廃墟にて


光の城と呼ばれる廃墟がある


いつ頃の建物なのか来歴も何もわからず

かつての姿を思い起こさせるような名残もない


自然に任せて朽ちている

町はずれの廃墟である


昔から伝わる話がある


およそ城とは呼びがたい瓦礫の山に

時折玉座が現れるらしい

そこに座ることが出来たならば

世界はそいつの物になるとかなんとか


子どもの空想話の類いだろうが

肝試しや度胸試しにもってこいのために

真夜中の廃墟は

地元の若者でそれなりに賑わっていた



春から夏にかわるころだったか

気心の知れた仲間数人で度胸試しに行ったことがある


もちろん玉座はみつからなかったのだが

一つ面白いものをみつけた


短い手紙だった


「君の好きな花が咲いて、少しさみしくなりました。もう、会えないのかしら。」


古めかしい紙切れに美しい書体

破れてはっきり分からないがおそらく紋章のような印


仲間はみんなイタズラだといったが

私には大切な物のように思えた


あまりにそっと扱うものだから

知らず姫に恋をしたなどとからかわれた


当時失恋したてだったのも大いに影響したと思われるが、見知らぬ人の切なさをたった二行にひしひしと感じたのだ


自宅に持ち帰り曾祖母に手紙をみせた

彼女が私の知りうる最も古い時代の人だった


たしか夜分遅くに廃墟へ出掛けるなんてと叱られた後

こんなものを見つけたがいつの頃のものかわかるかと

聞いたら


老いて細まった瞼がまあるく開いて

「まだあったのね。」と言ったきり黙ってしまった


持ち帰るべきではなかっただろうかと大焦りしていたら「大切なものなの、また会えて嬉しい。」と穏やかに微笑んだ


あぁ、これは曾祖母の思い出なのだなと納得した


数日後彼女はこの世を去った


私にあてた遺書の中で

あの手紙を城へ返して欲しいとあった


簡素な地図と手紙を入れる小箱もあった


今度は昼間明るいときに手紙と彼女の好きだった花を携えて一人で廃墟へ向かった


彼女の地図の通りに進むと瓦礫に隠れて見えなかった空間に出た


光の差し込む円形の空間の中央に

彼女の好きだった花が一輪咲いていた


ここだなと分かり、

花の近くに手紙の入った小箱を埋めた


ひとしきり泣いて、それから去った


以降一度も訪れていないが

きっと今年もあの花は人知れず咲いているだろう



「君の好きな花が咲いて、少しさみしくなりました。

もう、会えないのかしら。」





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