夕暮れゴースト
久火天十真
序
「ドッペルゲンガーって知ってる?」
夕暮れの校舎。茜色に染まる教室でふたつの影がゆらりゆらりと動いている。
そのうちの一つがそんな言葉を放った。
「えー。知らないよー」
もう一つの影は答える。
「あのね、あのね!ドッペルゲンガーっていうのは、同じ顔したもう一人の自分のことなんだって!」
「もう一人の自分ー?」
「そう、そう!それでね!それでね!そのドッペルゲンガーと会うと……3日後に死んじゃうんだって……!」
一つの影が陽気な口調で怖いことを言う。
ただそれを聴いたもう一つの影も面白そうに高い声で返す。
「えー!こわいー!」
「それでなんでそんな話するの」
「ふふっ。実はね、現れたんだって。この街にドッペルゲンガーが!」
テンションがどんどん上がっていく。影が踊るように跳ねている。
「きゃー!こわいー!」
心にもなさそうなはしゃいだ声が響く。
「おーい!もう帰る時間だぞー!早く帰りなさいー」
教室の二つの影にもう一つが加わり、そう言って去っていく。
「帰ろっかー」
二つの影が教室を出て、夕焼けの茜色の中に溶けて消えていった。
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