【短編】定時間際の事務所で残業が楽しくないと言われた先輩が後輩に楽しい仕事もある事を教える話
直三二郭
前編 なぜ彼は残業をする事になったのか?
残業が嫌?
まだ二年目の新人なら、まあそう言う奴は多いだろうな。でもな、楽しい残業だってやつもあるんだよ。
……嘘じゃないって、実際に俺の残業であったんだから、楽しい残業。
じゃあ教えてやろう。今から言うのは、そうだな……、三ヵ月に一回はやりたい残業だな。
しかも深夜残業だ、ただの残業代より金額が多い。
……うちの会社はブラック企業じゃぁないぞ。こんな事はめったに無かったし、残業代だってちゃんと出るからな。
大体ブラック企業っていいのは極端な話、社員の健康を考えない極度の残業をさせて、残業代は出ない。そんな会社の事を言うんだろ?
普通に働いていれば残業をしなければならない日もあるし、昔は残業代を目当てに残業をする奴だっていた。……まぁ、今も居るんだろうけどな。
で、本当に楽しい残業だってあるんだよ。……信じられないって?
まあいいさ、どうせお前じゃぁまだ無理だからな。何しろ俺一人での残業の話だ、お前はまだ一人じゃぁ何もできないな。現にこうして、今も俺がついているんだし。
……まぁお前なら、楽しい残業に一緒に連れて行っても……、やっぱだめだ。この残業はな、一人が良いんだよ。一人で、自由に、好き勝手にできるんだからな。それにお前が一緒なら奢る羽目になりそうだ。
で、あの時の話だ。あの日は事務所に部長と俺の二人だけだった。俺は事務所で予定が空いて暇になっているのを悟られまいと、必死で希望日は一ヵ月先の見積書を作っていた時だったな。
当然だが気分は乗らない、定時になるのがもうすぐの、眠気と必死で戦っていた特だ。だからなのか自分で作っては自分で書き直すを何度も繰り返して、見積書を送ったのは結局一昨日だった。
そんな時に、会社の電話が鳴ったんだ。今時会社の電話に掛けるなんて、相当珍しいよな。みんな仕事用に一台携帯を貰っているんだから。
だから俺は取引の無いどこかの営業か、間違い電話と思いながら受話器を取った。言ったろ、部長と俺しかいないんだ、俺が取るしかない。
意外な事に電話をして来たのは、知り合いだった。先に言っておくと、残業の原因はこれだ。
声を聴いて、何でこいつはこんな時間に電話したんだよ、明日にしろバカ野郎。と思っていたが声には出さず、俺はさわやかな声で挨拶から始めようとしたんだが、あいつはそうしなかった。
俺が挨拶をしている最中に遮ってこう言ったんだ。
やばい、助けてくれ、ヘルプミー、ってな。
……まぁ、実際に言ったかどうかはどうでもいいんだよ。つまり、助けを求めたわけだ、会社に。
簡単に言うと、日付の勘違い。今日必要はずだった物を、来週で注文してた。……お前も気を付けろよ、納期は。
で、この時に言われた商品は、つまり来週発送予定のはずだった物は、もうできていたんだよ。何か知らないが全ても工程が、外注も含めて噛み合ってな、全部の工程で一日づつ前倒しになった結果、一週間前に完成してしまったんだよ。
だから逆に早すぎてどうしようかと思ってたから、早く発送できそうで良かったと思っていたんだけどな。
次にこう言われたんだ。今日中に必要だから、持って来てくれ。と。
これには俺も苦笑い。もう定時近くで、つまり俺がもうすぐ帰れるはずの時間だ。それなのに今から持って行ったら往復六時間近くかかる。うちの会社、高速道路と離れてて、乗るのにまず一時間近くかかるからな。
一週間予定を間違えたから、ここで物が無いって言っても良かったんだよ。でももうあるし、じゃあどうすればいいのかと言われても面倒だし、悪い人じゃないし、何より向こうは客だからな。
だから俺はこう言ったんだ。物はありますけど今から持って行くとなると、結構な額の特別料金が発生するかもしれません、ってな。
あくまで相手のミスだからな。俺は悪くないって言うのをはっきりとさせて、相手が諦めるように仕向けるんだ。それに実際、高速代に残業代に人件費に色々とかかるしな。
で、次に言ったのが、明日発想て明後日につくか、こちらに取りに来てもらえるなら大丈夫です、と。
今日取りに来てもらうなら、それでもいいからな。この辺りならサービスだな、付き合いは結構ある人だし。
でもそいつは俺の言葉を聞くなりな、相手が変わったんだよ。しかも相手が向こうの総括部長。後で聞いたんだけど、それほど切羽詰まってたらしい。
俺はそんな人と会った事も無い。
こうなったらもう俺は何も言わない方がいい。いいか、覚えておけ。自分には荷が重いと思ったら全てを曖昧にして、上司へ放り投げろ。もし上司が受け取らなかったら、遠慮無くその上にだ。相手にはっきりと言ってしまったら、その瞬間に責任は全部お前の物になるからな。
だから俺も投げた、目の前の部長に。
慌てて上司に替わると言って、部長に簡単に説明したら、もう電話はして相手が待っていると言って、無理やり電話を取らせてた。
そしてその瞬間は、もうすぐ定時だ、逃げ切った。そう思ったんだ。
まぁ、電話が終わったら俺が持って行く事になってたんだけどな。
向こうの総括部長は、全部こっちの言い値でいい、だから早く持って来てくれ。部長はそう言われたんだってよ。
で、全部把握しているのが俺しかいないから、つまり持って行けるのが俺しかいないわけだ。
俺が準備している間に部長が社用車を持って来て、二人で車に乗せて、なのに行くのは俺一人で、残業への旅立ちだ。
……そうだよ、部長と一緒に積み込んだよ。他に呼ぶ暇がなかったぐらいに急いでたんだよ。
まるで測ったかのように、俺が会社を出るのと就業のチャイムが鳴るのが同時だったなぁ。
【短編】定時間際の事務所で残業が楽しくないと言われた先輩が後輩に楽しい仕事もある事を教える話 直三二郭 @2kaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【短編】定時間際の事務所で残業が楽しくないと言われた先輩が後輩に楽しい仕事もある事を教える話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます