【福袋】冒険者ギルドがおくる【企画】

ぺぱーみんと/アッサムてー

前編

その動画は唐突に投稿された。


【緊急告知!!】


デデン!

という効果音付きで、文字だけのお知らせ動画は始まった。

王都にある冒険者ギルドが投稿した動画である。


【二ヶ月後!】


デデン!!


と、また効果音付きでデカデカとした文字が映る。

つづいて、今度は下から上へ説明が流れていく。

とはいえ、それはとても短かった。


【冒険者の皆様へ感謝をこめて、この度、年末に特別企画を実施!!】


【乞うご期待!!】


説明が流れ終わると、


【あと60日】


カウントダウンが始まった。


そして今度は別の説明が出る。

しかしそれは、流れることなく停止していた。


【〇月×日 午前10:00】


1週間後の日付と時間が、やはりデカデカと表示される。

その下には、


【王都内、冒険者ギルドにて企画内容の詳細を説明いたします。

冒険者の皆様には、ぜひぜひ、ご参加頂きたく願います】


と書かれてあった。

たっぷりと時間をとって、その説明を表示した後。

動画は終わった。

冒険者ギルド公式から、それも王都の冒険者ギルドからのお知らせに目を光らせ、こういった動画投稿に張り付いている一部の者たちのコメントが、動画内で流れていく。


《うp乙》

《うぷ乙》

《うp乙》

《なんだ、この動画?》

《緊急告知って、てっきり不人気クエスト受注しろーってやつかと》

《不人気クエストゴリ押しではないな》

《わざわざ説明会すんの??》

《二ヶ月後へのカウントダウン??》

《特別企画ってなにするんだ?》

《ちょうど太陽復活祭ユール祭の頃か?》

《異世界で言うところのクリスマスの時期だな》

《クリスマス?》

《なにそれ?》

《別のやつが書いてるけど、こっちでいう太陽復活祭ユール祭のことだよ》

《年末のお祭りのこと》

《こっちと同じで家族、恋人や友達とパーティーしたりして祝う行事》

《へぇ》

《世界が違ってもお祭りは似たようなもんなんだなぁ》

《転移者か、転生者か》

《知ってる、ちきゅう、って所からこっちに来てる人達だよね》


この世界は、昔から何故か地球からの転移者と転生者が多かった。

そして、それが認知され、受け入れられている世界でもあった。


《ちきゅうのにっぽんってとこから来てるんだよね》

《転移&転生者で比較的、多いのはそこの人かな》

《年末もだけど、日本だと年始も盛大にお祝いするよ》

《二年参りとかな》

《こっちに来て、二年参りなくておどろいた記憶》

《わかる》

《わかる》

《変なところで日本の文化が取り入れられてるのに、変なところで文化が違ったりな》

《いやいや、地球でだって国が違えばそうだっただろ》

《まぁなー》

《でも、緊急告知とそれに説明会までするって》

《どんな企画するんだ?》

《あれじゃない?》

《ちょっと大袈裟な、歳末売りつくしセール》

《あー、あるかも》

《消費期限ギリギリのポーションとかのたたき売りすんのかな?》

《欲しいやつは欲しいもんな》

《消費期限切れても1週間くらいは使えるぞ》

《飲んだことあんの??》

《d(˙꒳˙* )》


コメントはざわつきつつも、そこまで騒がれることは無かった。

冒険者ギルドがこういった企画をすることは、とくに初めてではなかった。

コメントでもあるように、視聴者たちは精々、他のギルドと組んでポーションなどの在庫整理セールでもするのだろう、という受け取り方をしただけであった。


しかし、この世界には今見てもらった通り、動画投稿することが出来る。

なんなら、冒険者が動画配信ができるし、ついでに説明しておくと掲示板実況もできる世界なのである。


とどのつまり、冒険者の人気配信者や人気実況者が存在する世界でもあったりする。

このお知らせについて、そんな者たちが面白おかしく反応した。

けれど、バズる、という程ではなかった。

お知らせとして、この【緊急告知】動画が拡散されたのは事実だ。

でも、所詮、冒険者ギルドのやることだから、しょぼい企画だろう。

消費期限ギリギリのポーションのたたき売りに違いない、という考えをする者が多かった。


実のところ、人気配信者達でさえ、そう考えていた。動画内でもそういった考えである、ということを隠そうともしなかった。

けれど、わざわざ説明会をするのは今までに無かったのも事実である。

もしかしたら、説明会では別のたたき売りのお知らせがあるのかもしれない。

はたまた、不人気クエストを受注するようにお願いされるのかもしれない。

成功報酬が安すぎて、新人向けではあるけど、新人には見向きもされないクエストもあるのだ。

たとえば、下水掃除とか下水に住み着いたモンスター退治とか。

過去にも、こういったクエストを受注してくれと説明会が設けられたことが何度もある。


だから、


『今回もきっとそれだろう』


という考えの者が大半であった。



それでも、冒険者ギルドの説明会とあっては参加しないわけにはいかない。

もしかしたら、ほかの大事な説明があるかもしれないからだ。

たとえば、最近の物価高による影響で、ギルドに定期的に支払う会員費が値上げされるのかもしれない。

そういった大事な説明会だった場合、出席せずに知りませんでした、となっても誰のせいにもできないからだ。

でなかった自分が悪いことになる。


こんな考えもあり、大半の冒険者達は説明会に出席することに決めたのである。

ただ個人で活動しているものはともかく、パーティを組んでいる者は代表を一人から二人、出席させることが暗黙の了解となっていた。


だが、今回の企画がいつもと違うことに冒険者達はそうそうに気づくこととなる。


翌日、また冒険者ギルドが動画を投稿したのだ。

時間にして1分足らず。

数十秒の動画であった。


【59日】

デデン!!


デカデカとそんな文字が、効果音と共に表示されただけの動画だった。


さらに翌日。


【58日】

デデン!!


