ep.10 中央魔法学校
ゼシューと別れたあと、日も暮れてきていたのでキッテスの宿に泊まることにした。
俺はベットで、手に入れた魔術書を読んでいる。
気になったことがあり、声を漏らすとラズリス姉さんがどした?と聞いてきた。
「"呪言"って、心理魔法なんですね」
心理魔法、正しくは心理属性魔法。
自分の魔力に術式を付与して相手に送ることで様々な効果をもたらす魔法だ。
例えばあの時コハクがかけられていたのは"使役"。対象に術式を書き込み、魔力の糸で繋げることで命令をする魔法だ。
これは相手の意思が強いと上手くいかない。要するに知能の高い動物にはかけにくいのだ。
いちばん難しいとされるのは人間で、相手が受け入れない限りはほとんど無理だ。
犬も知能が高いほうの動物なので、あの時の吸血種はかなり魔法が上手いと考えられる。
話を戻すが、心理魔法は自分の魔力を媒体とする。つまり魔力がない俺には媒体がないため使えないのだ。
姉さんももちろん知っているようで同情してくれている。
悔しいけどこれは多分どうにもならないな……
「って、俺"付与"やりましたよね?」
「確かに……他の心理魔法もできるんじゃない?」
心理魔法では無いが、"付与"も自分の魔力を媒体として術式を書き込む魔法だ。
姉さんのほうきに付与できたという事は何らかの理由で媒体となる魔力を捻出できたということだ。
「やってみていいですか?」
姉さんの許可を得て"使役"を唱える。
「"飛べ"」
俺がそう言うと姉さんがぴょんっとジャンプした。
「「おおー!」」
2人で歓声を上げる。
「なんでできるかわかんないけどできました!」
「よかったね!……あ、悪用しないんだよ?」
「……え?する訳ないですけど……」
俺は"使役"を解いた。
「(強制力強すぎないか……?やばいなあれ……)」
「何か言いました?」
俺が聞くと、姉さんはなんだか慌てた様子で否定された。
「……あ、そういえばトルビーは?」
いつの間にかいなくなっている。
「あぁ、ちょっと散歩してくるってさ」
へぇ、そんな趣味あったんだ……なんか、意外な一面を知ったな。
俺はまた読書を始める。
しばらくして寝落ちしてしまった。
△▼△
物音で起きるといつの間にか朝になっていた。
「おはよー」
姉さんは既に起きていて準備をしていたようだ。
トルビーは俺の隣のベットで寝ている。
「おはようございます」
それからさくっと朝ごはんを済ませ、俺たちは中央へ向かった。
しばらく歩くと関所が見えてきた。
俺たちはとくに問題もなく通過し……と言いたいところだが、トルビーが少し手間取っていた。
学生証があれば通れるのだが、家に忘れたらしい。
まったく、大事なものを忘れたな……
何とか姉さんの「魔導師」という立場を利用して入れてもらったが、入れて貰えなかったら、また長いこと歩く羽目になっただろう。
良かった……
とりあえず何とか中央につき、初めに向かったのは中央魔法学校だ。
予定より少し遅れた昼過ぎ、時間割的には昼休みの終わりごろに到着した。
校舎はマギアータの学校と同じくらいの大きさで、木造の温かさを感じさせる造りだった。
受付に行き、俺とトルビーは留学許可書を提出した。
受付の優しそうなお兄さんが言う。
「ライム君とトルビー君。君らは1Bの教室だよ。ラズリスさん、案内してあげてください」
「はーい、先生」
あ、このお兄さんも先生だったんだ。
俺たちは教室へ向かいつつ姉さんの話を聞いていた。
「ここはブライヤ全土からエリートが集められた学校で、1学年は定員10人のクラスが2つしかないんだよ」
それってすごいな……
驚いていると教室に着いた。
姉さんとはお別れし、2人で教室に入る。
B組には既に8人が在籍していた。
俺たちは担任のテケン先生に軽く紹介され、5限は交流時間にしてくれた。
みんな国の南から北から集まっていて、地元の話をしたり、魔法の話をしたりで盛り上がった。
そして……
「ライムくんって、魔力すごく少ないよね?」
ついにそう聞かれてしまった。
あぁ、やっぱ気付かれたか……魔法エリート様が気付ないわけないよなぁ。
魔導書を見せるにもあの時助けたコハクの飼い主、リンさんに言われたことが気がかりだし……
俺が悩んでいるとトルビーが口を開いた。
「ライムは魔力制御が得意なんだよ。それを伸ばすために常に発動させて鍛えるように先生に言われてるんだ」
魔力制御……よくそんなん思いつくなぁ……
みんなはトルビーの話を信じたようで感心している。
魔力制御って、ルコール先生とかがやってるやつだよな……結構難易度が高いらしい。
魔力がないのに魔法が使えちゃう不思議人物なのは隠せるけど、魔法めっちゃ上手いことにならないか、これ。
トルビーが感謝しろよとでも言いたげにこちらを見ていたので会釈しておいた。
6限は魔法科の座学だった。
今日は俺たちの初授業ということで基本4属性の応用魔法をやった。
ここまでは自分で勉強していたので余裕だ。
トルビーはというと……
「待って?何言ってるかさっぱり……」
頭がパンクしていた。
まぁこの範囲、応用も応用だもんな。
授業後に先生に事情を話すと特別に課外をやってくれた。基礎なんて俺もだいぶ前の記憶だから復習できてよかった。
クラスのみんなより遅い帰宅……と言っても宿に帰るのだが、校舎を出ると姉さんが待っていた。
「おつかれー!どうだった?」
「楽しかったです!」
教室に入る前はドキドキだったが、クラスメイトも先生もみんないい人たちで、授業も楽しかった。
「トルビーは……」
姉さんがなんとか立っているようなトルビーをみて何かを察したようだ。
「座学だったんだね……お疲れ様」
トルビーうなだれたままペコッとした……ような気がした。
その後俺たちはとりあえず宿をとった。
一旦宿を出ると、姉さんが手を叩いて続けた。
「さて、本題に行こうか」
本題……?
少し歩き、着いたのは中央図書館だった。
姉さんが扉を開けようとすると、トルビーが急に踵を返した。
「僕、眠いんで先帰ってます……」
元気がないというよりなにやら都合が悪そうにしている。
すると姉さんはトルビーの手を取った。
「そう言わず!」
そう言いながら無理やり図書館に連れ込んだ。
「やばっ!(……て、大丈夫だ……?僕、なんで……)」
トルビー、なんか慌ててる?なにやら小声で言っているが聞こえない。
と姉さんがトルビーにどした?と問いかけるとやはり慌てた様子でなんでもないです、と返していた。
何をそんなに焦っていたのだろうか。
そんなこんなで結局トルビーも一緒に図書館の最奥に来た。
姉さんがなにやら唱えると、淡い光の玉が壁に当たり、パッと弾けた。
一瞬視界が暗転する。
だんだん戻る視界に見えてきたのはさっきまでいた場所ではなかった。
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