　私のお母さんは悩み多き人だ。

　レストランに行っても、目移りして食べたいものを決めるのに二十分かかる。

　今日はそんなお母さんと夕飯の食材を買いに来た。

　お母さんは例に漏れず、もう十五分もスーパーの鮮魚コーナーでふたつのパックを見比べていた。

「ねえ、どっちがいいと思う？」

「なんでもいいよ」

　待ちくたびれて返事がおざなりになっているのは許してほしい。

「なんでもいいがいちばん困るのよ。作る方の身にもなってみなさい」

「だって……」

　お母さんの悩みの種は『夕食のお好み焼きをイカ玉にするかエビ玉にするか』だから。

　いっそ二つとも買ってミックスシーフード玉にすればいい。

　私が提案すると両方はお金の無駄と言う。

　悩み抜いた末、お母さんが選んだのはチラシ特売の豚肉だった。あの十五分はなんだったのか。

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