冥界から帰還した魔法天才、魂を喰らう能力を得る

@NaKiTiSu

第1話 ウナイデ魔術師塔全滅事件

冥界。


砂漠化した広大な荒野、無数の骸骨や奇怪な岩石が広がっている。


空は逆さまに吊るされた黒い渦のようで、あちこちにぼんやりとした、低く囁く亡霊たちが漂っている。


サラスはこの荒廃した地を一人で歩いていた。その背後には淡い光を引き連れている。それは彼のメイドである少女ティロの魂だった。


冥界では、まずこの地が魂に与える自然な劣化に耐えなければならない。しかし、ほとんどの者は半日も持たずに理性と欲望を失い、空中を漂いながら消えかけている亡霊になる。


その後には飢えがやってくる――他の魂を喰らうことでしか解消できない飢えだ。

不運にも、王侯貴族と平民の魂の「量」には違いがない。本当に強い者の魂を必要とするのだ。


「サラス様、あちらです。」


(だが、ティロは来て間もない……この冥界でどれだけ耐えられるのか……何とか解決策を見つけなければ。)


ティロが指差す方向に従って、サラスは目をやった。近くには倒れた枯れ木があり、その上に魔術師の装束を纏った老人が座っていた。


サラスは生前、魔術の天才として知られ、17歳の若さで既に八環の魔術師だった。そのため、彼にはわかる。この老人が放つ魔力はほとんど溢れ出しており、少なくとも十文魔術を扱えるほどの力を持っているだろう、と。


(10000ポイント?いや、恐らく13000ポイント以上の魔力……十一環の魔術師まであと一歩だな……)


いわゆる「十文魔術」とは、十の呪文文が含まれる魔術を指す。


大地、火、風、水といった基本的な要素が組み合わされ、新たな呪文が生まれる。


そして魔術を発動させるには、魔力を使って呪文を順に繋げる必要がある。すでに繋がっている呪文が多いほど、次の呪文を繋ぐための魔力も急速に増加する。連結中の曲がりが生じれば、その分魔力が必要となり、不注意で絡まれば魔術の成功確率に影響を及ぼす可能性もある。


したがって、呪文が多ければ多いほど、術者には高度な魔力と制御力が求められる。ある魔術師が最高で何文の魔術を扱えるかが、その魔術師の「環」の数を示すのだ。


(これが……真の強者か!)


サラスは心の中で密かに感嘆した。


老人は誰かが近づいてきたことに気づいたのか、振り向いた。


「おお……濃密な死の気配だな。どうやら老夫以外にも長い間冥界に留まり、理性を保っている者がいるようだ……」


「私はサラス。こちらはティロだ。」


「おお……老夫の名はウネード。このウネード魔術師塔を築いたウネードその人だ……その魔術師塔、今も知られているか?」


「帝国内では知らぬ者はいません。ウネード魔術師塔を知らない者がいても、40歳で王室魔術顧問の水準に達した天才として、あなたの名を知る者は必ずいるでしょう。」


その言葉を聞いて、ウネードは長い白髭を撫でながら満足げに笑った。


「それなら良い! 若者よ、君の後ろの少女は冥界に来たばかりのようだが、老夫が魔術を伝授してやろうか?」


「どんな魔術ですか?」


「魂護術……冥界で魂の自然劣化に抗うための術だ。強烈な執念、野心、力、そして高貴な血統が必要だ。それがなくとも、魂護術で可能になる。」


ウネードの視線がティロに向かい、すぐに逸らされた。


「老夫はこれまでにも冥界に来たばかりの魂に施してきたが、同じ魂には二度と施せない……施術者が自身の魔力上限を犠牲にして無理やり施す場合を除いてだ。ただし、その場合は消耗が倍増するし、施された魂も効果が切れるまで痛みを伴う。」


