第2章 新入部員来たる!?
第9話 「私も……な、薙刀部に入部させてください!」
月子たちのロータリーでの演舞の翌日の朝、県立中央高校1年生の
彼女にとって興味深い内容なのか、かなり食い入るように見ている。
「恵子、珍しいね。何ば見よると?」
そんな彼女に声をかけたのは、隣に立つ同じ制服姿の少女。背が高く、長めのショートカットがよく似合っていた。
少し面長な輪郭に、涼やかな眼差し。美人であることは間違いないが、どこか中性的で、少年のような印象すら与える整った顔立ちだった。
「……ん?ああっ、これね。私さ一つ上の親戚の子が畠山高校に行きよるとさね。その子が送ってくれたとよ。面白かよ、アンタも見てみんね」
恵子に促されその少女は首を曲げてスマートフォンの画面を覗く。
そこには学校のロータリーで、防具を着込み薙刀で打ち合う二人組が映っていた。
車内なので音は切ってあるが打ち合う迫力が十二分に伝わってくる。
「え?これって……薙刀?それに、やってる1人は………明日香やろ!」
背の高い少女は、目を丸くして驚いた。
「そうよ明日香よ。中央に行かんで薙刀部のなか畠山でどがんしよるか心配しとったけど……元気そうで安心したばい」
恵子と明日香は中学時代同じ『中央なぎなたクラブ』で共に汗を流した仲だった。
「……うん!元気そう!それに………とても楽しそうじゃない!……良かった、ボクもさちょっと心配しとったもん。RINEのグループにも書き込まないし」
背の高い少女は顔を綻ばせた。どうやら彼女も明日香となぎなたクラブの仲間だったようだ。
「そうやね……その親戚の子が言うには、明日香とこのもう1人は休部中の薙刀部ば再開させるごとがんばりよるみたいで、この演武もそのためにしたらしかよ」
「へぇー………休部中の部を再開…そうだったんだ……理由は分からないけど、それがやりたかったんだね明日香…………それにしてもこの明日香とやっとる子、上手かね。多分子供の頃から薙刀をやり込んでる人」
友人と対峙している片方──すなわち月子の方を見ながら、背の高い少女の表情が急に引き締まる。
「うん、私もそがん思うただ者じゃなかね。こんな子S県じゃ見たことないけど……もしも本当に畠山高校の薙刀部が復活したら、同級生やろうしいずれエースとしてアンタや愛理とぶつかるかもね…」
恵子がスマホの画面から視線を動かして少女の顔を見つめる。そうすると自分の事を『ボク』と言った少女は“望むところだよ”とでも言わんばかりに挑むような笑顔を見せた。
その笑顔を見ると恵子は安堵したように同じく笑う。
「ふふっ、なんだかアンタどんどん愛理と似て……ん?」
「どうしたの?」
「いや、その親戚の子から画像が送られてきて……あれ、これって薙刀部部員募集のチラシ?」
恵子は送られてきたチラシを開く。隣の少女もそれを覗き込んだ。
そこに写っていたのは薙刀をしている少女のイラスト。しかし目を引くのはその絵のタッチだった。
「……何、コレ?北◯◯拳?いや、絵は上手いのに…コレは明日香が書いたとやろか?」
劇画調で、肉体や表情に異様なまでの力強さがこもっているその絵は、薙刀少女というよりはどこか『漢』を感じさせる。
コレは確かに目立ちはする。だが果たして、それが部員募集に適しているのか――かなり疑問だった。
「さ、さあ…ボク、明日香の絵は見たことないから……」
「あの子、頑張りすぎて空回りしたり、疲れとらんばよかけど……」
実際にこの絵を描いたのは月子なのだが、それを知らぬ二人は、愛すべき友の奮闘に思わず苦笑しつつ、少しだけ心配そうに目を細めた。
その放課後の畠山高校の“第二武道場”。すっかり片付けが進んだそこは名前通りの場所らしくなりつつあった。
散乱していた備品やゴミは撤去・整理され、明日香と月子が雑巾やモップで磨いた結果板張りの床はかなり綺麗なものになっていた。
その第二武道場で2人は防具を着込み打ち込み稽古に励んでいた。
「めんっ!」
「こてっ!」
2人っきりという少なさを感じさせない熱のこもった打ち込み稽古。床の軋む音と薙刀がぶつかる乾いた音が響き続ける。
「いやぁぁぁっ!」
人数の少なさを補うかのような月子の声が発せられたとほぼ同時に、電光タイマーのブザー音が2人の耳に届いた。
「終わりか………」
「……ちょっと休みましょうか月ちゃん」
月子が了承し2人は壁際まで行くと座り面を取り頭に巻いていた手ぬぐいで汗を拭いた。
「………明日香ちゃん、ホンマに今日も演舞せえへんで良かったん?」
月子の疑問に明日香は顔から手ぬぐいを離して答える。
「はい……。ああいうパフォーマンスは連発しても効果が薄いでしょうから。今日の昼休みや放課後も、昼休みや放課後に勧誘に回ったら、入部すると即答してくれた人はいませんでしたが、皆友好的だったでしょう?アレが成果ですよ」
明日香は少し誇らしげに言った。その返答に月子は嬉しそうに頷いた。
「うん、確かに……。前は“薙刀って何?”って顔ばっかやったもん。それが、今はちゃんと“見たよ!”って言ってくれるし……1人でも2人でも、入ってくれたらええな……ところで話変わるけど、山口先生遅ない?」
時計を見上げながら月子は一転して不満そうに声を上げた。教頭から、顧問がいない状態での試合形式の練習を控えるように言われているのからだろう。
「山口先生……顧問を前向きに検討するって言ってましたけど…」
「政治家みたいな事言って、やっぱり止めますなんて言ったらもう私山口先生と口きかへんから」
月子の冗談とも本気ともつかない一言に明日香はふふっと小さく笑った。
そうして休憩を取っていると、第二武道場と体育館を繋ぐ階段に通じる扉が開いた。そこから現れたのは、件の山口だった。
「おっ、やってるなあ感心感心」
「感心やないですよ先生!顧問やのに遅いです!試合稽古できへんやないですか!」
口を尖らせる月子に、山口は意味ありげな表情を浮かべた。
「ふふん、そんな口をきいて良いのかな?俺は良い知らせを持って来たのに」
「良い知らせ…?もしかして!」
「さすが察しが良いな白川。そうだ、お前たちがお待ちかねの新入部員だ……さっ、入ってきてくれ」
山口に促され畠山のジャンパースカートの制服を身にまとった少女が遠慮気味に入って来た。
メガネをかけており髪の長さは月子より少し長いくらいだが、ポニーテールではなく捻っておさげにしている。
その容姿や雰囲気からは少し内気な印象が感じられた。
「名前…自分で言えるよな?」
「は、はい!……1年B組の
新谷ひよりは、顔を紅潮させ勇気を振り絞るように2人に告げた。
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