三 後編

「と、そういうふうにして私と鶴子は付き合うことになったのですよ」


 男は心なしか、いつもよりも柔和な笑みを浮かべてもう一人の男に対してそう話しかけた。もう一人の男はこの長い話の間、ずっと黙って物語を聞いていたようだった。クラマの如く大袈裟に拍手をして感激をして見せることはなかったが、何度も頷いて、今の物語を反芻して何かを考えている様子だった。男は日記帳を閉じて、もう一方の男の顔をじっと見ていると、何かに気付いたかのように目を見開いた。


「あれ、ゲドウじゃない。先生ではないですか。いつからいたのですか」


「最初からだよ、フーテンくん」


 本来はゲドウが聞いていたはずの男の物語を聞いていたのは、無精髭を撫でている、この精神病院の院長だった。彼は言いにくそうに目を伏せたが、それでも医師の務めだと言わんばかりに溜息をついて男に対して向き合った。


「フーテンくん。今から君の話に幾つかの質問をさせてもらう」


 それは尋問と言っても差し支えない内容だった。底冷えする季節であったが、その病室の中は外の寒気とは違う、また別の悪寒が背筋を震わせる空間であった。

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