第7話 待ち構えるスプルーアンス
ー 1944年(昭和19年)6月16日 アメリカ太平洋艦隊 第五艦隊 総旗艦 重巡洋艦『インディアナポリス』作戦会議室 ー
サイパン島への上陸を開始した翌日、日本の艦隊が現れたことでスプルーアンスだけでなく幕僚たちも集まっていた。
幕僚たちの顔色は、怒りで顔を真っ赤にしたり、反対に青ざめていたりと様々な表情を見せていた。
ただ一人、スプルーアンスだけが顔色を変えていなかった。
参謀長のカール・ムーア大佐は、動揺を隠せないままで口を開いた。
「まさか、予想以上にオザワの艦隊が現れるとは・・・。」
「現地ゲリラを通して手に入れた日本のZ作戦計画書では、オザワの艦隊の訓練泊地はタウイタウイだった。どういうことだ先任参謀?」
そう言ってムーアは、先任参謀のクリストファー・ジェームズ大佐を問い詰めた。
現地ゲリラを通して手に入れた日本のZ作戦計画書を調べて、日本の動きを予測して万全の態勢で備えていた。
だからこそ、予測が外れたジェームズもショックは大きかった。
「確かに、入手した計画書ではオザワの艦隊が訓練泊地としていたのは、タウイタウイ泊地でした。」
「我々の上陸を知って現れるにしても、一週間は掛かると思っていました。しかし、予定より二、三日早く現れました。」
少し間をおいてから、ジェームズは続けた。
「恐らく、我々の攻略意図を事前に察知して出撃したか、タウイタウイ泊地よりも近いところで訓練を積んでいたのでしょう。」
ジェームズの話を聞き終えたスプルーアンスは、悩んでいた。
予定より早くオザワの艦隊が現れたことで、スプルーアンスは一旦、オザワの艦隊から距離をおく消極策を取るつもりだった。
スプルーアンスが消極策を取るには、理由があった。
スプルーアンスが率いる第五艦隊指揮下にあるマーク・A・ミッチャー中将が率いる第58任務部隊は、四つの空母群から編成されている。
しかし、現在、ジョゼフ・J・クラーク少将が率いる空母『ホーネットII』、空母『ヨークタウンII』、 軽空母『ベロー・ウッド』、軽空母『バターン』、重巡洋艦『ボストン』、重巡洋艦『キャンベラ』、重巡洋艦『ボルチモア』、防空巡洋艦『オークランド』、防空巡洋艦『サンファン』、駆逐艦14隻で編成されている第1機動群の他に、W・K・ハリル少将が率いる空母『エセックス』、 軽空母『カウペンス』、軽空母『ラングレー』、軽巡洋艦『ビンセンス』、軽巡洋艦『マイアミ』、 防空巡洋艦『サンディエゴ』、 駆逐艦14隻で編成されている第四機動群は、小笠原と硫黄島を攻撃するために別行動をとっていた。
小笠原と硫黄島への攻撃は15日の内に成功していて、スプルーアンスの艦隊と合流するために戻っている最中だが、今いる海域で中型の低気圧が発生して嵐になっていた。
そのため、当初は夕方以降の合流予定が大幅に遅れてしまい、クラークとハリルの空母機動群と共にオザワの艦隊を叩くための戦いには間に合わない可能性が高かった。
だからスプルーアンスは、ミッチャーの艦隊と遅れるクラークとハリルの空母機動群でオザワの艦隊を挟撃することを考えていた。
しかし、ここでジェームズがスプルーアンスに反論した。
「駄目ですっ!!この位置で我々が東に退けば、輸送船団の脇がガラ空きとなりますっ!!輸送船団に10万人、防御陣地の不完全な上陸地点にいる2万人の将兵を危険に晒すわけにはいきませんっ!!第一目標のマリアナ攻略を成功させるためにも、直ちにオザワの艦隊を攻撃すべきですっ!!」
ジェームズの反論を受けて、スプルーアンスは決断した。
「そうだな、君の言う通りだ。」
更に、ジェームズは続けた。
「それに、我々にはピケット艦による敵攻撃隊の早期発見、それによる直掩戦闘機隊による迎撃態勢、そしてレーダー射撃とVT信管による対空射撃システムがあります。」
これまでの教訓からアメリカは、莫大な予算を投じて最新鋭の迎撃システムを開発した。
ピケット艦によるレーダーで敵の攻撃隊を早期発見。
その後、レーダーによる誘導で直掩戦闘機隊により、敵攻撃隊を迎撃。
そして、迎撃を逃れた敵攻撃隊をレーダーと連携したレーダー射撃による対空射撃を行って敵攻撃隊を撃墜する。
更に、対空射撃に使用される砲弾であるVT信管は、マジック・ヒューズとも呼ばれ、小型レーダーが組み込まれた砲弾が目標物に命中しなくとも一定の近傍範囲内に達すれば起爆できる信管で、これにより従来の時限式信管よりも命中率を飛躍的に向上させる効果が確認されていた。
ジェームズは、このVT信管も含めた最新鋭の対空射撃システムの開発に携わっていたから、強い自信を持っていた。
このジェームズの意見から、スプルーアンスは改めて、現在の戦力でオザワの艦隊を迎え撃つことになった。
スプルーアンスの率いる第58任務部隊で手持ちの戦力は、以下になる。
アメリカ太平洋艦隊 第5艦隊
司令長官:レイモンド・A・スプルーアンス大将
参謀長:カール・ムーア大佐
旗艦:重巡洋艦『インディアナポリス』
第58任務部隊
司令官:マーク・A・ミッチャー中将
参謀長:アーレイ・A・バーク大佐
旗艦:空母『レキシントンII』
第2機動群 司令官:アルフレッド・E・モントゴメリー少将
空母『バンカーヒル』、空母『ワスプII』、 軽空母『モントレー』、軽空母『カボット』
軽巡洋艦『サンタフェ』、軽巡洋艦『モービル』、軽巡洋艦『ビロクシー』
駆逐艦12隻
第3機動群 司令官:J・W・リーブス少将
空母『エンタープライズ』、空母『レキシントンII』、 軽空母『プリンストン』、軽空母『サン・ジャシント』
重巡洋艦『インディアナポリス』(旗艦)、軽巡洋艦『バーミンガム』、軽巡洋艦『クリーブランド』、防空巡洋艦『レノ』
駆逐艦13隻
第7機動群 W・A・リー中将
戦艦『ワシントン』、戦艦『アイオワ』、戦艦『ニュージャージー』、戦艦『サウスダコタ』、戦艦『インディアナ』、戦艦『アラバマ』、戦艦『ノース・カロライナ』
重巡洋艦『ニューオーリンズ』、重巡洋艦『ミネアポリス』、重巡洋艦『サンフランシスコ』、重巡洋艦『ウィッチタ』
駆逐艦14隻
正に、日本海軍を上回る『世界最大の艦隊』であった。
だが、いつまでたっても、オザワの艦隊から放たれている筈の攻撃隊は、一向に現れなかった・・・。
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最新鋭の対空射撃システムと、世界最大の艦隊で日本艦隊を迎え撃とうとしていた。
しかし、肝心の日本海軍の攻撃は、一向に現れない・・・。
果たして、小澤と遠藤の狙いは・・・!?
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