第6話開拓の交渉
そろそろアンス村だ。村の中に入る前にシュートに話しておかなければいけないことがある。
というのも、私は先日まで3年間もアンス村の森の開拓を行ってきた。私だとバレてはいないが、誰かが森で何かをやっていたということは村の連中もわかっている。ここで「村の開拓」なんて話になれば「犯人はお前だ!」ということになりかねない。
だから、開拓のリーダーはシュートということにする必要がある。そうすれば、今までのことはシュートがやったことと言うことで丸く収まる。
「え!? シュートさん、そんなことやってたんですか? ・・・・・尊敬してたのに。」
(軽蔑される男剣士、白い目で見るムスイとサクヤのイメージ)
うむ、これだ! これで万事解決だ! この作戦ならうまくいく!
ニヤニヤ笑みを浮かべながら悪だくみをするムスイ。シュートとサクヤは白い目で見ている。
「それじゃー、村に入る前にこの企画書をみてくれ」
「これは?」
「これからアンス村をどのように開拓していくかを細かく書いている。そんなに難しい内容では無いから頭に入れておいてくれ。」
「わかった。」
「それと、今回の開拓のリーダーはシュートということにするので、そのつもりで」
「・・・・・え? 俺? なんで?」
シュートは眼を丸くして驚いている。当然だ。
「シュートくん、君のいでたちはなかなか立派だ。この3人を見れば、村の人たちも立派な君がリーダーだろうと判断するはずだ。私などどうみても雑用担当にしか見えない。雑用がリーダーシップをとるだなんてありえない。村の方々に不信感を与えてしまう。シュートをリーダーとしておけば、村の方々も安心する。わかるね?」
「し、しかし・・・・・」
「大丈夫大丈夫。俺は偉い! お辞儀をしろ! みたいな勢いで構えていればいい。わからないことは私がフォローを入れるし。心配することなど何もない。」
「そ、そうか・・・・・」
シュートはかなり不安がっているが、ムスイは強引に押し切った。
「俺は偉い! お辞儀をしろ!」
サクヤは黙ってなさい。
「よし! では村に入るぞ!」
いよいよ、モコモコに会える! 私の心は高鳴った。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
夕方前のこの時間、村長は畑にいるはずだ。村長は・・・・・いた。
「よし、今から村長に話しかけるから、作戦通りうまくやってくれ」
「わ・・・・・わかった。」
シュートはかなり緊張している。私がうまくやるしかない。
「こんにちは、村長、お話があります。」
「ん? 君たちは一体誰かね?」
「私たちは冒険者をやりながら、村の開拓のお手伝いしている者です。私の名前がムスイ。こちらがリーダーのシュートさんで、隣にいるのがサクヤ。よければこの村の開拓のお手伝いさせていただけないかと思いまして、ここに参りました。」
「開拓・・・・・」
村長には思うところがあるらしい。当然だ。
「私たちのリーダーであるシュートさんはとても優秀な開拓者なんですよ。彼にかかればこの村は信じられないほど住みよい村に生まれ変わることでしょう。シュートさん、何か一言お願いします。」
「う、うむ・・・・・、よきにはからえ」
何だその台詞は。
「よきに・・・・・(ムググ)。」
サクヤが真似しようとし始めたので、口をふさいだ。
「と、とりあえず、この企画書を読んでいただけませんか? これを見ていただければある程度のことはわかると思います。」
「ふむ・・・・・どれどれ・・・・・」
村長は企画書に眼を通す。
村人たちが、普段とは違う何かが起こっていると感じとり、集まってきている。私はモコモコはいないかと周囲をうかがう。
・・・・・いた! モコモコだ! 家の陰に隠れてコチラの様子をうかがっている! ・・・・・って、あれ? なんだか睨んでいるような・・・・・わ、私を睨んでいるのか・・・・・?
私は思わず目をそらしてしまった。なんで、なんであんな不審者を見るような目で私を見るんだ!?