そう言いながら、彼の目には一抹の寂しさが浮かんだ。


「まるで底なしの穴だ。最後には老夫一人だけが残った。だからこそ、この魔術を改良し続けている。」


ウネードは重厚な本をゆっくり取り出し、サラスに差し出した。表紙は牛革のように厚く、しかし触感は極めて冷たく、まるで魂の残骸で作られたような不気味な気配を放っている。


「この本には老夫が生前も死後も研究してきた魔術が全て詰まっている。最初のページには魂護術が記されている。しかし、魔力は無限ではないし、魂にも限りがある……この世には輪廻などない。神と呼ばれる者が魂を創り、人間界に送り出し、肉体が死ぬと魂は冥界に至り、やがて消えていく。再び神の手に戻るのだろうか。花が咲き、散り、土に還って次の花の養分になるように……覚えておくが良い、若者よ。」


サラスはウネードから本を受け取ったが、特に感情を見せることはなく、ページをめくると、ウネードの細かい筆跡がびっしりと記されていた。ただ一目見ただけで、どこから手を付ければよいのか分からないほど複雑だったが、サラスは眉をわずかに上げるだけだった。


「一度の護魂術で、どのくらい持続するのですか?」


「そうじゃな…現在のバージョンでは、だいたい一ヶ月ほどかのう?召霊儀式で求められる最低死亡期間には、まだまだ及ばん。」


ウネード魔術師塔。第十代会長「冥王」によって開発された九文魔術「召霊儀式」。


魔法陣を描き、供物を用意すれば、冥界から指定された魂を呼び戻すことができる。


ただし、「召霊儀式」にはいくつもの制約がある。死者が死んでから最低でも三か月が経過していなければならず、満月の夜に行う必要があり、儀式を行う場所も環境魔

力が濃厚でなければならない。


このため、歴史上、理性を保ったまま召喚された魂は一度も存在せず、むしろ召喚自体ができない場合も多い。ほとんどの魂は既に消滅しているためだ。


加えて、儀式は九文魔術に分類される儀式系の魔術であり、通常の九文魔術以上の魔力が求められる。そのため、この魔術を使用できる者はほとんどいない。この術は歴史の長い流れの中で消え去り、現在使用できる者がいるかどうかすら不明である。


「お主は冥界の自然劣化に抗えておるようじゃが、隣の少女は…」


ウネードは言葉を止め、一瞬間を置いた。


(一か月…つまり、ティロには三度も術を施さねばならず、彼女は少なくとも二か月間は痛みに耐えなければならない。そして、儀式を行える者を見つける必要がある…しかも、ウネード魔術師塔の者が開発したと?)


サラスは目の前のウネードに目を向けた。彼は確かにウネード魔術師塔の創設者を名乗っている。


「召霊儀式…ウネード魔術師塔の者が開発したと聞きましたが、なぜ彼らに頼んで、貴方を現実世界に召喚してもらわないのですか?」


「おお…ここは研究に理想的な場所だからじゃ。お主にはそう思えんか?食事も眠りも不要で、不定期に現れる魂を材料に護魂術の研究を続けられるのじゃ。」


サラスの脳内に一つの計画が浮かんだが、今はまず護魂術を試すべきだった。


彼の意識に青い海のような空間が現れ、その中で二つのぼんやりとした光点が互いに呼応していた。


「魂、思考。」


彼がそう呟くと、二つの光点は瞬時に鮮明になった。


「【魂、異界、時間、飢餓、保護、思考】――護魂術。」


「魂」と名付けられた幽緑色の光点から、一筋の魔力が延び、目に見えなかった「異界」という紫色の光点に接続された。さらに、灰色の「時間」、銀色の「保護」、そして流水のように湛えた青色の「思考」へと順次繋がっていく。


