第3話 なんとも不愉快なデジャヴだな

「来ます」


──!!


全身に刺青を刻み、モヒカン髪型の巨漢が、ミルの銀糸を引きちぎり、近くにいる大剣を拾い上げ、猛然と彼らに襲いかかる。


嵐のような攻撃を前に、ミュウは礼儀も教養も捨て、不意に足を振り上げ、近接戦が不得意なミルを戦場の外へと蹴り飛ばした。そして、自らは鉄扇を構え、敵を迎え撃つ。


ミルは何とか体勢を立て直した、突如として巻き起こった事態を観察し、一瞬だけ目に不安の色を浮かぶ。しかし、冷静に見極めた結果、現在の巨漢の実力ではミュウを仕留めることは不可能と判断した。それを確認したミルは、今にも口をついて出そうになった「心配の言葉」を、即座に別の言葉と切り替えた。


「ミュ!!……モヒカンヘア vs 明らかに何時間を使ってやっとリーゼント風に見せられた天然パーマ。一体どっちの髪型が観客の支持を集めるのか、その続きを見てみましょう。」


「お前、一体何を言ってるんだ?」

ミュウはミルと言葉を交わしながらも、視線は決して巨漢から離さない。


「そんなこと言ってる暇があったら、さっさと手伝え!!」

その声には焦りと圧迫感が滲み、ミュウの足は洞窟の中でじりじりと後退していた。


「断固拒否します」


「はい?!」


「この依頼の報酬は五分五分でしたよね。前半戦はほぼ私一人で仕事をしていました、ミュウさんはただ横で眺めていただけじゃないですか。さて、中場休憩も終わりましたので、後半戦はミュウさんにお任せします。私は私で、お財布をしっかり厚くする仕事に専念させていただきますから。」


「お前覚えてろよ!後で絶対お前をぶっ飛ばしてやるからな!!」


モヒカン巨漢の攻撃は、まるで嵐のように激しく。たとえ傷口は裂け、鮮血が洞窟の壁を赤く染めていくが、彼はそれをまったく気にしない。


その巨体と異なる、彼の動きは驚くほど俊敏。大剣の一振り一振りがミュウの急所を狙っていた。


大剣が振り下ろすたび、重厚な風切り音が洞窟内に響き渡る。轟音と共に洞窟全体が震え、天井から小石が降り注ぐ。その威力の凄まじさは、一目瞭然である。


もし相手がミルだったら、受け止めるどころか、回避すら困難だろう。

十手以内に突破口を見出せなければ、ミルの敗北は確実になる。


しかし、残念ながら、彼の相手はミュウ——長年鍛錬を積んだ武人である。

不意打ちを受け、最初は動揺し、防御に徹するしかなかったが、わずか三手で冷静さを取り戻し、反撃を企む。


モヒカン巨漢の剣撃は雷鳴のごとく、圧倒的な勢いでミュウを襲う。

目の前の敵を両断することしか考えていないかのように。


だが、ミュウの動きはまるで波のようにしなやかで軽やかだった。

鉄扇をひらりと動かし、巨漢の大剣の軌道を軽く逸らした。その一撃一撃を、まるで弄ぶかのように受け流していく。

唇にはわずかに嘲笑を浮かべる——まるで、すでに相手の手の内をすべて見透かしているかのように。

──力比べでは勝ち目はない。

ならば、精確かつ迅速に、この男の隙を見極めるしかない……


激しい動きによって傷が裂け、巨漢の動きにとうとう影響を及ぼした。

彼はすぐに体勢を立て直そうとしたが、その足元はかすかに揺らす。


ミュウの目はその一瞬の隙を逃さない。

瞳孔がわずかに収縮し。

躊躇もなく。雷のごとく素早く足を振り上げ、そのまま一直線に巨漢の手首を直撃した。

その一撃には、相手の退路を断つかのような覚悟が込められていた。


ドンッ!


巨漢の手首に激痛が走り、その手から大剣が弾き飛ばされた。大剣は無慈悲に岩壁へと弾き飛ばされ、鋭い金属音を響かせながら洞窟内に反響し続ける。


しかし——

遁地会の幹部となるもの、そう簡単にやられる相手ではない。

巨漢は最初から気付いた。力ではミュウを圧倒することはできない。

ならば——いっそう戦術を変えよう。

わざと力不足のように動く、露骨な隙を作り出す。

全ては、獲物を誘い込むための罠。


徐々に調子を取り戻し、優勢に立ったミュウは当然、この罠には気づかない。

巨漢の武器を奪い取ったことで、一瞬、彼の心は思わす安心した。


巨漢はまさにこの瞬間を狙っていたのだ。かれは迷うことなく、ミュウの腹部へ強烈な蹴りを叩き込む。


──!!!


巨漢の体格はミュウの二倍以上もある。大剣を軽々と振るう様子や、状況に応じた素早い判断力から、彼はただの素人ではないことは明らかだった。しかも、それは数多くの実戦を経験してきた者の動きだ。

この一撃——たとえミュウであっても、まともに受ければ無事では済まない。


もしミルの援護がなければ——


巨漢の蹴りがミュウに届く寸前、彼の体は強い力によって勢いよく横へと引き寄せられた。

それによって、ミュウは間一髪で危機から脱することができた。


「ミュウお坊ちゃん、得意げな笑顔というのは、敵を見事に縛り上げた後に初めて似合うものですよ。それがなければ、単なる死亡フラグと変わりませんから。」


「ああっ!!僕のイケメンな顔と、この美しく鍛え上げられた肉体が、そのボロ縄で跡だらけになったじゃないか!」

「手伝っているだけでもありがたいと思ってください。それでまだ文句を言うとは、なかなかいい度胸をお持ちですね」

「お前がもっと早く助けてくれたら、こんなことにはならなかったんだぞ!」

「ミュウさんがこんな簡単にフェイントに引っかかるとは、誰が予想できたんです?」

「傍観者は気楽なもんだな!僕だって傍観者だったら、見抜くだけじゃなくて、解説付きで実況までしてやるよ!!」

「ところで…私たち何か忘れていませんか?」


馴染みのある口喧嘩の光景。

馴染みのある影の覆い。

馴染みのある大剣を手にした巨漢。

そして、馴染みのある怒りの咆哮。


この瞬間、二人の心は驚くほど一致していた——


「なんとも不愉快なデジャヴだな。」

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