第28話
「あちゃ~、死神をどうにかしてもらうために短剣を渡したが、もっとやばいことになっちゃったな」
あっはははは、と能天気に笑う。
まぁ、ディナはちゃんと死神を倒してくれた。手段はともかくとして、結果は出したわけだ。
「……ざ、ざ、ざ、ざ……」
膝を崩しているマリスが声を震わせる。何か言おうとしているみたいだ。
「ざ?」
聞き返すと、マリスは素早く顔をあげてきて、涙をいっぱいに溜めた目で見あげてきた。
「ザインさんのせいだぁああああああああああああああああああああ! ぜんぶぅ、ぜんぶぅ、ザインさんのせいだぁあああああああああ! ザインさんがぁ、ザインしゃんがあぁ、あの短剣を渡したからあぁ! これでもうぜんぶおしまいなんだぁああああああああああああ!」
ギャアギャアと泣きわめきながら、こっちを指差してくる。
どうやらマリスは精神が崩壊する一歩手前まで来てしまったらしく、俺に責任を転嫁しないと現実を受け止めきれないみたいだ。
「いや、それは……」
なぜこんな最悪の事態になったのか、よくよく思い返してみると……。
……ホントだ。俺のせいだ。
死神が出現してやむなしとはいえ、短剣をディナに渡してしまった。短剣を渡しさえしなければ、こんなことにはならなかった。三人まとめて死神に殺されていたほうが、犠牲者は少なくて済んだはずだ。
もっとも、時間をさかのぼって同じ選択を迫られたとしても、行動を変えたりはしないが。俺は俺が生き残るために最善を選んだまでだ。
「そうだな。やらかしたなら、責任を取らなくちゃいけないな」
あんなのに地上をめちゃくちゃにされては困る。
「ザ、ザインさん?」
笑っている俺を見て、マリスは目をぱちくりとさせる。
「ど、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか? もう終わりなのに……」
マリスは泣き腫らした目を向けてくる。その表情は疲れきっていて、声には力がなかった。
「マリス。俺がいま考えていることがわかるか?」
「ふぇ?」
だしぬけな質問に、マリスはあんぐりと口を開ける。
「帰ったら宿屋でぐっすりと休んで、読みかけの小説を最後まで読もうと思っている」
「な、なにを言って……」
「ここで終わる気なんてさらさらないし、ちゃんと地上に帰るってことだ」
これから俺が何をするつもりなのか気づいたようで、マリスはビクッと背筋を震わせて色めき立った。
「ザ、ザインさん! まさか!」
マリスは見たくもない不死の王に視線を向けると、慌てて俺のほうに視線を戻してくる。
「そ、そんなの無茶ですよ! そんなことしたって……!」
状況がくつがえることはない。マリスにはそれがわかっている。不死の王を目の当たりにして、戦意を持つこと自体がまちがいだと。アレをどうにかするのは不可能だ。
「まぁ見てなって。大丈夫、大丈夫。そんなに時間はかかんないから」
余裕たっぷりの笑みを浮かべると、マリスはポカンとなっていた。
「ザ、ザインさんが……おかしく、わたしよりも先に頭がおかしくなっちゃった……」
マリスは左手を頬にくっつけて顔をうつむかせると、ブツブツと呟いてくる。
どうやら心が壊れたと勘違いされているみたいだ。そう誤解されても仕方ないくらいに、俺の言動は信用に足らない。こんなニヤニヤしている胡散臭い男は信用されなくてしかるべきだけど。
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