サラスはまるで外科医のメスを操るような正確さで、それらを真っ直ぐに結びつけていった。


その結果、冥界に似つかわしくない柔らかい金色の光がティロの全身を包み込み、すぐに消えていった。


ウネードは満足そうに振り返り、法衣の袖の中から手を伸ばして枯木に爪で印を刻んだ。


「これで護魂術を受けた魂が2万を超えた…ああ!」


1年後、現実世界、ウネード魔術師塔、地下1階


白い法衣を纏った魔術師たちが円形の魔法陣を囲むように均等に立っていた。


床には大量の金貨、宝石、魔導具、さらには縛り上げられた平民たちが並べられている。


魔法陣の中央には、紫の法衣を纏った高位の魔術師と、恐ろしく威圧的な黒い鎧があった。


「会長、儀式の準備は整いました。いつでもウネード様をお迎えできます。」


「では、そろそろ満月の時刻も近い、始めよう。」


体格が小柄な少年魔術師が震える手を挙げ、何か言おうとした。


「会長、ウネード様は1500年前の方です。これまでどの代の会長にも夢託されるこ

とはありませんでした…今回突然戻られるのは、何か不自然では…」


「黙れ、愚か者!」紫法衣の魔術師が鋭く叱責する。


「わしが目覚めてすぐに宝物庫へ向かった。そこでウネード様が使用された杖を確認したところ、わしに共鳴を示したのだ。これはこれまで前例のないことだ。夢託してくださったのは、ウネード様ご本人に違いない!」


そう言い放つと、彼は大きく手を振った。


「儀式を開始せよ!」


少年は他の白い法衣の魔術師たちに半ば押し出される形で魔法陣の列に加わり、中央へ魔力を送り始めた。


「【生命、死、肉体、崩壊、魂、拘束、金属、肉体、犠牲】――召霊儀式!」


供物となった金貨、宝石、魔導具、さらには平民たちが、次々と灰や干からびた死体と化していく。彼らから抽出された要素が、紫法衣の魔術師の杖の先端に集められていく。


「さあ、お戻りください、ウネード様…」


平民たちの干からびていく恐怖の叫び声が耳に入るが、紫法衣の魔術師は全く気に留めなかった。


やがて儀式が終わり、黒い鎧がきしむような音を立てて動き始めた。


その様子を見た紫法衣の魔術師は、すぐさま恭しく片膝をつき、頭を下げた。


「ウネード様、我々ウネード魔術師塔全体の者たちが、あなた様の帰還を心よりお待ち申し上げておりました。」


黒い鎧は手元にあった杖を掴み上げた。紫法衣の魔術師は即座に説明を始めた。


「ウネード様の魔力に見合う肉体を見つけることができなかったため、第三代会長『重装魔術師』が使用していた活性金属製の鎧に、召霊儀式を用いてあなた様の魂を結びつけました。この鎧は魔力適性に優れ、自己修復能力を持っています。そして、お手にされているのは第六代会長『万能者』の杖で、こちらも活性金属製で使用者の意図に応じて形状が変化します。」


「良くやったな。九文魔術『召霊儀式』か。」


「その通りです!1500年もの時を経ても、これほど完全な魂をお持ちとは!」


黒い鎧が冷笑を漏らし、低い声で呟いた。


「【生命、死、肉体、崩壊、魂、拘束、金属、肉体、犠牲】――召霊儀式…ということだな?」


「ええ、まさにその通りです。一目で理解されるとはさすがです。冥界にまだ仲間がいらっしゃるのでしょうか?もしお召喚されるのであれば、しばらく祭品の準備が必要ですが…」


「祭品?ここにこんなに現成のものがあるではないか。最高でも九環程度だが、それでも九文の儀式魔術を成し遂げられるとはな。」


紫法衣の魔術師の目には、先ほどの恭順が恐怖へと変わり始めていた。


彼自身が九環の魔術師であり、他の者たちと共にこの九文魔術『召霊儀式』を成し遂げた。しかし、「祭品」とは、まさに自分たちのことを指しているのではないか?