全く同じ動画が投稿された。

それが1週間続いた。

冒険者たちも動揺していく。

こんなことは、今までに無かったからだ。


そして、ついに説明が明日となった。


「明日、説明会だな」

「だな」

「出るか?説明会?」

「まぁ一応」


「受付嬢やギルマス、ギルドの幹部に探り入れてみた」

「お、なんかわかったか?」

「全く」

「口が堅いな」

「それもそうなんだけど、情報漏洩されないよう本気出してる節がある」

「マジか」


という会話が、冒険者ギルドの建物内、クエスト先の森やダンジョンで冒険者たちの間で交わされることとなった。


そして、【緊急告知】動画の投稿から1週間後。

つまりは説明会当日となった。

説明会会場は、冒険者ギルドの建物内にある大会議室。

そこに椅子が整然と並べられ、百人近くが座れるようになっていた。


説明会の時間が近づくにつれ、席が埋まっていく。

やがて、満席となった。

その様子を今回の企画で舵取りをしている者たちが、そわそわと見ている。


「大丈夫ですかねぇ」

「上手くいくといいんですが」


企画担当たちは、不安そうだ。

そのリーダーも内心は不安でいっぱいだった。

失敗したらどうしよう。

そんな気持ちはたしかにあった。

でも、成功するだろうという確信もあった。

少なくとも、集まっている冒険者たちの中には、こちらの世界の住民、現地民もいるが、転移者や転生者もそれなりの数いるのである。

今日、この説明会に出席していなくても、出席した者から話を聞けば絶対に食いつくに違いなかった。


「大丈夫大丈夫」


企画担当のリーダーは、不安を悟られないようそう声を出した。

この企画のために奮闘してくれた仲間たちは、実に素晴らしい仕事をしてくれた。

そして、説明会とはいえ、今日この日を迎えることができたのである。


「絶対、大丈夫だから」


出席した冒険者たちを見る。

なかには、有名配信者がいた。

説明会の様子は、ギルドの定点カメラでも生配信する。

しかし、冒険者たちへも配信を許可した。

一般人へ向けて発信しても良い、という許可である。

これは、冒険者向けの企画ではあるが、ほかのギルドや職人、そこを利用している者たちへも拡散されればいいな、という考えからだ。


「でも、この企画、真似されたらどうするんですか?」


企画担当者の一人は、仮に成功したとしてもこの企画のアイデアがパクられたらどうするのか、ということも心配していた。


「いいんだよ。

お祭り騒ぎで楽しければ。

皆がニコニコできる年末を迎えられれば、いくらでもアイデアなんてパクっていいよ。

まぁ、この企画自体、転移者たちの世界の企画からパクったんだから。

パクられても、別になんとも思わないよ」


リーダーの言葉に、べつの担当者が突っ込む。


「アイデアをパクっても、ここまで金をかけられるかって言われると疑問ですしねぇ。

というか、まず無理ですよ」


そう、今回の企画はとんでもない金がかかっていた。


「あ、開始しなきゃ」


時計を確認する。

すでに会場には、ギルドマスターと幹部もいた。

彼らの席は、一番前に用意され集まった冒険者たちの視線を一斉に受ける。


そうして、説明会がはじまった

説明会がはじまり、その企画内容が開示される。

ザワつきが戸惑いに変わっていく。


冒険者ギルドが年末のお祭り時期に開催する企画。

