第8話 地上の世界

◆地上の世界


 下界を見下ろすことの出来る橋は、少年の言った通りの場所だった。

 橋は、少年のいる村とピノのいる村とを繋ぐ橋だ。だからと言って、少年に会う気など毛頭なかった。先方に迷惑がられるだけだ。少年はそうではなくとも、少年の親はそうではないだろう。

 ピノの信条は「人様に迷惑はかけない」そして、「困っている人がいれば助けてあげること」だ。

 橋の真ん中まで来ると、向こうの村の様子が見渡せた。

 すると見てはいけない、そんなものまで見えてしまった。

 あの少年だ。いや、もうすっかり大人の風貌となっていた。少年と同じように黒い羽の生えた女性と田園の中を歩いていた。もしかすると、もう結婚しているかもしれない。

「羽が生えて良かったね」

 相手に聞こえるはずもないのにピノはそう言った。

 言いながら涙が頬を伝った。

 その時初めて、自分がここに何をしに来たのかが分かった。

「死のう」と思ってきたのだ。

 

 晴れ渡った空を数羽の鳥が飛んでいた。「気持ち良さそう・・鳥はいいわね」

「私も空を飛べたらいいな・・」

 ピノは鳥を眺めながら言った。

 空を眺めた後、ピノは川面に目を移した。

 その水面の向こうには、下界が見えた。そこには、ここより広い地面や山、そして、海が広がっていた。

「美しい」と最初は思ったが、そうではないことがすぐに分かった。

 少年の言った通りだった。

 この村の特殊な能力を持ったピノの目には、様々な人の様子が手に取るように見えた。

 疫病や戦争に苦しむ人々。親を失い焼野原を一人歩く子供たち。

 イジメを受ける子供、暴力を振るう大人たち。自分の子供から蔑ろにされる老人。

 ピノの村では考えられないような悲惨、残酷な事が多く繰り広げられていた。

「困った人がいれば手を差し伸べる」

 そんな信条があっても、下界の出来事には何もすることは出来ない。

「私には、どうすることもできないわ」

 そう思った時、ピノの目は、ある大きな病院の病室の窓に留まった。

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