喜々怪々
@kurokiG
第一章 第1話 東雲 天音という女
思い返せば、彼女との出会いは突然だった。私、日向茜は東京青葉大学経済学部の一年生だ。愛知県の田舎から一人で上京してきた私は、同じ学部の山本香奈ちゃんと大学の噂話をしていた。
「香奈ちゃん、さっきの授業のノート貸して!」
「良いけど、また寝坊!?昼の授業でどうやって寝坊するの?」
香奈ちゃんはあきれた顔をしながら、ノートを渡してくれた。
「本当にありがとう。いや、ランチの後はどうしても眠くなっちゃってさ~。このままじゃ留年しちゃうかも。」
「留年は大丈夫でしょ。この学校、単位ゆるいらしいよ。出席さえしてれば何とかなるって。」
「本当?とりあえず寝坊しないように頑張ります!」
「でも、先輩で留年している人がいるらしいよ。東雲先輩って知ってる?」
「知らない。どんな先輩なの?」
「この大学では、もはや都市伝説みたいになってる。すごく綺麗な顔してて、一時期は告白もいっぱいされたらしい。でも、いつも一人でいるみたい。たぶん性格が悪いんだと思う。あと、怪しいアルバイトしてるって噂もあるよ。」
話を聞きながら、私はノートを写すのに夢中だった。
「まぁ、東雲先輩みたいにならないように気を付け…あっ」
香奈ちゃんが急に話をやめたので、私はノートから目を上げた。香奈ちゃんは小声で話を続けた。
「ねぇ、向こうから歩いてくる黒髪の綺麗な人、見える?あの人が東雲先輩だよ。」
彼女は長く艶やかな黒髪をなびかせながら歩いていた。瞳は鋭く、内に秘めた意思の強さを感じさせる一方で、その黒い瞳はどこか神秘的な魅力を兼ね備えていた。白い肌と整った顔立ちはまるで彫刻のような美しさを持ち、黒の衣装がその美しさを際立たせていた。
「綺麗すぎない!?もはや妖怪レベルなんだけど!」
思わずつぶやいた瞬間、東雲先輩はこっちをまっすぐに見つめた。そのまま私の前まで歩いてきた。
「今、何て言った?妖怪はひどくない?」
東雲先輩はピクリとも表情を変えずに聞いてきた。
「あっ、いや、誉め言葉です。人智を超えた存在みたいな…」
東雲先輩は同じ表情のまま、じっとこちらを見つめていた。
「すみませんでした!何でもするので許してください!!」
「何でも?」
東雲先輩はやっと表情を変えた。
「じゃあ、明日9時、東門の前に集合ね。」
何が起こったか分からないまま歩き去った東雲先輩を見送った。
「えっ、明日何があるの?」
これが私と東雲先輩との初めての会話である。
喜々怪々 @kurokiG
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