第4話 アストロイア視点 特典は女神の同行です♡

「もうちょっとお話、したかったな………」


行ってしまいました。

女神の力をフルに使って繋ぎとめようとしてみましたけど世界の理の前では叶いません。

これが限界でした。


「初めて優しくされた、気がします………」


胸の前で両手を宛がい気がつくとまるで祈りでも捧げるようなポーズになっていました。

ダメダメとはいえ私だって女神の端くれ。

誰に祈ろうとしていたのでしょう?


「嬉しかった、です………」


解放されたプレゼントと言わんばかりに床で気絶したままのナリス様………をただぼんやりと見つめながら考えることなんか先ほどまでここにいた彼のことでした。


「白本蛍様………でしたよね」


女神である私が人を様付けで呼ぶのはおかしいのでしょうか?

でも彼には………蛍様はそれに申し分ない素敵な方だって私は思っています。

突然、知らない真っ白な空間へ連れて来られたわけのわからない状態。

さらにパワハラの現場に遭遇したなんて彼の立場からしたら悪夢でしかなかったでしょう。


しかしそんな中、彼は私を助けてくれました。

並大抵の勇気で為せるものでは決してありません。

目の前に困ってる人がいたら誰であろうと助けるヒーローも、突然刃物まで使って脅しかけてくる人を撃退するなんて。

しかもそれが赤の他人のため、なんて無理な話です。

小説の主人公だってかなりの迷う場面だと私は思います。


「許されてしまいました………」


しかし彼は、蛍様はそんな中でも私に救いの手を差し伸べてくれた。

おまけに優しい言葉までかけていただきました。

助けていただいたことはもちろん、物凄く嬉しいです。

けれど私が心からそう思っている理由は外にありました。


「私なんか叱責して、貶して、気の向くままいたぶってなぶっても何も言えない立場のクズなのに………」


問題はその後。

わたしが蛍様を連れてきた一連の詳細について説明する時でした。


「あれをあんなあっさりと水に流すなんて………」


百年近くパワハラに遭っていました。

しかしそれは彼の立場からしたら知ったことではないことであり、諸悪の根源は結局私になります。

だって、経緯はどうあれ蛍様のこと殺めて無理矢理連れてきたのは私ですから。

ひどい目に遭いたくないからって自分勝手な理由で彼に酷いことして巻き込んだ言い訳の余地など皆無な完全な私の罪ですから。


文句の一つや二つどころか気の向くまま酷い言葉が浴びても、殴られても、そういう酷い目にあっても文句なんか口には決しできないでしょう。

しかし彼は、蛍様は違いました。

あっさり水に流すどころかナチュラルに私のことも慰めた上に冗談までかけていただきました。


「ストちゃんって、呼ばれちゃいました………」


おまけに素敵なあだ名まで付けていただきました。

あだ名で呼ばれたのって何年ぶりでしょうか?。

あの後も優しい言葉までたくさんかけていただいて、可愛いなんて言われちゃいました。


「こんなの………こんなの、夢中になるなって方が無理ですよぉ………」


あの短い間ですっかりメロメロにされてしまいました。

だって、助けていただくばかりか優しい言葉までかけられて終いにはか、可愛いなんて………。


「私の世界なら安心なんて、女神だから惚れないとでも思ってるのでしょうか」


とても短い出会いの中、トドメはきっとこの言葉でしょう。

ただただ優しい言葉をかけていただいただけでもおかしくなりそうなのに女神として最上級の誉め言葉を頂くなんて。

しかも罪人風情の私がそのようなお言葉を?

こんなの惚れるに決まっています。


「他の女の子に取られちゃう………?」


当たり前なこと言わないでください駄女神。

という言葉が自ずと浮かびました。


「当然ですよね。こんなにも優しくて、芯がハッキリしてて、カッコいい方です。女子たちが放っておくはずがありません」


魂の状態でしたのでもちろんハッキリとした外見とかはありませんでした。

しかし蛍様は外見なんかよりもその心がカッコいいんです。

予想外すぎる時だって己の信念を貫く強さも兼ね揃えています。

こんなの放っておくはずがありません。


「ど、どうすればいいんでしょうか………嫌です。蛍様が私以外の女性と結ばれるなんて………」


想像しただけで悲しみやら怒りやら羨ましさやらの感情が綯い交ぜになって奔流になって胸の奥がぐちゃぐちゃです。

たった数秒ほど想像しただけで体調に響くほど気持ち悪くなりました。

百年ほど続いたパワハラよりも苦しいような気さえしてきました。


「な、何か方法はないんでしょうか………?」


バタバタしながら脳内フル稼働させます。

その結果、一つだけ方法はありました。


「転生した蛍様の世界に………ついていく、のはどうでしょう」


不意にそんな言葉がポンと浮かびました。

自分の管理する世界に直接行けないって神の掟で決まってないはず。


「それに………パワハラの件も報告しましたし」


ナリス様が倒れた時、神のネットワークにアクセスできる権限が復活していました。

今までどうしてナリス様を通して報告したのか、どういう状況だったのか事の成り行きを嘘偽りなく報告しています。


「ではついて行った後のことになりますけど………」


ふとそこで姿見を呼び出し今の自分のナリを確認しました。


「………クソダサいどころかキモすぎですね」


水ぼらしいとはまさにこのことでしょう。

見苦しい自分の姿におのずとそんな罵詈雑言が口から出ていました。

長年のパワハラによるぼさついた髪に疲労困憊が訴える目の下のクマ。

身体も幾分かやつれていました。


「こんなのついて行ってもお荷物だってポイ捨てに決まってます」


ヤリ捨てならまだしもポイ捨て。いえ、完全無視もあり得ます。

自分の姿ながら本当酷い格好だって改めて気づきました。


「こんなの土俵にすら、立てません………」


それどころかスタートラインにすら条件未達成で即引きずりおろされてしまいます。

どうすればいいんでしょう?

どうすればあのお方の心が私に向けられるのでしょう。

どうすればかっこよくて美しい蛍様のこと————————————独占できるのでしょう。


「誰も、気づかないようにすれば………?」


あんなカッコいい男子、女性からしたらカッコの獲物です。

ならハナから男に見えないようにすればいいのではないでしょうか。


「見た目をとっても可愛い女の子っぽくすれば女性からは狙われにくいはず、ですよね………」


声も大変かわいらしく仕上げましょう。

そしたら誰も男の子として見てくれないって心細くなって唯一、本当の自分を知っている私に頼ってくるはず。


「………催眠はどうでしょうか?」


けれどそれだけでは心もとない。

とっても素敵なお方です。外見と声が多少変わったくらいで女子から狙われないなんてかぎりません。

最初から恋人って設定にしてしまえば、私以外の可能性を閉ざしておけば………。

私と蛍様の二人三脚にしかならない………?!


「いいね、そうしましょう。ふふっ」


蛍様に授けると約束した特典は“女神である私の同行”にしちゃいましょう。

ああ、今の私は女神がしちゃいけない顔をしていると思います。

でもこれは心が弱いくせに恋焦がれてしまった私のせい。

そんなわたしをメロメロにしたあなたのせいでもあります。


「待っててくださいね。私だけの神様♡」

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