・・・・・そうだ、考えてみれば、モコモコは初対面の時から私のことを怖がっていた。(見ただけでムスイに恐怖するモコモコの図)
先日、村を出る時も部屋に侵入してモコモコにモフモフしてしまった。(寝ているモコモコに抱き着きモフモフするムスイの図)(遠くから聞こえるモコモコの断末魔の図)
冷静に考えるなら、モコモコは犯人が私だと疑っていたとしても不思議ではない・・・・・。
私はもう一度、モコモコの方を見る。
(ジ~~~~~っ・・・・・・・)
そして、また眼をそらす。
見ている、見ているよ。もう間違いない。全て疑っている。あの時のことを疑っている。いや、誤解だ。いや、誤解じゃないけど。いや、その、なんというか、うむむむむ・・・・・。
ムスイは混乱している。この状況を打開する最善の一手が浮かばない・・・・・。
「ふむ・・・・・、よくわかりました。」
村長が企画書を読み終わった。
「しかし、これだけの労働に対して、村からの報酬はたったこれだけで良いのですか? 一年以上もかかるような労働なのに、報酬は数日分しかありません。これではあなた方が損をするだけなのではありませんか?」
「いえ、私たちは修行中の身でもあります。開拓の仕事は肉体的な負担も大きく、良い修行にもなるのです。泊まる場所と食事さえ提供していただければ、それで十分です。ですから、気にしないで下さい。最後にリーダーのシュートさんから何か一言お願いします」
「く・・・・・、くるしゅーない、ちこうよれ」
「く・・・・・(ムググ)」
こいつらはダメだ。
「そ、それじゃー、私たちは村長の家の隣にある小屋で寝起きさせてもらいますので。布団は小屋の屋根裏にあるものを勝手に出して使いますのでご心配なく。」
「よ、よくご存じで・・・・・」
「あ、いえ、たまたまですよ、ハハハハハ! ではでは、明日からよろしくお願いします!」
そういってムスイはシュートとサクヤを引っ張って、村長の家の方へと向かって行った。
村人たちはみんな気づいていた。ムスイが3年間村の為に色々としてくれていた人物であるということを。なぜ秘密にしようとしているのかはわからないが、本人が話したがらないのだから、しばらく様子を見ようということになった。
モコモコはただ黙ってムスイを睨んでいた。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
村長の家の隣の小屋の中。ムスイたちは中を掃除し、持参した食べ物で軽く食事をすませ、早々に寝ることにした。
「というか、シュート、村長に対して何だあのセリフは?」
「ああいう風に言えって言わなかったか?」
「言ってない」
「言った言った」
サクヤは黙ってなさい。
「とにかく、明日は早い。忙しくなるぞ。今日は早めに寝ろ。」
布団は「サクヤ」「シュート」「ムスイ」という並び。明かりを消して、3人は床に就く。
ムスイは布団の中でモコモコのことを考える。どう考えてもバレている。これを打開する策を考えてみたが・・・・・どう考えても無理だった。
モコモコは私を軽蔑している。(忍び込んでスリスリしているムスイの図)
私を恐れている。(初対面でガタガタ震えるモコモコの図)
仲良くなる方法が1%も無い。
モコモコと結婚するために頑張ってきたが、もう駄目みたいだ・・・・・。だんだん涙がこみあげてくる。
「グッ・・・・・・・・ぅぅぅ・・・・・・・・・。」
ムスイは声をかみ殺しながら泣いている。
「ど、どうしたムスイ? 何かあったのか?」
隣で眠っているシュートが気づいたようだ。
「な、何でもないやい(グスン)。明日から重労働だ。早く寝ろ(グスン)。」
「わ、わかった・・・・・・」
こうして、ムスイの長い一日は終わった・・・・・・。
「Z Z Z・・・・・」(←サクヤは鼻提灯をつくりつつよく眠っている)
● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
次の日から村の開拓がはじまった。
サクヤは貧弱過ぎてまったく戦力にならない。おばあさんたちの仕事お手伝いに回した。
私とシュートは森から村へ川を引くための作業。一応、毎日一人村の男衆に来てもらっているが、戦力としては見ていない。便宜上、共同作業と言うことで来てもらっているだけで、私とシュートの2人で作業している。
お昼は村の中央にみんなで集まり食事している。もちろん、モコモコもやってくる。しかし、私がいると来にくいだろうと思い、私は「やることがあるから」と言って別の場所で食べている。
本当はチャンスがあればモコモコとお話しできればと思って村にやってきたのだが・・・・・嫌われてしまっているのだからどうしようもない。極力、私の方が距離を置くようにしている。モコモコのそばに入られるだけでも幸せだと考えるべきだろう。
「ムスイってモコちゃんを避けてるけど、何かあったの?」
「・・・・・・・・・・」
布団に入ったタイミングでサクヤがなんか言ってくる。シュートは空気を読んで黙っている。まったく・・・・・誰もが気づいていて何も言わないことをづけづけと・・・・・。
「大きくなると色々あるんだ。もう寝なさい」
「モコちゃんもムスイのこと気にしてたよ」
そりゃ~ね~。怖がっている人が村にやってきたんだからね。色々思うこともあるでしょうよ。
今私にできることは「モコモコに危害を加えない」ことを証明するくらいだろう。
「もういいから寝なさい」
「・・・・・うん、おやすみなさい」
「おやすみ」
こうして、今日も一日が終わる。
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