第2話原作チート

「この世界の魔法は、属性、無属性、固有魔法の三種類……だったな。」 


レオンは静かに息を吐き、手元の資料を眺める。目の前の分厚い魔法理論書は、原作ゲーム『エターナル・セイヴァーズ』に忠実だった。 


魔法の基盤は四大属性――火、水、土、風。それに加えて、すべての属性に属さない無属性魔法が存在する。身体強化や魔力感知といった基礎的な技術がこれに含まれる。 


だが、この世界で最も特異なのが「固有魔法」。ごく一部の人間にだけ宿る特殊能力で、遺伝や環境により発現が異なる。 


「そして俺の固有魔法、オルディナンス・クラフトは、物質を操作して錬成する力……だったな。」 


レオンは机に置いた小さな鉄の塊を指で撫でる。その瞬間、塊が滑らかに溶け、細い針状の形へと変わる。 


「物質を自在に変化させる……これが俺の武器だ。」 


原作では、この能力が「強力だが無駄遣いされている」と評されていた。ゲームの中のレオンは、この力を活かすどころか、贅沢品や趣味の品を作るだけで終わっていたからだ。 


「だが、俺は違う。この力を領地改革に使ってやる……。」 


 


 


執務室を出たレオンは、廊下を歩きながら使用人たちの様子を観察する。すれ違うメイドたちは目を合わせず、必要以上に距離を取る。 


「お、おはようございます、レオン様。」 


声を震わせながら頭を下げるメイドに、レオンは軽く頷くだけで応じた。それだけで彼女は再び小走りで去っていく。 


(……これが前の俺の評判か。) 


転生する前の「レオン・アークベルン」は、使用人たちに対して横暴だった。些細な失敗を責め、苛立ちをぶつけるような態度を取っていたらしい。その爪痕は深く、今の彼が何もしていなくても恐れられている。 


「……少しずつ、変えていくしかないな。」 


軽く眉間を押さえ、気を取り直すように歩を進めた。 


 


 


オークション会場に向かう途中、長い廊下の先から一人の少女が歩いてくる。 


「……リーゼ。」 


妹、リーゼ・アークベルン――父親と同じ冷徹な性格で、領地改革に無関心な兄を嫌悪している。いや、それどころか「役立たずの兄」と公然と言い放つほどだ。 


リーゼはレオンに目を向けることなく、すれ違おうとする。その横顔は冷たいが、どこか影のある瞳をしているようにも見える。 


「リーゼ。」 


レオンが呼びかけると、彼女は一瞬だけ立ち止まった。 


「何か用?」 


声には棘がある。 


「いや……何でもない。」 


レオンは言葉を飲み込んだ。 


彼女はそのまま廊下を歩き去る。その後ろ姿を見送りながら、レオンは心の中で誓う。 


(あいつが俺を見直す日が来る。いや、来させてやる。) 


 


 


オークション会場は領主や富裕層たちで賑わっていた。大広間の中央に設置された競売台には、次々と希少な品が並べられていく。 


「次の出品物は、精霊鉱石――魔力を増幅する希少鉱石です!」 


オークションの進行役が高らかに宣言すると、会場がざわめいた。 


(精霊鉱石……あれが必要だ。) 


レオンは競売台を見つめる。『エターナル・セイヴァーズ』の知識によれば、この精霊鉱石は鑑定魔道具「アーカナ・スコープ」のコア素材だ。 


「入札を開始します!」 


「一万リフ!」 


「一万五千!」 


次々に金額が叫ばれる中、レオンは冷静に様子を見ていた。 


「五万リフ!」 


「六万!」 


他の貴族たちが競り合う中、レオンはゆっくりと手を挙げる。 


「十万リフ。」 


会場が静まり返る。その金額は、普通の貴族が簡単に出せる額ではない。 


「十万リフで他にご入札は――」 


「落札!」 


レオンは落札の宣言を聞き、内心で拳を握る。 


(よしっ……これで素材は揃った。) 


 


 


屋敷に戻ったレオンは、精霊鉱石や他の素材を並べ、錬成に取りかかった。 


「まずは鉱石を魔力の流れに合わせて砕く……次に、千里眼の水晶を……。」 


固有魔法「オルディナンス・クラフト」を発動すると、素材が滑らかに溶け、次々と形を変えていく。 


「そして、これを融合させ……。」 


光が弾け、錬成の工程が終わると、小さな魔道具が完成した。それは透明なレンズが取り付けられた単眼鏡のような外観をしている。 


「アーカナ・スコープ、完成だ。」 


彼はそれを手に取り、窓の外に目を向けた。魔道具を通して見ると、庭園の植物や地面の魔力の流れがくっきりと浮かび上がる。 


「これで、隠された才能もすべて見抜ける。」 


新たな一歩を踏み出した気分に、レオンは小さく笑みを浮かべた。

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