第十三章
親子飛行機を降りてからタクシーに乗り、白とベージュで統一された洒落ていながらもシンプルな町に着くと今度は馬車に乗り換えた。
小川に架けられた小さな橋を渡り、洒落た家がポツリポツリと並ぶ、のどかな田舎道を馬車に揺られながらトニーは外を見ていた。
風はなく、穏やかな早朝の空気は澄んで居て朝日は淡いブルーグリーンの湖に白樺の木々を鏡面反射させている。
「綺麗な湖だね」
「そうね、絵になるわね…変わらないわ。ここに来るのは、もう二十年ぶりくらいかしら…」
白に近い淡いグリーンの一軒家の前で馬車は止まった。
エリザベスの生家に着いたトニーは家を見渡した。
「大きな家だね」
「トニーは初めて来るのよね。どれでも気に入った部屋があったら自分の部屋にしていいわよ」
「やった♪ありがとうママ」
トニーは家に入ると探検を始めた。
「後で街に出て買い物しましょう。食料を調達しないと」
キッチンでお茶を飲みながらエリザベスが言う。
「ずいぶん綺麗だね。電気も水道も通っている。帰ってくるの久しぶりなんだよね?」
トニーは椅子に腰掛けキッチンを見渡しながら言った。
「信頼出来る業者に頼んで時々掃除してもらっていたの。これからは自分でしなくちゃね」
「そうなんだ。俺、車の免許とろうかな」
「まぁ…トニー、いいけど、とりあえず少しの間は、ゆっくり休んで欲しいわ」
「うん。落ち着いたら学校にも行ってみたいよ。俺、簡単な読み書きしか出来ないから。アイドル時代めちゃめちゃ忙しかったからさ」
トニーはコーヒーを飲んでクッキーを食べながら言った。
──俺、学校に行きたいって前にも考えたことあった気がする…トニーは思ったが、ボンヤリと霞がかっているような感じでキチンと思い出せなかった。
「そう、そうね…手続きしましょう」
エリザベスが涙ぐんだ。
「ママ、なんで泣くの?」
「私、ちっとも母親らしいことしていなかったなって改めて思ったの…仕事、仕事って。トニーに会うのだって…何年振りかしら」
「そんなことないって!俺は思うよ。ママは、記憶を失くした俺を心配して会いに来てくれたじゃない。会うのは久しぶりだけど時々電話してくれていたじゃん。それにお互いに忙しかったんだから。これから俺と暮らすって考えてくれたじゃん」
エリザベスは何回も頷き涙を流した。
「そろそろ買い物、行こう。俺、ディナー作るよ」
親子は再び馬車を呼んで街に買い物に行った。
真っ暗な闇の中…死者の魂が行き場を求めてさ迷う空間でエドワードとレイモンドがかき集めたジェシカの魂の欠片は悲しげな光を放っていた。
「ぜんぶ集まったよね…」
と、レイモンド。
「うん…たぶん」
エドワードは暗闇を見渡しながら答えた。
絶望と悲しみで粉々になり暗闇の中を夜空の星のように散りばめられていたジェシカの魂の欠片。
散らばった欠片を全部集められる頃にはトニーの悲しみも癒えて彼女の魂を天国に送れるだろうと思っていたが…
かき集めた欠片は悲しげな光を放つだけで何も変化は起こらなかった。
「これは、僕が悪いんだ」
欠片の傍にしゃがみ込んだレイモンドが言った。
「いや、僕がトニーに渡した欠片がないからかもしれない」
と、エドワード。
「いや、僕が、あんなことをしなければ彼女は生きていた。こんなに粉々になって…すべて僕の責任なんだ。たぶん、ここで、この欠片を守っていないといけないんだ」
「レイモンドだけの責任じゃないじゃないか。レイモンドだって被害者だ」
エドワードがレイモンドの隣に座った。
「違うよ。エドワード…すべての始まりは僕が母さんの言いつけを守らなかったからだ。大丈夫。きちんと彼女の魂をここで守るから」
──どのくらいの長い期間で、ここで守ることになったとしても、それが少しでもジェシカへの償いになるのなら──と、レイモンドは考えていた。
「レイモンド、僕も一緒に居るよ」
エドワードは自分自身の魂の行き場が解らなかった。
ここで長い間苦しみ悲しんでいたレイモンドの魂を見つけて、呼び掛けたけど自分の声ではレイモンドは気づいてくれず、彼を狂気に貶めたアーリットが現れレイモンドの魂の中に取り込まれるようにして彼女は消えてレイモンドは正気を取り戻したけれど…
それでもジェシカの魂が粉々になったまま元に戻れないことに責任を感じているレイモンドの魂と一緒に、ここでジェシカの魂の欠片を守るのが宿命なのかもしれない。
エドワードはレイモンドの肩を抱き寄せた。
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