村人ですが、吸血姫様の飼い犬になりました。

蜜りんご

第1話:プロローグ

ジュル…ズル…


液体を啜る音が裸体の女から響く。女の手元にはぐったりとし、首元から血を流す人間。人間の目はどろりと濁っており、正気が全く感じられない。


「嗚呼、おいしい…なんて、おいしいの…!」


ガブリと首筋に噛みつき、ブシャっと血が吹き出す。一滴も余すことなく一心不乱に血を求めて首筋を舐ぶる女。女は自分の中が人間ひとの血で満ち足りるまで噛みつき、血を啜る。痩せ細った体の全ての血を吸い、女は不満足げな表情をする。


「はぁ…終わっちゃった。人間の命って何でこうも儚いのかしら。もっと長く甘い時間を過ごせたらいいのに…」



===================



俺の名前は、ジダン。ジダン・ハリル・インアームっていう。生家が宝石商ってわけで、そこらよりちょっとは金を持ってる家に生まれ、今年で15歳だ。宝石商っていっても原石じゃなく、加工品を代々扱ってきた家って俺は認識してる。ちなみに俺も親の仕事を継ぐにあたり、宝石の加工技術を習ってきた。今では、店の隅の一角に自分の作った製品を列ばしてもらってる。


そんな俺は、チェフレン王が統治する世に生きている。王は国民にも寄り添ってくれてるし、いい王だと思う。けど、チェフレン王の第一王女であるレイラ・チェフレン・ガーリブ王女が問題だ。彼女は容姿端麗な見た目に反して横暴な命令が多く、金遣いも荒く、最近は人攫いもしているなんて言われている。ひどい噂だななんて思ったけど、実際レイラ王女に攫われかけたってお客さんを数人みたことがある。そんな彼女は、国民から嫌われている。


そして今日も今日とて、親についてまわり宝石採掘を行っている客との交渉の場に参加する。俺はこの交渉の場よりも宝石を削ってる方が好きだ。でも顔煮出したら、商売がうまくいかなくなるから俺も愛想笑いを浮かべて客と応対する。ま、主に客と話すのは親父なんだけどな。


「本日ハリル様におすすめの一点はこちらです。先日我がチームが採掘したペリドットでございます」


ペリドットかぁ。ペリドットは、太陽神ラーの光として民から崇められる石だ。大きさは推定直径1cm大。俺が見た中で最も大きなサイズだ。これは金の動きが大きくなるなと思う。


「これは…大きさも輝きも素晴らしい…!!」


いくら出すんだろうか、50万はくだらないだろう。


「70万で取引を頼む」


70万か、親父の思い切りの良さに驚きつつも妥当な数字か、と納得する。親父はさらに他の宝石も買い、100万ほどの取引を客の採掘職人として今日の取引が終わった。


取引も終わり、俺は1人気分転換に外を歩く。頬を撫でる風が心地良い。大通りは活気があって、こちらも元気になる。大通りを抜けると王の住まう都への道となる。ぼやぁっとその道を眺めて風を浴びる。宝石の加工がつまらないわけじゃないけど、日常に何か変化がほしい。


「何か俺の刺激になるものが欲しい…」


俺の人生が大きく変わるまで、あと1分。

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