否、彼一人だけではない。この場にいるウネード魔術師塔の全員が――


反撃しようとした瞬間、黒い鎧は彼の喉を掴み、持ち上げた。左手に握られた杖が儀式を発動する。


「これほどの魔力を用意してくれて感謝する。彼女の帰還のための祭品となれ、子羊たちよ。」


周囲の白法衣の魔術師たちは恐怖のあまり大混乱に陥った。


杖を掴んで反撃しようとする者もいれば、黒い鎧が紫法衣の魔術師を盾にするのではと攻撃をためらう者もいる。また、こっそりと後退してこの場を逃れようとする者もいた。


(愚か者どもめ。この老人を盲目的に崇拝し、少しばかりの魔力を根拠に私をウネードだと信じ込むとは。しかも儀式の完了後に魔法陣の一部を消去しておく習慣すら養っていないとはな。しかし、そもそも九文の儀式魔術は、合力で成し遂げるべきものではない。)


「【ウネード・ヴァナス、召喚解除!】」


目の前の黒い鎧は全く反応を見せなかったが、紫法衣の魔術師は諦めず、恐怖と生への渇望に駆られ、再び叫んだ。


「【ウネード・ヴァナス、召喚解除!】」


しかし、魔法陣の強力な魔力の引力に抗えず、周囲の白法衣の魔術師たちも巻き込まれていた。


彼らは自分たちの身体から生命力、魂、そして魔力が急速に吸い取られていくのを恐怖に満ちた目で見つめていた。それはまさに、先ほど自分たちが祭品として利用した平民たちと同じ運命だった。


「死にたくない!死にたくない!」


「助けてくれ!会長!」


「母さん!」


儀式を解除できないと悟った紫法衣の魔術師は、震える手を伸ばして反撃しようとしたが、魔力が吸い取られる速度は予想を上回っていた。


彼は大きく目を見開き、信じられない、そして未練の表情を浮かべて目の前の黒い鎧を睨みつけた。


「お前はウネード様ではない、一体何者だ…ぐああああ!」


黒い鎧は彼の干からびた死体を軽々と投げ捨てた。


「聞いたことはあったが、今日目の当たりにして分かった。ウネード魔術師塔など、この程度のものだ。」


一筋の魂が魔法陣の中心から飛び出し、隣の少女の死体に入り込んだ。その身体は徐々に生命の気配を帯び、次第に活気を取り戻していく。


白法衣の中から白煙が漏れ出し、骨と肉が押し合うような音が響いた。


しばらくすると、身も柔らかく愛らしい少女が白法衣の中から這い出してきた。その顔立ちは以前とは全く異なり、体型にも大きな変化が見られた。


余った裾が足元にまとわりついているが、身長はわずか1メートル50センチほど。それでも胸元にはしっかりとした曲線が描かれていた。


先ほどまでは合っていた袖も半分以上余っており、髪は腰まで伸びた黒髪が乱れたまま白法衣に垂れている。彼女の顔には「隣の家の迷子の妹」とでも言うようなぼんやりした表情が浮かんでいた。


「サラス様…?」


周囲の状況を見回したティロは、すぐにここが現実世界であることを理解した。


「魔法陣!魔法陣を破壊すれば儀式を中断できます!」


一人の白法衣の魔術師が床に手をつき、額を魔法陣に擦りつけながら、その一部を消そうと必死だった。これでサラスを冥界に戻せるわけではないが、僅かな望みをつなごうとしていたのだ。


「サラス様の邪魔はさせません!」


ティロは素早く手元にあった杖を掴み、槍のように構えて投げた。それは正確にその魔術師の後頭部を打ち抜き、彼の意識を完全に断ち切った。


しかし、魔法陣はその魔術師の代償をもって約10センチほど削り取られてしまった。


魔法陣の中心で、魔力・生命力・魂への引力が徐々に弱まりつつあった。


「助かったぞ!」


「そうはさせません!」


ティロは素早く這い寄り、左手の爪で右手首を裂いた。その血を使い、記憶を頼りに削られた部分を描き直した。このような太い模様を描くには、指先を咬んで滲み出た血液だけでは到底足りない。


