惑星開拓船フロンティア・ノア
橘 葵
1章 入植
第1話 プロローグ
西暦2030年1月10日、人類は滅びた。
亜光速で接近した
滅びの
破壊を免れた人工知能が再起動し、自らを人類を継ぐもの『パンドラ』と定義づけ、地球文明の残滓を収集、再構築を始めたのだ。
そして、この日、パンドラは小さな黒い小箱を残骸の中から発見する。
ラベルに手書きで『T-SR』と記されたその中には、組織片が張られたプレパラートが24枚収められていた。
後に聞いたこれが、僕・・
10億年前の出来事である。
*****
僕が『T-SR』なるクローン人間に転生して1年が過ぎた。
難病に罹って令和のニッポンで死んだはずが、目覚めたときにはシリンダーの中で培養液に浸されていたのだ。
色々と困惑もあったものの、今は概ね状況を理解している。
納得は無いが。
さて、僕が乗る宇宙戦艦は、今まさに母艦フロンティア・ノアを離れ新惑星『FP-919』の大気圏に突入しようとしている。
「コルベット1~24番、発艦完了。 本艦も大気圏突入の最終シーケンスに入ります」
「うむ。 ホワ〇トベース発進!」
「・・・。」
「・・えっと、揚陸艦フォトン発艦してください」
「了解」
塩対応な副官パンドラ女史は褐色肌のダイナマイトボディに尖った耳、いわゆるステレオタイプなダークエルフの見た目をしている。
おかげで目覚めて暫くは異世界転生したと思い込んでいた。
残念ながらそれは勘違いで。
彼女は有機素材から合成された亜生命体で、遺伝子を持たない代わりに老化もしないらしい。
容姿に関しては僕の世話役として合理的だと判断した結果だそうな。
意図は解るが納得はない。
「発艦完了。 軌道誤差0.02%、許容内です」
モニター越しに全長50000mを誇る母艦フロンティア・ノアが遠ざかっていく。
今後は惑星の上空35万キロの静止軌道上に待機して、僕らのサポートをしてくれる予定だ。
「対地速度マッハ10、逆噴射開始します。 3・2・1 噴射」
「おお! Gが・・Gがすごい!」
「許容内です」
つれない。
ともあれ、徐々に地上が近づいてきた。
1年前から観測した結果、FP-919 にはパンドラが中央大陸と呼称した大陸が一つと南北の極地に大小の島が点在する。
僕らが乗るホワイト・・揚陸艦フォトンの着陸予定地は中央大陸の北西部、深い森に囲まれた湖の
雲を抜けると眼下に(モニター越し)大地が見えてきた。
丸い外壁に囲われた町、四方に伸びる街道・・そう、この星には知的生命体が住んでいるのだ。
身体構造も概ね人類と同じであることは、観測の結果わかっている。
「目的地上空に到達。 着陸シーケンスに入ります」
「やってくれ」
防音性能が高い艦内にジェット推進の轟音が響き渡る。
「熱核噴射最大、着底予定地の温度は摂氏3000℃に上昇」
全長3キロメートルにも及ぶフォトン、着陸に当たっては地面を水平に均す必要がある。
そのため超高温のジェット噴射で一帯をドロドロに溶かすという力業を使っているのだ。
地上に人が居たらどーすんだと聞いたら、この一帯に人は居ないらしい。
艦底の直下はモニターでも見えないし、気にしないようにしよう。
着陸シーケンス開始1時間後、放射状に均された大地に揚陸艦フォトンは着陸した。
*****
謎の勢力side
バーアス大陸の北西部には人々を寄せ付けない『魔の森』が広がっている。
その最奥、湖の畔に魔王城はあった。
「おおっ!!! 遂にこの時が、魔王様の復活じゃぁ!!!」
「「「うおおぉ!!!」」」
黒い法衣を纏った鷲鼻の男が主の復活を告げると、魔の森全域から集まった異形の化け物が一斉に凱歌をあげる。
魔王と呼ばれた青肌の美丈夫は満足そうに配下の化け物を見回すと、利き手を振り上げて宣言した。
「聖女を犯し、勇者を喰ろうてやろうぞ!!! 魔王軍の復活じゃ!!!」
「「「魔王様バンザーイ!!!」」」
魔王城は揺れていた。
異形の化け物が踏み鳴らして、手にする武器を打ち鳴らして、その揺れはやがて立っていられない程に高まる。
「なっ・・なんじゃこの揺れは!?」
異変に気付いた魔王の問いに答える者はない。
突然の事態に配下の化け物も右往左往するばかり。
城の窓が吹き飛び、尖塔が倒れ、辺りは暴風と真っ白な光に塗り潰されていく。
「おのれ勇者の仕業だなぁ!!! こんな結末、我は認めんぞぉ!!! 死して尚、呪い喰ろうてやるわぁ!!!」
冤罪である。
怨嗟の呪詛と共に魔王とその配下は天から注ぐ炎に消えた。
*****
『レベルが上がりました。 レベルが上がりました。 レベルが上がりました。 レベルが・・・。』
着陸直前から頭の中に変なアナウンスが鳴り響いて止まらない。
「ねえパンドラ、このアナウンス止めてくれる」
「は? 何のことですか?」
「いやいや、だからこのレベルがどうのって」
「システムはすべて正常に作動しております」
う~ん・・脳内に埋め込まれたチップやらインプラントが悪さしてる気がするんだけど。
『レベルが上がりました。 レベルが上がりました。 レベルが上がりました。 レベルが・・・。』
ああ、うるさい!
結局、謎のアナウンスは一昼夜 続いた後に突然消えた。
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