絶対☆童貞死守ハーレム

ハミー

第1話 平和な世界に召喚された

「おいヒロシ! 今日こそ『コヅクリ』とやらをわしに教えろ! 快楽を寄越せ!!」

 勢いよくドアを開けた巨乳少女は、ズンズンと迷いのない足取りで俺に近づいてくる。ずぅんと沈む胃を軽く手で抑え、俺はため息をつく。

「ローザさん、前にも言ったじゃないですか。そういうことは元の世界に戻ってからしたいんです」

「知らん! 『コヅクリ』するぞ!」

 嗚呼、どうしてこんなことになったんだ。どうして俺は、異世界に召喚されてしまったのだろう。

 よりによって、初めてできた彼女とのお泊りデート当日に。


「恋人か……。良いだろう、なってやる」

 そんなぶっきらぼうな言葉を皮切りに、俺と羽田さんの交際は始まった。

 それからいろんな所へ出かけて、いろんな物を見た。お付き合いなんて未経験だった俺を、羽田さんは笑いながら引っ張ってくれた。

 お付き合いが一ヶ月が経った頃のこと。俺と羽田さんは図書館に出かけていた。適当な本を手に取り、テーブルで向かい合わせになる。すると彼女は本から目を逸らさないまま何気なくこう言った。

「私の家に泊まるか?」

 「そろそろ昼ごはんにするか?」ぐらいの口調だった。

「え、あ、はい」

 だから俺も軽い返事をしてしまった。その後すぐに彼女の言葉を頭で理解し、そして冷や汗をかく。

「えっ、えっ!?」

「なんだ、来ないのか?」

 彼女は意地悪い笑みをたたえている。からかわれていると分かり、頬に熱がじわじわ集まっていく。

 これはどう返事をすれば良いのだろうか。羽田さんは馬鹿じゃない。それどころか秀才だ。自分の家に彼氏を招くことの意味を知らないわけがない。でも、それってつまり……。

「い、良いんですか?」

 絞り出した声は震えていた。よほど面白かったのか、羽田さんは吹き出し、ダンダンとテーブルを両手で叩き始める。ますます恥ずかしくなったが、何も言えない。一通り爆笑し終えた後、彼女は息を吐きつつ俺を見た。

「ああ、良いぞ。なぁに、ちゃんと意味は分かってるさ」

 ニッと上がった口から覗く白い歯に、異様の知れない感覚が背中にせり上がる。

「さて、私は先に帰って片付けをしておくから。君は後で荷物をまとめて来るといい。準備も必要だろうからな」

 彼女はそう言って立ち上がったかと思うと、指で何かをつまんで歯で千切るような仕草をした。それが何を指しているのか理解し、全身が熱くなる。ケラケラと悪女のように笑いながら、羽田さんは図書館を去っていった。


「はぁ……」

 恥ずかしさを振り払うように首を振りながらコンビニを出る。右手には先程買ったばかりの避妊具が入ったレジ袋。

 ああもう、羽田さんはどうしてこうも急に話を進めるのだろう。前々から言ってくれていれば、通販で買うこともできたのに。レジに品物を置いた時のいたたまれなさを思い出して、慌ててかぶりを振る。いやいや、尻込みしちゃダメだ。初めての彼女との初めてのお泊りなんだ。気合を入れなくては。

 頬をパンパンと叩き、さあ行くぞと一歩目を踏み出した、その時だった。

 紫色に発光した魔法陣が俺の足元に現れたのは。

「え? は?」

 困惑している間に白い光が全身を包んでいく。マズい、と思ったのも束の間、唐突に訪れた眠気に抗えず、俺の意識は一瞬で消えた。


 ふかふか。温かい。これは日差し……? 今日曇りじゃ……。

 意識が覚醒しかける中、とりとめのない思考が脳内を駆け巡る。三秒ほど経って、ハッと我に返った。目を開けると同時に身体を勢いよく起こす。此処はどこだ? どうやらベッドの上のようだが……。

「お目覚めですか」

 ヒッと情けない声を上げながら声のした方を振り向くと、疲れたサラリーマンのような中年男性が椅子に腰掛けていた。何やら資料に目を通しているらしく、俺には目を向けていない。

「え、あの、此処は一体」

「……此処はリソー。と言っても分からんだろうな。君の世界で言う『異世界』だ」

 男性の言葉に、俺はパチパチと瞬きをする。え? 異世界?

「え、え、つまり、その、召喚、みたいなことですか?」

 混乱で声が上ずる。しかし男性はピクリとも笑わず、真剣な眼差しで俺を見て頷いた。

「飲み込みが早くて助かる。そうだ。君にはある使命を果たして貰うため、召喚させてもらった」

 その重厚な声音に思わず背中に汗が滲む。異世界。召喚。使命。

 心を渦巻く不安と、ほんの少しの期待を抱きつつ、俺は身体を前に傾ける。

「あの、それって、魔王討伐だったりしますか?」

 男性は一瞬キョトンとして、ハハッと乾いた笑みを浮かべた。

「何を言ってるんだ。魔王はいない。数十年前倒されたからな」

「へ?」

 俺は目を大きく見開く。間抜けな声が出た気がするが、仕方ないだろう。

 だって、魔王のいない異世界に、召喚なんてどういうことだ……?

 

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