですけど暇なんですよ。せっかくアルバイトでここにいるのに何もしないのも嫌です〜」
ソファに背を預けながらだらけるようにスマホを弄っている学生服姿の少女。彼女の名前は空穂(うつほ)。名字は忘れてしまった。採用するときに確認はしたはずだが基本的に名前で呼んでいるので仕方ないだろう。
「っていうか、そもそも今日も人来ないじゃないですか!社長は何をやってるんです?」
人が来ない。それはいつものことながら空穂ちゃんは再確認するように言う。
この場所は社長である僕が借りている建物の一室。その一室で『なんでも屋サークル』というものを営業している。基本的に朝から夜まで事務所は開けている。空穂ちゃんが来るのは夕方になり学校が終わった時間のため基本的には他の従業員がいるか一人で仕事をしているかである。
「今日、投函されてた仕事を確認してるんだよ。急ぎのものからやらないといけないからね」
「どんなのが来てるんです?」
ソファから立ち上がった空穂ちゃんは床に置いてあったバッグを軽く飛び越え、僕のデスクにやってきて依頼の紙を数枚手に取り流し見を始める。
「こらこら、空穂ちゃん。勝手に見てはいけないよ。守秘義務もあるからね」
「分かってますよー。でも今どき紙でしか依頼を受け付けないなんて非効率的ですよ!インターネット使いましょう!インターネット!」
「インターネットねぇ……。あんまりいい思い出がないから使いたくないんだよね」
この事務所の依頼は基本的に事務所の外に置いてある投函箱に依頼の書かれた紙を入れてもらう形になっている。依頼によっては人に見られることを嫌がる場合もある。理由はそれだけではないがインターネット等の人の目に触れやすいところは業務的に不都合になることがあるためインターネットは使わないことにしている。
「いい思い出って叩かれたりしたんですか?……あっ!この依頼とかどうです?社長が除外したところに入ってたんですけど」
「どれどれ?」
空穂ちゃんが依頼の書かれた紙を差し出してくる。
『依頼 私の手から離れてしまった猫を探し出してほしい。お腹をすかせていると思います』
「猫探しの依頼ですよ!すごく私向けだと思いませんか?探し物は毎回見つけられますしこれならすぐ終わると思います!」
自信満々に空穂ちゃんはこちらを見てくる。確かに空穂ちゃんはこの手の依頼達成率は高い。無くした鍵を見つけてほしいという依頼や落とし物探しの依頼、今回と同じようなペット探しの依頼なども経験している。
「でもなぁ……。本当にこれやるの?やめたほうがいいと思うけどなぁ」
「暇ですしやりますよ!パパっとやってきちゃうので依頼書を貸してください!」
そう言って社長である僕の手から依頼書が奪い取られた。空穂ちゃんは強引なところがあるからこうなってしまっては引かせるのは大変である。
「んー。猫探しですけど特徴は『尻尾が二本生えている』ことと『少し大きい』って書かれてますね。名前はタマ……って猫にありがちな名前ですね。呼び掛ければ反応するって書かれてますし探しやすそうですよ!」
「まぁ、空穂ちゃんがそれでいいならいいけどね」
彼女は依頼書を隅々まで見ているが依頼文を額面通りにしか受け取らない。そのへんは後々に教えればいいと思っていたけど……。少し危機感を持たせないといけないかもしれない。
「空穂ちゃん」
「なんですか?」
早速、外に出ようと準備をしている彼女に声かける。外は肌寒いのか制服の上にパーカーを着込んでいる。パーカーのチャックを閉めながら足音が立たないようこちらに近付いてくる。
「この依頼文におかしいところあると思うんだけど分かるかな?」
「この特徴のところですか?確かに変わった猫だと思いますけど。」
空穂ちゃんは依頼書を見ながら首を傾げている。
「例えば空穂ちゃんは猫を探してほしいときどういうふうに言うかな?」
「えっと、普通に猫の特徴を書いて、猫を探してくださいって書きますね」
「その依頼文は?」
「『私の手から離れてしまった猫を探し出してほしい。お腹をすかせていると思います。』なにか変ですか?」
「普通、猫を探してほしいのに『私の手から離れてしまった』って書くかな?」
「でも事実は同じじゃないですか?逃げちゃってるわけですし」
「今現在起こってる事象は同じかもしれない。でもね、それが起こる過程によって未来は変わるんだよ」
空穂ちゃんは何を言っているのか分からなさそうに首を傾げている。
「つまりどういうことです?」
「……気を付けてってことだよ」
早く探しに行きたいのだろう。結論を急ぐように彼女は出入り口の扉の方を見ながら僕に問う。それに対する僕の答えは心配するような言葉を投げかけるだけだった。
「わかりました!とりあえず行ってきます」
そう言って彼女は扉の方へ歩いていく。僕の予想が正しければ彼女は危ない目に合うと思うが止めてもその理由を聞かれて都合が悪くなる。危ない目に合わせないように社長である自分が動かなければならないかもしれない。
「空穂ちゃん」
扉の前にいる彼女を呼び止める。
「なんです?」
「これ、お守り。持っていってよ」
僕はそう言って彼女に巾着袋を投げて渡す。
「なんですかこれ?」
「ほら僕が内職で作ってるお守り」
「あー。あの石に何か模様を掘ってるあれですか?」
そう言って彼女は巾着袋を開けて中身を確認する。社長である僕は依頼以外に内職としてお守り作りをしている。一回限りのお守りだが効果があるのかリピートされるため、依頼よりも儲かる月があることもある。
「なんですかこの簡単に書いた壺みたいな絵。」
「お守りだからね。そんなに気にしなくてもいいよ。運を上げるようなものだと思ってもらえればね」
彼女は僕の渡した巾着袋に石を入れてパーカーのポケットに入れた。
「それと、僕も後で行くことにしたよ」
扉を開けようとした彼女に言葉を投げかける。彼女は振り向いてニタァとした笑みを浮かべる。
「先に猫を見つけておくのでボーナスよろしくお願いします!」
そう言って彼女は事務所を出ていく。扉から出ていった彼女は気を遣うかのように音を立てずに外に出ていった。その姿を僕は窓辺に近付き、窓から確認した。小走りで辺りを捜索し始めている。
「ボーナスか。命あっての物種なんだけどね。……さて、空穂ちゃんが心配だし準備してから僕も行かないとね」
ハンガーに掛けてあるジャケットを手に取り、袖を通す。机の上に広がってる依頼書を眺めながら準備をする。彼女は他にも依頼があるにもかかわらずこの依頼を選んで持っていた。
「相も変わらず"そういうモノ"に引かれてしまうんだね、彼女は。さて、僕も出るとしようか。」
誰も聞いていない空間に向かって僕は喋り続ける。
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作者です。読んでいただきありがとうございました。
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