第5話 大和高田 不動院(不動院の奇跡)

▢▢▢ 水と炎の守護者 ▢▢▢


 その年の夏、大和高田の村々は未曾有の干ばつに見舞われていた。空は焼け付くような青さを保ったまま、雲ひとつ湧く気配がない。田畑はひび割れ、草木は萎え、川も細い糸のように流れるだけだった。


 村の人々はついに不動院を訪れ、不動明王に救いを求めた。


「この地に雨を呼び戻してください!」


 村長の声が境内に響くと、不動院の住職・円海えんかいは静かに頷いた。


「皆で心を一つにし、祈りを捧げましょう。不動明王は必ず応えてくださるはずです。」


 村人たちは境内に集まり、護摩焚きが始まった。炎が天へと立ち上り、不動明王の前で住職が経を唱える。人々の祈りが夜の静けさと混ざり合う中、不思議な現象が起こった。


 月が雲に隠れ、ぽつりぽつりと冷たい雨粒が落ちてきたのだ。


「雨だ!雨が降ってきたぞ!」


 村人たちは歓声を上げながら、空を仰いだ。境内の井戸からは、湧き水が勢いよく溢れ出している。この水は後に「不動水」と呼ばれ、人々の命を潤すものとなった。


▢▢▢ 炎の中の守護神 ▢▢▢


 その奇跡から数年後、村を再び試練が襲った。今度は夜中に不動院が炎に包まれたのだ。


「火事だ!不動院が燃えている!」


 鐘の音が響き渡り、村人たちは駆けつけた。しかし、火の勢いは強く、誰も手出しができない。人々が絶望の中で立ち尽くす中、境内の炎の中に人影が浮かび上がった。


「不動明王だ!」


 その姿は堂々とした僧形で、怒りの表情を浮かべた不動明王そのものだった。村人たちは息を呑み、その光景を見守った。不動明王の力が炎を飲み込み、やがて火は不思議と消え去った。


 翌朝、焼け跡の中で本尊の不動明王像はほとんど無傷で見つかった。それを見た住職の円海は涙を浮かべながら言った。


「不動明王がこの寺を守ってくださったのです。」


 村人たちは感動し、それ以来、火災避けの護摩焚きの儀式が毎年行われるようになった。


 不動院にまつわる水と炎の奇跡は、人々に深い敬意と感謝を抱かせた。それは単なる寺院ではなく、地域の魂を支える存在として刻まれている。不動明王の力が時を越えて語り継がれることで、大和高田の人々は希望を見いだし続ける。


 護摩焚きの炎は、ただ過去の奇跡を思い起こすだけでなく、新たな未来を切り拓く光として燃え続けている。


▢▢▢ エピローグ:史実とフィクションの解説 ▢▢▢


 本作は、大和高田の不動院にまつわる伝承や地域の特徴を基にしたフィクションです。不動院に伝わる「不動水」や「火災の奇跡」といった逸話は、史実の一部を参考にしつつ創作されています。


 不動院は、現在も大和高田市の歴史的な象徴として多くの人々に親しまれています。護摩焚きや年中行事は実際に行われており、地元住民にとって重要な文化遺産です。


 一方で、本作に登場する村人たちや住職・円海えんかいは、物語の展開を豊かにするための創作人物です。


 史実とフィクションの境界を超えたこの物語が、読者の皆様にとって心温まる体験となることを願っています。


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