第1話 誰かの不倫

不倫…人が踏み行うべき道からはずれること。特に、配偶者でない者との男女関係。


「タレントの青柳文敏さんが、一般女性と不倫関係にあることが週刊ホープの取材で判明しました」今日も、TVやネットではタレントの不倫の話題で持ちきりだった。


不倫をした青柳というタレントは、帯番組をいくつか持っておりTVでは引っ張りだこの人気者だった。


(もうすぐ昼の休憩が終わる…なんで他人の不貞話にそれほどまでに反応し興味をもつのだろうか…。)坂下七海は、うんざりしながらスマホの画面を閉じ午後の業務に戻った。



業務に戻りながらも、ふと頭の中で先ほどのネットニュースを思い出す。


(不倫なんて代償が大きすぎるのになんでするのだろう……。知名度があればあるほど失う物は大きいのに馬鹿なことをしたな。……そもそも不倫ってなんだろう。恋人同士だったら浮気で済まされるのに、不倫になると社会的責任が多くなるのはなんだろう。そして、周りはなぜ男女の肉体関係があった以外の背景を知らない第三者なのにこんなにも非難するのだろうか……。)


七海は噂話や人の恋愛に興味が全くなかった。

色恋沙汰に限らずメディアで流される一部の情報のみで判断をするのは、時に誤認の可能性もあり危険だと思っていたからだ。



政治や経済にしても日ごろから一社ではなく複数社。そしてロイターやブルムバーグなど海外からの情報も目にするようにしていた。

見る人・書く人の視点や思惑が違えば、同じ内容でも全く違う記事になる。



SNSで個人でも情報発信を容易にできるようになった今、引用元のない記事やどこからの情報なのか分からない記事は出来るだけ遮断している。



知人の証言も引用元が分からないので聞き流す。もっとも、この手の証言者が特定されてしまったら、告発者のプライバシーの保護も企業の場合は不正の内部告発も出てこなくなるので発表しないのは正しいと思う。


男女の恋愛関係や共演者の不仲説は視聴者側では分からないことが多い。特に男女関係は複雑に絡み合っていることもあるため、その手の話題には興味がなかった。




七海は、大学卒業後に入社した会社で総務を担当している。

入社した時は経理部に配属をされたが9年前に結婚。入籍と挙式を終えてしばらくすると子どもを授かり育児休暇を取得。子どもを保育園に預け復帰の報告をした際に今の総務部への異動を告げられた。



経理部は企業の決算書を作る関係で業務の波がある。決算月以外は比較的落ち着いているのだが、決算月、特に年度末の決算ともなると残業を避けられない。毎日終電まで残り、それでも終わらず休日出勤をすることも当たり前だった。



4歳年上の夫の春樹は医師で夜勤でいないことや土日も当直で仕事のことが多く、育児への協力は難しい。必然的に七海が家事・育児をすべて担うしかなかった。


「坂下さん、ご両親と同居しているわけでもないし育児を頼れる人いないでしょ。今までの部門だとどうしても時期によって帰りが遅くなることも多いし、生活に支障が出て厳しいと思うんだ。総務部なら人が多いし残業の少ない部門だから小さいお子さんがいても働きやすいと思うんだよね」


七海の状況を配慮している穏やかな口調だったが、会社としても繁忙期でも働ける人材が欲しいという思惑もひしひしと伝わって来る。結局、「分かりました」と答えるしかなかった。



最初は一から覚えるため戸惑ったが、役割分担が決まっており自分の担当以外は覚える必要がない。以前の経理の時のように法令が変わることで処理の仕方が変更になることもなく常に新しい知識の吸収も必要ない。複数人で担当しており、急な休みにも対応できて有給も取得しやすい環境だった。上司が言っていたように、子育てをする身としてはありがたかった。



復帰をして1年後に二人目を授かった。上の子は男の子で海斗。下の子は女の子で陽菜(ひな)と名付けた。海斗は、引っ込み思案なところもあるが心優しい子だ。1歳の頃から保育園に預けていたこともあり、小さい子が好きで妹の陽菜がおなかにいる時からとても可愛がってくれた。


当時、パイナップルが好きだったことからおなかの子をパインちゃんと呼び、お菓子を貰うと「これ、パインちゃんの分のおやつだよ。一緒に食べよう」と服をめくりおなかに押し込む。「おなかからは食べられないから、ママがもらうね」と言い海斗がくれたおかしが陽菜に届きますように。と願いながら食べた。


陽菜は、好奇心旺盛で兄の海斗の真似をしたがった。2歳年が離れているので上手くできないことも多いが諦めずに失敗しても太陽のようにキラキラとした笑顔で「しっぱいしちゃったーもういっかい」という姿が可愛い。



海斗と陽菜は私たち夫婦の宝物だ。

以前のような仕事への充実感はないが、まだ自分のことを一人では出来ない時期の今は子ども中心の生活は致し方ない。春樹は仕事に必死で育児にまで手が回らないから私が頑張らないと。私が家庭を守らないと。七海は、家庭を守ることが今の自分の役目だと感じていた。



家族の変化が起こったのは陽菜が保育園に入園し、2回目の育児休暇から復帰してすぐのことだった。


「今日、院長に呼ばれて4月から県外の医局に異動になった」

帰宅後、春樹からそう告げられた。今のポストよりも上がる栄転らしい。


「…そうなの。今からだと4月の入園に間に合うかしら…。役所に相談しなきゃ。仕事もその地域だと通うのは難しいから上司に相談して…あと住むところも探さないとね」



「そのことなんだけれど…今回は一人で行こうと思っているんだ」

「え…。」

七海は最初、何を言われているのか分からなかった。

「結婚前にも話したけれど、子どもに転校・転園はさせたくないんだ。その気持ちは今も変わらない。だからここで子どもたちのことを任せるよ」






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