第25話:闇夜の襲撃者たち

王都支部の廊下は、緊迫した空気に包まれていた。壁に掛けられたランプの炎が揺らめき、闇の中に不気味な影を落としている。


アキラは、ハロルドから受け取った剣──クラウゼル家に代々伝わる業物『影切(かげきり)』を手に、リリスの背を守るようにして歩いていた。鞘から抜いた刀身は青白く月光を反射し、柄にあしらわれた銀糸が静かに光っている。


(……この剣、持っただけで分かる。ガチでヤバいヤツだ……!)


戦場ゲームでしか剣に触れたことのないアキラでも、その切れ味の鋭さ、重心のバランスの良さが直感でわかった。


「アキラ、足音を抑えて。敵はもうすぐそこかもしれないわ」


「は、はい……!」


背後から聞こえるリリスの小声に頷き、アキラは緊張した面持ちで廊下を進む。


その時だった。


——ギィ……。


不意に曲がり角の向こうから、軋むような足音が聞こえた。


「……来るわよ」


リリスが剣を構える。アキラも慌てて『影切』を両手で握りしめた。


次の瞬間、仮面をつけた黒装束の襲撃者が廊下の影から飛び出してきた。


「ぬうっ……!」


アキラは思わず剣を振る。だが、それは素人の我流にすぎない。


——キィィンッ!


鋼と鋼がぶつかる音。襲撃者の剣がアキラの『影切』と交差し、火花が飛ぶ。


「チッ、素人が……だがっ」


襲撃者は鋭い目つきでアキラを見据え、間合いを詰める。


しかしその刹那、リリスの剣が横から斬り込んだ。


「っ、甘いのよ!」


金色の髪をなびかせながら、リリスが一閃する。その剣筋はまさに貴族の剣術――気品と殺気が混在した美しい動きだった。


襲撃者は驚愕の表情を浮かべたまま、仮面が割れ、床に倒れ込む。


「アキラ、大丈夫?」


「……なんとか」


アキラは汗を滲ませながら返事をし、震える腕を見下ろした。


(やばい、俺……戦ってる。本当に戦ってるんだ)


その時、背後から新たな気配。


「もう一人、来るわよ……!」


リリスの声と同時に、第二の襲撃者が窓から飛び込んでくる。だが今度は——


「させるかっ!」


ハロルドの鋭い声が響き、襲撃者の進路に割って入る。その手には、細身のレイピア。


「我が主に刃を向けるとは、万死に値します」


冷徹なその剣筋が一閃し、襲撃者は呻き声をあげて崩れ落ちた。


リリスは静かに呟いた。


「……これは、ただの襲撃じゃないわね。明確な意図と命令を持った“処刑部隊”……」


アキラは息を飲んだ。


「そんな……じゃあ、これはクラウゼル家を潰すための……!」


ハロルドは周囲を警戒しながら頷く。


「「我々は、この屋敷から無事に脱出せねばなりません。今ここで潰されれば、王都でのクラウゼル家の影響力は致命的に低下する」


ハロルドは言葉を切り、静かに剣を構え直した。その目には、ただの執事には到底見えない鋭さと覚悟が宿っている。


「ですが、脱出するだけでは不十分です。襲撃の背後にいる者の意図を探り、反撃の機会を探る必要があります」


リリスは頷いた。「ええ、このまま引き下がるだけじゃ、父上にも顔向けできないわ」


三人の視線が廊下の奥、次なる危機へと向かっていた。

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