一方、サラスは意識を保っている魔術師たちを既に始末しており、残った意識を失った者たちが祭品として十分に役立つことを確認していた。


「【生命、死、肉体、崩壊、魂、拘束、金属、肉体、犠牲】――召霊儀式。」


サラスは再び儀式を発動した。これにより、自分の魂を黒い鎧に結び付けるのはサラス自身となった。これならたとえ誰かがこの黒い鎧の中の魂の真名を知っても、その結びつきを解除する権限は持たない。


(これはただの推測だったが、まさか本当に可能だとは…誰も、召霊儀式が冥界にいる魂にしか対象を限定しないなどとは言っていなかったからな。)


周囲を見回すと、魔法陣を囲む一帯は既に死の静寂に包まれていた。残されたのは灰、干からびた死体、そしてわずかに光る魔術の残痕だけで、それらはまだ僅かな余熱を放っていた。


サラスは手に持つ活性金属の杖を軽く握りしめ、その形状が自分の意志に応じて変化するのを感じて、満足そうに頷いた。


「ティロ、傷を負っているな。」


「ええ…」


ティロはようやく、自分の手首からまだ血が滲み出ていることに気付いた。補完した魔法陣の後、急いで白い布で巻きつけたが、それもすっかり赤く染まっていた。


「治癒術。」


サラスは手を伸ばし、ティロの手首を掴んだ。


「それから…」


彼は祭品の中を探り、役立つ魔導具を見つけようとしていた。


灰を掘り返すようにかき混ぜていると、宝石で装飾された金杯が手から滑り落ち、ティロの頭に直撃したが、彼女は声一つ上げなかった。


「待たせたな…ティロ。」


「サラス様…あの魔術師たちの話していた召霊儀式で、私を蘇生させてくださったのですか?彼らの魂を直接喰らって、魔力を増強することもできたのに…」


「私は既に十環の魔術師だ。差が大きければ大きいほど、魂を喰らって得られる効果は薄くなる。」


「とはいえ、こんな役立たずのメイドのために…」


「そうだな、少しばかり役に立たん。レナ・ローンが私を殺そうと企んだ際、お前は私のために嘆願したが、失敗に終わったのだろう?」


ティロはうつむき、肩を落とした。


「私が死んだ後、お前は密かに私の墓を掃除しに行き、それをレナ・ローンに見つかって逆上され、殺され、荒野に遺棄された。」


「…その通りです。」


「だから、お前をもっと役立つ者にする必要がある。忠誠心は力よりも得がたいものだ。これらの役立たずを喰らうよりも、忠実な従者を蘇らせた方が良い。」


「忠誠心…」


ティロの頬を涙がつたった。


「サラス様、私はティロ。過去も、現在も、未来も、どのような苦痛、非難を受けても、たとえ命を落とし、魂が冥界で永遠に消滅することになろうとも、永遠に貴方にお仕えいたします!」


「誓いなど、拘束力がなければ何の意味もない…だが、お前の誓いには信憑性がある。ウネードの話によれば、普通の魂は護魂術に一度しか耐えられない。それに対し、お前は三度も耐えた。」


「それは、サラス様がご自身の魔力上限を削って、私の魂に注いでくださったからです…」


「確かに、相当削ったな。一度目は1000点を消耗し、二度目ではその倍だった…だが、仮にそれらを消耗していなかったとしても、今の私が十一環の魔術師になっているとは思えん。新しい身体の魔力の感覚はどうだ?」


突然の問いかけに、ティロは驚きながらも恐縮し、体内の魔力の流れを確認した。その経路は非常にスムーズだった。以前がストローだとすれば、今は水道管と言える。


「はい、以前の身体よりも魔力適応性が非常に良いと感じます!ただ、その頃は魔術を全く学んでいなかったので…」


「ゼロからのスタートか…問題ない。冒険者の魔術師の多くは、引退するまでに五環程度が精一杯だ。未経験の身体は、魔術学習速度や魔力成長速度が通常よりも速い。男女問わずだ。だから私はその身体を選んでお前を蘇らせたのだ。意志さえあれば、才能に関係なく、30歳まで未経験の身体でいれば、それだけで魔術師と呼ばれるようになる。」