それは、異世界の日本という国ではお馴染みのものであった。


【福袋企画】


「ふくぶくろ?」

「なにそれ??」


現地民達が首を傾げる中、転移者と転生者たちは驚きを隠せなかった。


「え、まじ?」

「年始じゃないの?」

「年末に配るんだ」

「福袋の中身気になるー」


さまざまな、ざわめきが混ざり合う。

続いて現地民へ、福袋の説明がされた。

転移者、転生者にとっては当たり前すぎる説明であった。

文化的な説明は端折り、わかりやすい説明のみである。


「えーと、つまりお得なお買い物セット袋ってこと?」


なんだ、やっぱり消費期限ギリギリのポーションのたたき売りじゃないか、と現地民の冒険者たちはしょんぼりする。

たたき売りから、名前を変えただけじゃないか、と。


その反応は、予想されていた。

ここで、企画担当のリーダーが、福袋の内訳を説明する。


「それでは、福袋の種類について説明させて頂きます」


もう終わりだ、話を聞く価値もないし時間が勿体ない、と席を立ちかけていた冒険者達が動きを止めた。


種類?

たかだか、たたき売りで?


冒険者達へ、わかりやすいようにここで資料が配られる。

福袋の種類と内訳である。

資料が行き渡るあいだに、その内訳を巨大なポスターにしたものが張り出された。

動画を見ていた者たちも沸き立つ。


《え、マ??》

《これ、ま??》

《マジか?!》

《うっそやろ》

《!!??》

《?!》

《!?》

《!?》


冒険者ギルドの定点カメラで配信されている動画、そして配信者による動画それぞれが、感嘆符の弾幕でうまってしまう。


福袋の種類は全部で五種類。

その内容はこうなっていた。




〇【駆け出し向け】福袋 全50袋

・購入価格:銅貨10枚

☆下級ポーション×5(+5本)

☆マヒ消し×2

☆毒消し×2

(40袋用意)


※当たり

上記のものに加え

中級ポーション×2

(9袋用意)


※大当たり

上記のものに加え

上級ポーション×1

(1袋用意)



〇【中堅から上級者向け】福袋 全30袋

・購入価格:銀貨10枚

☆中級ポーション×5(+5本)

☆武器or防具交換券×1枚

☆錬金素材:スクロール用羊皮紙(魔術&錬金術兼用)×3


(20袋用意)


※当たり

上記のものに加え

中級ポーション×2

(9袋用意)


※大当たり

上記のものに加え

上級ポーション×1

(1袋用意)



〇【英雄福袋】(S&SSランク冒険者向け) 全10袋

・購入価格:金貨5枚

☆中級ポーション×10

☆上級ポーション×10

☆ハイランク武器or防具交換券×1枚

☆錬金素材:魔術専用&錬金術専用×2ずつ

☆錬金レア素材:オリハルコン

(9袋用意)


※大当たり

上記のものに加え

万能薬×1

(1袋用意)



〇【勇者福袋】(SSSランク冒険者向け) 全5袋

・購入価格:白金貨3枚

☆中級ポーション×20

☆上級ポーション×20

☆万能薬×1

(4袋用意)


※大当たり

上記のものに加え

エリクサー×1

(1袋用意)



〇【伝説級福袋】(SSSSSランク冒険者向け) 全3袋

・購入価格:白金貨25枚

伝説を冠する、武器職人ゲッコウ、錬金術師ボンバストゥス、魔術師マーリン

いずれかへのオーダーメイド券×1枚

(こちらの福袋のみ事前予約と前金が必要となります)


