第18話:剣術大会、波乱の兆し
「さて。次は——アキラ、君の番だ。」
「はぁぁぁ!?なんで俺がぁぁぁ!!?」
場内にアキラの情けない叫びがこだました直後、突然、審判の一人が壇上へ駆け上がってきた。
「失礼いたします! 試合進行を一時中断してください!」
その声に、場内がざわめいた。
「な、何があったんですか?」
アキラは安堵と不安が入り混じった表情でリリスに尋ねる。
「知らないわ。でも、何かただ事じゃないようね。」
やがて、場内に通達が入る。
「只今、特例として新たな試合の申し出がありました。規則に則り、特別試合として取り計らいます!」
再び会場が騒然とする中、扉がゆっくりと開いた。
黒衣の集団が入場してくる。その中央に立っていたのは、漆黒の髪を背中まで伸ばし、鋭い赤い瞳をした青年だった。腰には異様に大きな模擬剣が携えられ、全身を包む漆黒のコートには、獣の毛皮をあしらった襟がついている。その姿はまるで戦場から現れた死神のようで、その存在感だけで観客を圧倒していた。
「……誰よ、あの人たち」
リリスが警戒心を露わにする。
「我ら、黒狼傭兵団。代表のグレイ=アルザスだ。」
青年が堂々と名乗ると同時に、観客たちがどよめいた。名は知られていないが、粗暴ながら実力で名を上げてきた地方の傭兵団。その一団が、王都の剣術大会に堂々と姿を現したのだ。
「おい、クラウゼルの令嬢ってのはあんただな? 貴族の象徴だかなんだか知らねぇが、俺たちの腕が本物ってとこ、見せてやろうじゃねぇか。勝負しろや!」
「……はぁぁ!? なんで私が名指しされるのよ!」
リリスが声を荒げる。だが、エリオット王子が一歩前に出た。
「いいだろう、面白い。だが、リリス嬢に挑むというのなら、まずは彼女の教育係と戦うがいい。」
「へ?」
アキラの顔が引きつる。
「アキラ、君に託す。見せてみろ、クラウゼル家の“盾”としての実力を。」
(ちょ、待て待て待て! なんで!? なんで俺が!? )
リリスもさすがに慌てた様子で口を開いた。
「王子、アキラは剣士じゃありません! 本当にただの教育係なんです!」
「知っている。だが……その教育係が、貴族の名誉を守る。それが、面白いと思わないか?」
(……全然面白くないですよ?!これ絶対ブラック企業の時と同じ“やらざるを得ない地獄案件”ですよ!!アホ王子!)
アキラは泣きそうな顔で木剣を取ったが、その手は小刻みに震えていた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……俺、こんなの聞いてないですから……!」
目は泳ぎ、足も一歩引いている。それでもエリオット王子の視線を感じ、何とか踏みとどまった。
「……ぐっ……ああもう、分かりましたよ……やればいいんでしょ、やれば……!」
そして、リリスが小声で呟いた。
「アキラ……無理にとは言わないわ。でも、怖いなら逃げてもいいのよ。私は……あなたが無事でいてくれることのほうが……その…。」
アキラは思わず笑った。
「……ブラック企業で培った“耐える力”、今こそ発動する時ですね。」
そして、試合開始の鐘が鳴る。
元会社員アキラ vs 黒狼傭兵団代表・グレイ。
剣術大会は、新たな波乱の幕開けを迎えることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます