STELLA MAGICA -ステラ・マジカ-

橋ノ町 たなみ

第1話 リスタート





STELLA MAGICA ―ステラ・マジカー

橋ノ町 たなみ


【プロローグ】 夢見た光景


―じゃ、いってくるね―

・・・私の…声?ここはどこだろ…。あたり一面霧だらけでよく見えない。

あれは何だろう。化け物のような形をした影が三体・・・と目の前にいるのは・・私?

わからない。今、何が起きているのか。それどころか自分の意識も思考さえもはっきりとしない。そういや昨日、遅くまで本読んでいたからなあ。眠たい。少しだけ目を瞑ったつもりだった。

気が付けば目の前が黒一色に染まり、次に目を開いたのは自分のベッドの上であった。


【第一話】

アラームのベルが、私の安息の時間に終わりを告げる。けたたましく鳴り響くそれに手を差し伸べ、洗面所へと向かった。洗顔と歯磨きをしてリビングへ向かうと母がテレビを見ながら話しかけてきた。

「来夢、あんたも高校生ならニュースくらい見ておきなさい」

視線をテレビへとやる。眼鏡をかけた中年ぐらいのキャスターが優しく、しかしはっきりとした息遣いでこちらへ語り掛けてきた。

「大王陛下の生前退位の命を受け、新たに新和大王国の大王として葉月王太子殿下が即位される運びとなり・・」とテレビ画面から聞こえてきたため、母に愚痴を言った。

「・・・朝から政治の話?気が滅入るんだけど。」

母がため息をつきながら、リモコンのチャンネルボタンをタッチした。

「こっちのチャンネルにしましたよ、来夢さん。」

冗談交じりのセリフを母が吐き、私はどうも、とだけ返してテーブルの朝食を平らげた。

家を出た後、少し急ぎ早に学校へと足を進める。なぜならば今日は年に一度、3月の期末試験後に行われる「能力査定検査」の日だから。この検査では自分の持つ能力「マジア」が「普通=C」「優秀=B」「危険=A」の三段階で査定される。C判定は無論一般人、B判定なら通常のスポーツや学業などで活躍できるレベルだ。問題はA判定。これが出てきた生徒はどこに住んでいようと政府が定める実験都市・真坂市のどこかの学校に転入する必要がある。それだけは何としても避けたい…。新和の首都・洛都に生まれて16年。旅行は好きだが、行ったこともない土地にマジアの能力が落ち着く20歳ごろまで住むとなると話は変わってくる。絶対にこれだけは回避したい。

「まぁ、わたしのマジアなら危険扱いされることもないでしょ」始業時刻まであと5分の所で自分の能力・瞬間移動を使い、門の前に辿り着いた。


学校に着くや否や、更衣室に移動して体操着に着替えていく。そして体育館に移動し、自分の検査の順番を待つことにした。

「ねぇ来夢、あんたの能力って大丈夫なの?ぎりA判定じゃないの?」

そう話しかけてきたのは一年のころからのクラスメイト出灰柚木だ。いかにも女子高生らしい姿をした彼女は、続けてこう言った。

「なんとかB判定なるように頑張ってね!終わったらツキバのバッカフェ行くんだから」

人ごみで全く進めない月葉に行くだけでも疲れるが、その上流行のカフェに行こうと言うから大変だ。今日は日が沈むまで帰れそうにないな・・・。なんて思ってみたりするが口には出さないでおこう。いっても聞かない。この娘は特に。とりあえずさっきの返答だけ返すことにした。

「大丈夫でしょ、アスリートにはなれるかもだけど、危険人物なんてそうそうなれるもんじゃないから」

それもそっか、と柚木は返す。

「でもやっぱ便利だよねぇ、瞬間移動能力。私なんて本が少し早く読めるだけの万年C判定だし。あんたのそれがあれば陸上で世界一になれるのに」

「いや、反則でしょそれ」と返すとまたそれもそっかと笑う。

そうこうやり取りしているうちに私の番が来た。華の高校生活を賭けた勝負が始まる。検査官に早く、と手で催促され検査用のカプセルに入り込んだ。


結論から言おう。私の負けであったと。カプセルに入って一分ほどでドアを開けられ、検査官から「結果が出ました、Aです。A判定です」と通達された。

「来夢、あんたやっぱAじゃん!」と柚木。

「てことは、新学期までに行く学校を選ばなきゃいけないわけでしょ?」

そう。真坂市にあるいずれかの学校に転入すること、通える範囲に引っ越ししなければいけないと、検査終了時にアナウンスされた。

「ちなみに、いつから・・・?」

「検査官からは直ちに、遅滞なくとだけ」

「そっか、じゃあ二人でバッカフェ厳しいよね・・・。今後ずっと・・・。」

顔には出していないが、柚木のその口ぶりはかなり落胆しているように見えた。

「いや、行こ。今日行かなきゃ。」

「え、でも引っ越しの準備は?大丈夫?」

不安そうにこちらを一瞥する柚木。

「何とかなるでしょ。最悪荷物持って瞬間移動すればいいわけだし・・・」

そう答えると、不安が一気に消し飛んだような顔で柚木が提案を続けた。

「そっか、じゃあ授業もないことだし、今から行きましょっか、ツキバ!」

「うん、もちろん!」


そうして私たちの最寄・長者町駅から洛鉄電車に乗って夜神駅で乗り換え合計15分、月葉に到着した。

洛都の中でも特に栄えているこの街は、若者の街と呼ばれお洒落な店や、サブカルチャーの店が軒を連ねる。駅前広場にそびえたつ新和王国初代大王・バンテイ大王の銅像は各地から大勢の人が訪れる観光スポットであり、私たちの待ち合わせスポットでもある。洛都の都心から少し離れた住宅街に住んでいる私たちにとってはここが一番の遊び場でもあった。


並ぶこと30分、目的地のバッカフェに着いた私たちは歩行路側のテラス席に陣取り、私は注文したアイスティーをぐっと飲みこんだ。

「それでさ、どうするのさ」

何が?と理解不能です、の顔で柚木を見る。

「だから来夢の能力の名前だよ。A判定の人は何かしら名乗っているんでしょ」

「それはそうだけど、今決めても・・・」

と言い終わらないうちに柚木が畳みかける。

「いやいや、能力自体何なのか分からずに行っちゃった、エリナが言うならわかるけど!あんたもう分かってるじゃん!」

そういえば、と思い出す。1年前、私の幼馴染で柚木とも仲の良かった九条エリナ・アレクサンドレヴィチは「能力が発現していない」にも関わらず、A判定を下され、高校生活のすべてを真坂で送ることが決まった。

「あれずっと謎なんだよね、エリナ自身得意なものも無かったし。誤作動?」

私のこの問いに柚木は全力でスルーを決めた。

「話そらさないでよ、で何にする?あれだったら私の本から命名する?」

そういうと人を殴れば一発で気絶させられるほど分厚いスクールカバンの中から一冊の本を取り出してさらに続けた。

「これは100年前の伝説の能力研究家にして(マジア)の名づけ親セシル・ナダールの遺作よ!」

また柚木の歴女語りが始まった。こうなると手に負えない。

「その昔はるか遠い地球の裏側から、マジア能力者の多い東洋に渡ってきた伝説中の伝説。その半生を綴った一作で・・・」

おなかがいっぱいなので、そろそろやめさせる。

「で、この本がなに?これのタイトルを私につけるってこと」

答えるや否や、正解ですと言わんばかりに人差し指をこちらに向けてくる。

「ほら、瞬間移動ってそのまま漢字で書くとださいし、ワープとかありきたりじゃん?だから少しだけ詩的要素も兼ねて…」

聞き終わるより先に、柚木の手元にあるその本のタイトルをもう一度読む。

「ん、あぁこれの意味?それは・・・」

それを聞き、いい名前だと思い自身の能力をそう呼ぶことにした。

「じゃ、面接の練習でもするか。高校変わるならいるでしょ、面接。」

「うん、そうだね。」

柚木を面接官に見立て、自己紹介から始める。

「宇多野来夢。16歳。趣味は旅行です。そして・・・」

「私のマジアは移動に特化した能力!トゥリスタ―旅人―です!」


月葉で散々楽しんだ後、家に帰ってすぐ母に報告した。急いで一人暮らしの家を決める必要があること、荷造りが必要なこと、そして何よりも・・・。

「行く学校どうしようか?真坂市内なら公立私学合わせて8校あるけど・・・」

「いや、9でしょ、私調べたし。お母さんの情報昔で止まってるんじゃないの」

といったところで、母が反論してきた。

「いやいや、何をおっしゃるのですか。来夢さん。うち一校は王立校でしょ。あなたが入れる学校じゃないから行けるのは8校よ」

それを言われると言い返せない。受験前の中学生ならともかく、試験もやってレベルも分かっている高校生にその論法はきつい。

「わかったから、うるさい。で、私は別に王立じゃなくてこっちに入ろうとしてるんだけど!」

さっきの論破でたまったストレス君が少し私の口調から漏れてきた。

「ここ、いいじゃない。女学校だから変な男もいないし。何よりあのエリナちゃんと同じじゃない。」

えっへん、そうですよと目で母に訴えかける。

「あと必要なのは・・・そうねぇ、やる気?」

はぁ、そうですかと生返事を返す私に母は続けた。

「これから数年間、使えなくなるまでマジアと向き合っていくのよ?なにか一つ目標立てたほうが暇にならなくていいんじゃないの?」

「例えば、年に一回行われる魔道大戦に出て優勝するとか、あるいは陸上の新和代表としてでるとか・・・」

夢想を膨らませる母にこう返答した。

「いや、そこまで深くは考えていないけど・・・。ただせっかく持った能力だし誰かを救える能力にしたいな、とは思うよ。」

そう答えると、母はすごく感銘を受けたかのような顔でこちらを凝視していた。

「母感激!それでこそ宇多野家の娘!」

抱きつく母を振りほどき、ネットで住居探しを完了させて眠りについた。


「忘れ物はない?チケットは?大丈夫?」

それから三日後、準備を終えて靴を履き終えたた頃、母がやってきた。

母の心配そうな顔に対して少し笑いながら

「それを言うならあと2~3歩手前でしょ、もう玄関だよ。」

「それもそうね、でもほんとに気を付けてね?いつもの一人旅とは訳が違うのよ?」

「大丈夫。わたし、ちゃんと帰ってくるから。」

そう答え、母の安堵する姿を両目に収め、いつもの挨拶で締めくくった。

「じゃ、いってくるね」

【第一話】 リスタート

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