これらが発表されると、説明会場は歓喜というよりも戸惑いに包まれた。

盛り上がったのは、配信されていた各動画を視聴していた者たちである。

コメントが次々に書き込まれ、弾幕となった。


さて、参考までに貨幣価値みたいなものを一応説明しておくと。


クエストの相場として。

薬草集めの報酬、銅貨10枚。

スライム等、低ランクモンスター退治で銅貨20枚。

ゴブリンクラスのモンスター退治で銅貨50枚。


下級ポーションは銅貨3枚で一本購入できる。

HPの回復は、だいたい15~20。


銀貨に関しては。

銅貨100枚で銀貨1枚となる。

10枚あれば四人家族が1ヶ月生活できる。


クエストの相場として。

ゴブリンクラスのモンスターの巣や集落の討伐などで、銀貨2枚の報酬となる。


中級ポーションは、銀貨3枚で購入出来る。

HPの回復は、だいたい30~40。



金貨に関して。

銀貨100枚で金貨1枚となる。


クエストの相場として。

竜クラスのモンスター退治で、金貨10枚の報酬となる。

上級ポーションは、金貨1枚で購入できる。

HPの回復は、だいたい70~80。


白金貨に関して。

金貨100枚で白金貨1枚となる。

竜クラスのハイランクモンスターの群れ、もしくはスタンピード解決で白金貨10枚の報酬となる。


万能薬は白金貨1枚で購入できる。

使用効果は、HP全回復、MP30回復、状態異常全回復となる。


ちなみに、福袋に入っているエリクサーは白金貨5枚で購入できる。

使用効果は、瀕死状態からのHP全回復、MP全回復、状態異常全回復となっている。


福袋の中身は、ランクで差はあるものの、どれも破格であった。

価格設定も、【駆け出し向け】や【中堅~上級者向け】の福袋なら、各ランクの冒険者がちょっと頑張ってクエストで金策に走れば手に入れられるようになっている。

さらに、消費期限のことも説明があった。

ギリギリのたたき売りではなく、半年後期限のものを用意しているとのことだ。


冒険者ギルドが、お祭り騒ぎとして本気の企画を出てきた。

それが理解出来てしまった。


それ故、コメントもだが、掲示板の方でも大混乱が起きつつあった。

しかし、ギルド側の説明はさらに続く。


「では次に、購入時の注意点の説明をさせていただきます」


そう前置きをして、説明がはじまった。


「【駆け出し向け】福袋は、一人1袋まで。

【中堅から上級者向け】福袋は一人1袋、もしくは一パーティ1袋まで。

パーティを結成、加入されている方は代表者を決め、購入してください。

複数購入は厳禁となります。

発覚次第、厳しく処分をしますのであしからず」


そこで一呼吸おいて、さらに説明が続いた。


「【英雄福袋】、【勇者福袋】は、パーティ向けの福袋となっておりまして、個人での購入はできません。

そして、1パーティ1袋とさせていただきます。

さらに、どちらかを購入すると片方は購入出来ませんので、ご注意ください」


これには会場の冒険者も、視聴者も驚く。

ハイランクパーティならば、それぞれを買うことも可能だったからである。

だからこそ、どちらかしか購入できないという説明には首を傾げるしかなかった。


「あのぅ、確認なんですけど」


おそるおそるといった体で、手を挙げ質問する者がいた。

企画担当のリーダーは、快くその質問を受ける。


「【英雄福袋】を買った人は、【勇者福袋】を買えず、その逆も然り、ってことですか?」


「えぇ、そうです。

ただし、【駆け出し向け】と【中堅~上級者向け】をパーティのメンバーが購入していても、【英雄福袋】と【勇者福袋】が購入できない、ということは無いので安心ください」


「パーティメンバーが、【駆け出し向け】と【中堅~上級者向け】福袋を購入、所持していても、【英雄福袋】、もしくは【勇者福袋】は購入可能ということですね」


「ええ、そうです」


そうして、説明は次の注意点へうつる。


「最高ランク【伝説級福袋】に関しては、お配りした資料、そしてこちらのポスターにもあるように、事前予約が必要になります。

その際、前金のご準備をお願いします。

予約受付は冒険者ギルドのクエスト受注窓口となります。

ご予約の際は、受付のギルドスタッフに申し付けください。

予約締切はユール祭1週間前となりますので、こちらもご注意ください」


そこで、また一呼吸おく。

説明もラストスパートである。


「福袋の販売開始は、動画でも予告しています。

ユール祭当日です。

時間は、ここで告知させていただきます。

午前九時からの販売となります。

当日は、混雑がよそうされるので、混乱を避けるため受付窓口を別で設置します。

そちらにお並びいただくこととなりますので、ご理解ください。

お並びいただいた順に、福袋を販売、お渡しいたします」


ここで、リーダーはスっと目を細め、なんなら殺気ににたものを放つ。


「ただ、早い者勝ちだからと徹夜で冒険者ギルド前に並ばないようお願いいたします。

こちらも、見つけ次第、厳しい処分がありますのでご覚悟を」


徹夜組、ダメぜったい。

それを念押しされてしまった。


こうして、説明会は幕を閉じたのであった。

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