「そんな諺があるような気がしますが…でもサラス様、どうやってそれを見分けたのですか?」


サラスは灰の山を掘り尽くし、最終的にティロの頭を打った金杯のほか、指輪型の魔導具と数枚の金貨が残っただけだった。


「以前、ある女に教わった魔術だ。その女は、貴族として領地内の初夜権を絶対に掌握しなければならないと言っていた。もし密かに違反する平民を発見したら、殺さなければならない。それが絶対的な権威を維持する唯一の方法だ、と。」


ティロは何も言わずにうつむいた。サラスは彼女の前にかがみ込み、手のひらに載せた魔導具を差し出した。


「指輪か?」


「魔力成長速度を3倍にする魔導具だ。身に着けておけ。」


「3倍ですって!?それはまさに無価の宝物です!私が身に着けてよいのですか…それともサラス様が着けて、早く十一環に到達されるべきでは?」


「お前が強くならなければ、私の足手まといになる。」彼は議論の余地を与えない口調でティロの言葉を遮った。


ウネードに成りすまし、ウネード魔術師塔と交渉した結果、サラスは幾つかの情報を得た。


自分の死から既に四年が経過していること。


その間、時折魔力が比較的強い魔術師の魂や戦士の魂が現れ、サラスはそれらを日々喰らい続けて力を増していた。


元々の八環の実力に、ウネードを喰らったことでさらに強化され、ティロに安全に護魂術を施すために削った魔力上限を差し引いたとしても、一年かけて他の魂を喰らった結果、サラスの魔力は現在11,928点に達し、十環の魔術師の水準となっていた。


遠ざかるサラスの背中を見上げたティロは、小さく息を飲み、どこか秘めた思いを抱えながら、その銀色の呪文が刻まれた指輪を左手の薬指にはめた。


彼女は立ち上がり、何度か長すぎる裾に足を取られそうになりながら、やむを得ず裾をつまみ上げ、早足でサラスに追いついた。


「この杖…六文以下の魔術詠唱を省略できる。【大地、崩壊、炎、大地、融合、魔力、移動】――マグマ地震。」


ウネード魔術師協会の外、遠くの崖の上。


銀色の甲冑を纏った一隊がここで偵察をしていた。彼らの背後の山麓には、一隊の軍勢が休息を取っている。


「おかしいな。今日は探知魔法陣が反応しないし、森の中にも斥候が見当たらない。」


「こんな風に城門が大きく開いている方が、逆に怪しいな。」


「いずれにせよ、数日前に行方不明になったあの平民たちは、この人でなしども――魔術師たちが拉致したに違いない。」


その時、地面が激しく揺れた。


望遠鏡を手にしていた兵士は、驚きで手を滑らせて落としたが、坂を転がり戻って彼の足元に止まった。


次の瞬間、彼は背後の戦友たちの荒い息遣いを感じた。


「どうした、ローリエン。早く望遠鏡を拾え。」


「ふざけるな、見ろ!」


遠くにあるウネード魔術師協会の高塔が轟音を立てて崩壊していくのが見えた。

窓、扉、ひび割れた壁の隙間から、熱せられたマグマが噴き出していた。轟音は耳をつんざき、煙と塵が空を覆い尽くした。


「地震か?それとも火山の噴火か?早く軍に撤退を知らせろ!」


「違う、これは地震じゃない。これは魔術だ…七文魔術、マグマ地震だ!」


瞬く間に、高塔の最後の先端もマグマの中に沈んでいった。


「奴ら、一体何をしているんだ…」


ウネード魔術師塔の外では、ティロがサラスの後を追っていた。二人は背後の壮絶な光景にはまるで興味がないようだった。


「これからどこへ行き、何をするのですか、サラス様?」


「超越しに行く。」


「超越?」


サラスはティロに振り返って言った。


「冥界へ、天国へ、そして全ての人、全ての神を超越するのだ。」

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2025年1月10日 16:00

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