ep.23 魔倍石
翌日の放課後、ラズリス姉さん、トルビーと一緒にアンバー魔石店を訪れた。ちなみに校外調査許可の申請の合否は2日後にわかるそうだ。
「あ、ライムくん!」
リンさんが俺に気付いて話しかけてきた。
「遅くなりました……!」
「いえいえ〜」
と、リンさんは俺の隣の人物に目を向けると後ずさった。
「って、やっぱりラズリス魔導師?!(そんなすごい人に命令していたライムくん何者……)」
最後の方はあまり聞こえなかったがすごく驚いている。
姉さんは笑顔を見せている。
「ラズリスで大丈夫です!コハクくんは元気ですか?」
コハクくんはあの時、魔族に操られていた所を助けたワンちゃんだ。
「あぁ、あの後は問題なく!こんなに元気……ってコハク?!だめだめ威嚇しない!」
さっきまで店先で行儀よくおすわりしていたコハクくんが、柱にくくられたリードを切らんばかりの勢いで暴れて唸っていた。
その視線の先ではトルビーが怯えていた。
「えーっと……ごめんね」
トルビーは混乱しているのか謝っている。
「こら!ちょっといい加減落ち着いて……!」
リンさんが必死になだめているとコハクは急に落ち着きを取り戻し、なんならトルビーに甘え始めた。
どうしたんだコハク……
「……なんなのよあんた」
そう言ってリンさんも困惑している。
と、リンさんがトルビーの方を向いた。
「ところであなたは……」
そういえばリンさんとトルビーは初対面だ。
「はじめまして、ライムと一緒に中魔校に留学中のトルビーです」
「トルビーくん、よろしくね!」
と、リンさんは俺の方を見てニコッとしてから続けた。
「ライムくんにはコハクを助けてもらったのすごかったんだよ!暴れる……というか狂っちゃったコハクを傷つけることなく……」
そうそうと言って姉さんも話に加わる。
リンさんたちの話を興味津々で聞くトルビー。
リンさんも姉さんもそんなに褒めても何も出ないです……
「ライムの"書き換え"、強制力強いからね〜。尊敬です」
そう、トルビーが言った。
「ん?"書き換え"?」
ひっかかり、反射的に聞く。
俺、"書き換え"使ったなんて誰にも言ってない……
「ライムは魔法得意だからなぁ……すごいよねっ!」
「ホントに!やっぱり中央に留学してくるだけあるよね!トルビーくんもまさか強いの……?!」
トルビーは「僕はそんなに……」と謙遜していた。
「あ、そうだ、お礼!ちょっと待ってて!」
そう言ってリンさんは店の奥へ行ってしまった。
「よく"書き換え"使ったってわかったね」
俺的には割と頭を捻って出した答えだったんだけど……
「ライムのことだし、コハクくんは"使役"されていると考えて、魔力糸を切るために"書き換え"を使うかなと思って……」
「さすがだな……あの場にいたのかと思ったよ」
「そんなわけないだろ〜、家でダラダラしてたわ」
そう言いながらすっかり大人しくなったコハクを撫でるトルビーを見ながら、"書き換え"を使った"使役"の解除を見破られたことの悔しさに浸っていた。
そんなことをしているとリンさんが戻ってきた。
「お待たせしました〜!これ、握ってみてくれる?」
俺はリンさんに渡された石英のような丸い小さな石を言われた通りに握った。
刹那、指の間から強い黄色い光が溢れた。
バリン!と大きな音が響く。
俺が手を開くとべっこう飴のようなキレイな欠片がいくつかぽろぽろと地面に落ちた。
リンさんが困惑した表情を浮かべながら何か言っている。
「割れ……た……?(個性魔法のおかげで魔法が使えるのかと思ったけど、魔力量が多すぎる……?いや、でもやっぱ魔力少ない……)」
しかし、周りの人々のざわめきでかき消されてよく聞こえなかった。
「何事だ?リン」
音を聞いてか、店の奥からいかにも魔道具職人といったエプロンをしたガタイの良いおじさんが出てきた。顔がどことなくリンさんと似ている。お父さんかな?
「魔倍石が割れた……」
リンさんがそう言うとおじさんは地面に落ちた欠片をちりとりであつめながらこう言った。
「君がライムくんか。リンが世話になった。店主のレイザル・アンバーだ」
リンさんが「父です」と付け加える。
やっぱり。似てるもん、目元とか。
「それにしても……」
そう言ってレイザルさんは俺の肩に手を置いた。
「魔力量1?!これで魔倍石を割った?!何事だ……?」
「1?!……って1分の1じゃん、満タンなんだ……」
レイザルさんに続いてリンさんも驚いている。よく分からないが大変なことが起きているらしい。
レイザルさんは咳払いをしてからこう言った。
「取り乱してすまない。リン、説明を」
はい、と言ってからリンさんが話し始める。
「まず、さっきライムくんに渡したのは魔倍石って言ってね、身につけると魔力量が倍になるの。石と魔力が共鳴しないと動作しないんだけど、さっきのは使用者の魔力に合わせて性質が変化するやつで、一応最高級の……」
「そんなの割っちゃったんですか?!弁償……ですか?」
俺の小遣いで払える金額だろうか……
リンさんは焦って言葉を返してくる。
「いやいや!こちらからお礼でお渡しする予定だったから、大丈夫!……で、魔倍石が割れる原因は主に2つで、あまりにも相性が悪い場合と、注がれた魔力が多すぎる場合。さっきの魔倍石には相性の善し悪しは無いから、魔力が多すぎるから割れたことになるんだけど……父や私が"鑑定"を使って視たところ、ライムくんの魔力量は1。最低値です」
えぇ……そんなになかったんだ、魔力。まさかそこまでないとは……
「そして「魔力のう」って魔力を貯めておく場所が体にあるんだけど、ライムくんはそこの最大貯蔵量も1です」
「鍛えられないってことだ」
レイザルさんに追い打ちをかけられた。
少し心に刺さった。
「いや、そうじゃなくて……ライムくん、魔法を出すのに困ることはきっとほとんどないと思うんだけど……」
リンさんがレイザルさんの言葉を否定する。
と、またレイザルさんが俺の肩に手を置いた。
「うっ……」
途端に視界が歪んだ。
口を押さえながらその場に座り込む俺に駆け寄りながらリンさんが言う。
「何もほんとにやらなくても……ごめんね」
酔ったのかこれ……うぇ、気持ち悪い……
「ちょっといいですか?」
そう言ってトルビーは俺の前にしゃがむと手を取って目をつぶった。
「あれ……?治った」
「良かった〜。父がすいません……今の、"吸魔"だね?」
トルビーが頷く。
リンさんはレイザルさんを睨んでから続けた。
「今父がやったように、ライムくんは魔力を注がれる事にすこぶる弱いと思うの」
確かにそうだ。俺はすぐ魔力酔いを起こす。
と、レイザルさんが付け加えた。
「魔力酔いってやつだな。魔力のうのキャパを超える魔力を体が持つと、乗り物酔いのような症状が出る。普通の人は通常時、魔力のうの最大貯蔵量の4分の一程度しか魔力を持っていないから、「自分の魔力量の3倍以上の魔力を浴びるとなる」とも言われるな」
そういえば先生もそんなこと言ってたな。
「ライムくん、明日、また来てくれる?今度はちゃんと、お礼の品を用意しますっ」
ということでアンバー魔石店を後にしようとしたところ……
「2人は先に帰ってて。私、用があるからさ」
姉さんにそう言われ、俺たちはアンバー魔石店を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます